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しおりを挟むレティシャ以外は死亡していた、と聞いたレティシャ。内通者が居た事も探れていて、その内通者さえも死亡していた、と言うリーヒルの言葉を思い出す。
『当日の内通者も死亡した、と何故分かったのですか?』
「それは、事故怪我らしい打撲や骨折以外の怪我が見られたからだ。恐らく、事故後皆生きていて、レティシャを連れ去ろうとする者達に立ち向かい、切られた形跡があったんだ」
「…………」
たった1人奪うだけで、それだけの生命を奪うなんて、とレティシャは身体を震え上がらせた。
「内通者はそれだけの仕事の為に生命を落としたと見る」
『酷過ぎます』
「そうだな、酷い………だが、その内通者が誰か分かったから調べて行けた。それでも二年も掛かってしまったが……根本的な犯人迄はまだ至ってはいない」
「見つけてみせる……だから、レティシャは安心していればいい」
「………」
だが、回り回って指示を出した者迄は辿り付けていないのも事実で、安心等出来る筈は無かった。
「所で、父上」
「何だ?」
「レティシャも帰って来たのです。結婚式を挙げても良いでしょうか?」
「お、お前………まだ犯人も見つかっていないのだぞ!」
「待てません……元々、レティシャの成人になる歳に合わせて式を予定しようと、話をしていたではないですか。今、レティシャは17歳。2ヶ月後に18歳になります。今から準備しても間に合いませんよ」
浮かれた声で、レティシャの肩を抱き寄せ、リーヒルは沈んだ空気を変えた。
「リーヒル」
「何ですか、母上」
しかし、ダーラ王妃はお茶を手にしながら、ゆっくりとリーヒルに語り始める。
「時期尚早ではないですか?レティシャは戻ってきたばかり。こんなに痩せ細って、体型も以前に戻さねばウエディングドレスも似合いません。髪もそう………艶も無く傷んでいるではありませんか………可哀想に……そんな姿で一番美しくなる花嫁を、美しくさせなくて宜しいの?」
「………くっ!に、2ヶ月あれば戻るかと……」
「せっかちね……結婚式の準備は女からすれば、大事なセレモニーです……準備を入念にし、愛する人に嫁ぐ過程をじっくり噛み締めながらその日を待つのですよ?指折り数えながらね?レティシャにも味合わせなくて宜しいの?レティシャはわたくしの娘でもあるのです。貴方の妃になる前に、花嫁の母でもある事ぐらい、分かって欲しいわ」
「………わ、分かりました………父上の仰る通り、犯人探しに専念します」
「えぇ、それが良いでしょう……それ迄はしっかり避妊しなさいね」
リーヒルもオルデン国王もダーラ王妃の言葉は納得させられた。
義理とはいえ、娘だ。可愛がって育てたと自負するオルデン国王は、やはりレティシャを美しく送り、見届けてまた新たな娘として迎え入れたいのだ。ダーラ王妃の言葉に反対等出来ない。
「リーヒル、隣の部屋にレティシャを迎えたのだ。節度ある行動せよ」
「わ、分かってますよ」
オルデン国王もダーラ王妃もレティシャが今迄居た場所は聞いている筈だ。レティシャはそう思い、リーヒルの手に文字を書く。
『わたくしが娼館に居た事はご存知ではないのですか?』
「知っている………だが、私がそれでもレティシャに傍に居て欲しいんだ……レティシャが純血ではない事は仕方ないし、結婚の条件にそれは重要視されてはいない事は、レティシャも知っているだろう?」
「………」
「レティシャ、辛かったろう……せめて、声は戻してやりたい、と思っている……」
レティシャはオルデン国王の言葉に涙が込み上げる。ソファから立ち上がり、オルデン国王の横に来ると、手を取った。
『お義父様、そのお気持ちだけで充分嬉しく思っています』
「…………レティシャ……」
優しく控えめで、思いやりのある娘がレティシャだ。
もし、レティシャが養女にならなかったとしても、その性格ならば誰からも嫌われずに、男も引く手数多だったに違いない。
そう育てた、オルデン国王やダーラ王妃の賜物とも言えるかもしれない。
しかし、それでも尚、貴族達から冷遇されるレティシャは、出自の事が一番の問題だったのだろう。
リーヒルと結婚しても、ついて回るだろうこの事は、改善点が見られるか如何か、レティシャには分からなかった。
「そろそろ、お食事にしません事?レティシャにはもう少し食べさせなければ」
「あぁ、そうだな……二年振りの家族水入らずで食事を楽しもう」
レティシャが話せないので、静かな食事の場にはなったが、笑顔が絶えないオルデン国王とダーラ王妃の顔を見ると、レティシャも安堵出来た。
「レティシャ、後で医者を部屋へ行かせる……治ると言ってくれる医者が現れる迄、余は諦めぬからな」
「………」
「父上、私も探しているのですから、被らせないで下さいね」
「お前は、犯人探しに重点を置け。二兎追って両方逃されては意味は無い」
「………では、父上にお任せします」
「うむ」
「レティシャ、また母とお茶の時間を設けてね」
「………」
優しい家族に恵まれても、やはり義理でしかなく、何処か疎外感を勝手に思ってしまうレティシャだった。
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