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しおりを挟む昼食を共にしてから、レティシャの部屋に医者が数名訪れた。
「………う~ん……皆さん如何思われます?私は殿下の声帯が切れている様に思うのですが」
「手術の腕はまぁ、大した事は無いですが、この位置に切られていると、そうなるかと」
「それで、如何なんだ!声は出る様になるのか?」
「レティシャ殿下がいつこの手術をされたかにもよりますが、発声出来る声があるなら、練習で回復は可能かと」
「練習すれば以前の様な声が戻るのか!」
「お、王太子殿下………ま、まだ練習も初めて……ません……から……」
興奮気味に医者を詰るリーヒルに、レティシャは呆気に取られる。
「王太子殿下、この手術をした医者は何処に?」
「牢獄だ………レティシャの声を奪ったのだからな……病気でも無かったにも関わらずにな」
「なんと……」
「確認させて下さい。レティシャ殿下の発声練習にも関わりますから」
「分かった、案内しよう……それで、レティシャの発声練習はいつから開始する?」
「それについては方針をまとめ、またご報告を致します」
牢獄に居るレティシャの声を奪った医者は、レティシャの馬車の事故後直ぐだったと自供した。
医者に依頼した者は、身分と名も偽り、一度しか会ってはいないと言う。しかし、手紙のやり取りと、その者の仲間と名乗る者が、確認をしに来る等、連絡は取り合っていた。だが、医者の手を離れてからは一切連絡は途絶えたと話す。
「分からないんだ!手紙も読んだら燃やせと指示があり、住所や名前に手紙を送った事も無い!いつも部下が突然現れ、場所を移動しろ、の指示ばかりだ!ただ死なせるな、とも」
医者が知っていた住所にはその名前の者は住んでおらず、近隣の住民もその様な名前の者も居なかったという事実だけ。点在した場所全て調べ尽くすが、借家でありその契約は医者の名前で借りている。
1ヶ月も定住しない転居なのと、最近の出来事の為、家主はよく覚えていた。
レティシャが医者から手放されたのは、事故から半年後。立てる迄回復したものの、体力が無くなっていたレティシャは、よく睡眠で体力回復をさせられていたらしく、眠っていた時に娼館に連れて行かれた様だった。
医者の依頼主の部下だと名乗った者が、医者の許可無く連れて行ったという。それからは医者はレティシャの事は気にはなったが、犯罪に手を貸した事もあり、国外に逃げようとした。
医者である以上、貴重な存在の為、所在地は定期的に調べられる。国外に行くと言うなら、引き止められる事も多々ある。それで、リーヒルはその医者を調べたのだ。
其処からは手掛かり等何も無い。他の医者に任されたのか、死なせるなという事を信じるなら、医者か若しくは女が身を隠せる場所を探すしかない、と娼館に目を付けた。
合法な店では直ぐに見つかる。そうなっては困る犯人は、合法ではない娼館へと隠すかもしれないと虱潰しで一年半も探し、レティシャの特徴に類似する娼婦が居れば必ず、リーヒル自身で国中駆けずり回ったのだ。
「お前は、犯罪に加担したんだ。健康な人間を、不健康にしたのだからな……一瞬でも、その人間がこのシュピーゲル国の王女だと思わなかったのか?」
「…………い、いい上等な服を纏っているから、何処かの貴族様としか………その後、王女殿下が亡くなったと、聞いてまさか、とは………」
「何故、その時に報告を入れなかった!」
「っ!…………い、生命を取られる……と……あ、あと金も……」
人間の弱みに漬け込み、犯罪に手を貸す輩は多いが、態々事故を起こさせ、大怪我の末、手当てと生き長らせる意味があるのか分からない。
殺せと指示した者と、生かせよと指示した者が同一なのか違うのか。
「ヴァンサン、話したか?」
「殿下………これと言っては何も進展は……調べた事を話すだけで……ただ、俺の推測を話すなら………」
牢獄に医者達を連れて来たリーヒルに尋問をするヴァンサンが自身のメモをリーヒルに渡す。
「………これは……お前の見解だろう?」
「おかしいので、其処に行き着きました」
「…………この件については後から話そう……レティシャの声だが出せるかもしれない……その事で医者同士話をさせる」
「本当ですか!レティシャ殿下の声が!」
「だから、少し尋問は休め」
「分かりました」
医者同士の話し合いも、リーヒルとヴァンサンは聞いてはいたが、話に割り込まない様にしていた。
「へぇ………あの嬢ちゃん、レティシャって言うのか………へへへ……いい孔だったぜ……」
「…………お前……」
同じ独房ではないが、医者と娼館の男達を投獄した部屋が近かった様だ。リーヒルとヴァンサンの会話を聞いていたらしい。
「声出ねぇが、出させてみたかったぜ」
「誰に対して物を言っている!」
ヴァンサンは剣を抜き、牢獄に向けて翳した。
「知らねぇな……お前等は俺達を切ってこんな所に押し込んだんじゃねぇか………俺達は仕事してただけだぜ?」
確かにこの男達からしたらそうだろう。だが一国の王女監禁と強姦の罪は重い。
「此処は首都だ。王城の地下牢獄……この方はリーヒル王太子殿下!貴様等が汚した方は、レティシャ王女殿下だ!」
「ヴァンサン、声を控えろ」
「し、しかし殿下……」
「へぇ~、じゃあ俺達ゃ王女の孔にぶっ込んだってのか!いい冥土の土産になるぜ、なぁ?」
「…………くっ!……ヴァンサン!扉を開けろ!」
「え?殿下?」
「いいから開けろ!」
殺気立つリーヒルに、ヴァンサンは首を横に振る。
「なりません!殿下!脅すなら兎も角、今貴方は殺気立ってます!」
「いいから貸せ!」
リーヒルはヴァンサンが持つ牢獄の鍵を奪った。
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