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しおりを挟む「レティシャ!」
「………っ!」
会談場所であった、国王の応接室。
国王、オルデンはレティシャの姿を見るや否や、座っていたソファから立ち上がる。
「よく顔を見せておくれ、レティシャ……良かった……お前が無事で………」
「…………うっ……」
傍に来ると、オルデン国王はレティシャを抱き締めて、存在を確認する。
「………陛下、わたくしにもその権利はあるかと思いますが?」
ゆっくりと後からレティシャに近付くダーラ王妃。涙ぐみ、指で涙を拭う姿は聖母の様に慈悲深い。
「父上、先達て申しましたが、レティシャの声は………」
「………うむ……国一番の名医を探させている。レティシャの美しい声を奪った輩め……必ず極刑にするぞ……ダーラも抱き締めたいのだろう?思う存分、レティシャを確認せよ」
「…………レティシャ……わたくしの可愛い娘……あぁ、なんて痩せ細ってしまって………頬は血色の良い娘だったのに……」
「………」
実子でも無いのに、慈悲深い義両親に会えた喜びはひとしおだった。ポロポロと涙が溢れ、レティシャは泣き崩れる。
「父上、母上、座りませんか?レティシャの代弁は私が致します」
「………そ、そうだな」
「えぇ………リーヒルも、よくレティシャを見つけてくれたわね」
「当然の事をした迄です……レティシャにも聞かせなければな、何故私がお前の居場所を探り当てたのか、を」
「………」
長くはなりそうな話だが、昼食前に話したいというリーヒルに合意し、この場が設けている。
レティシャもリーヒルの隣に座り、用意されたお茶を目の前にして、家族4人の時間を懐かしむ。
「二年前の事故の日、レティシャは公務で隣街に行く馬車に乗っていた。そうだな?」
「………」
「公務という事もあり、警護も慎重にされなければならなかった筈で、その様に私も気を配っていたし、信頼する部下達を警護に当てた筈だった」
警護をする道筋、場所には最善の注意を払う事は鉄則だった。
「しかし、あの当日、レティシャが乗る馬車は急遽変更させられていたんだ」
「………」
当日迄に、修繕が必要か如何かを確認し、修繕が出来なければ別の馬車になるのは当たり前の事だ。
それに、馬車は各一台ずつ、専用馬車がある。当日、レティシャも専用馬車に乗っていたのを覚えている。
『わたくしが乗っていた馬車は、専用馬車では無かったと?』
「な、何て言ったのだ?リーヒル」
「レティシャは、当日の乗っていた馬車は専用では無かったのか、と………父上、レティシャの言葉は逐一、私が伝えますから」
「う、うむ……」
「話が脱線しない様にお願いします。それに事故の事は父上もご存知の筈。レティシャが知らないので話しているのです」
『お義父様に申し訳ありません、と』
「レティシャ、それは後にしなさい……父上は親馬鹿なんだ。そんな事を伝えたら泣いてしまう……今は事故の事や経緯を話したい」
脱線してしまうこのやり取りに、ダーラ王妃もオルデン国王を宥める。
「陛下もレティシャも、リーヒルの話を聞きましょう」
「分かっている」
「………」
「…………ふぅ……専用馬車に模した馬車だったんだ。それに細工をされて、隣街に着く迄の道筋で、故障が起きる様になっていた」
「!」
その故障した馬車を停車させ、修繕を試みようとしていた事をレティシャも覚えている。しかし、修繕出来たと再度出発して事故に遭ったのだ。
「落石による事故だった。山道手前で修理中の馬車を確認させ、山道で落石を起こす手筈になっていた。首都と隣街は往来も多い。間違えて別の馬車を危険な事に巻き込まれるのを避けていた意図が見受けられるんだ」
「………」
「と、言う事は御者、護衛、侍女、何れかに、事故に見せかける為の内通者が居ると考えて、レティシャ以外の者を探っていた。当日、1人だけ体調不良で交代した者が御者に居たのを見つけ、休まざる得なかった者迄聞く事になった。レティシャ以外、死亡していたからな」
レティシャは、意識を取り戻す時、身近に居た侍女や護衛、御者の姿が見られない場所で目を覚ました。何日意識を失っていたのかは分からない。ただ、ベッドの上で、身体中が痛く、意識を朦朧とさせ、起き上がる迄何日も経過した時、声が出なくなっていた事に気が付いた。
侍女は何処に居るのか、とレティシャを世話する者にも聞いたが、レティシャは1人で倒れて居たから、と教えられ、何とか城に連絡を取って貰えないか、と筆談したが、一向にしてもらえなかった。
気が付けば、寝ている時に場所を移動されている事が分かったが、世話する者は変わらず献身的に世話をしてくれていた為に、レティシャも次第にその者を信用するしか出来なくなっていて、傷が癒えた時には娼館に入れられた、とレティシャはリーヒルに文字で教える。
「…………うん……知ったのは、つい最近だ……そのレティシャを世話した者は、人伝に雇われて大金を手に入れた医者だ。その者は今牢獄に居る」
「………」
「何故泣く?レティシャ」
『彼等は、わたくしの生命を助けてくれた人ではないのですか?何故、牢獄に』
「その者達が、レティシャの声を奪った者だと言ってもか?」
「…………ゔっ……」
「リーヒル!レティシャを泣かせるな!」
「父上、牢獄した医者達に手当てをして貰ったのに、何故投獄するのか、と言われたから、真実を教えたんです」
「…………レティシャ、お前が優しい娘なのは分かるが、彼等は犯罪を犯した……分かってくれ」
「…………」
レティシャはリーヒルやオルデン国王の言う事も間違えてはいないのが分かるからか、頷くしか出来なかった。
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