養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
13 / 37

12

しおりを挟む

 昼食を共にしてから、レティシャの部屋に医者が数名訪れた。

「………う~ん……皆さん如何思われます?私は殿下の声帯が切れている様に思うのですが」
「手術の腕はまぁ、大した事は無いですが、この位置に切られていると、そうなるかと」
「それで、如何なんだ!声は出る様になるのか?」
「レティシャ殿下がいつこの手術をされたかにもよりますが、発声出来る声があるなら、練習で回復は可能かと」
「練習すれば以前の様な声が戻るのか!」
「お、王太子殿下………ま、まだ練習も初めて……ません……から……」

 興奮気味に医者を詰るリーヒルに、レティシャは呆気に取られる。

「王太子殿下、この手術をした医者は何処に?」
「牢獄だ………レティシャの声を奪ったのだからな……病気でも無かったにも関わらずにな」
「なんと……」
「確認させて下さい。レティシャ殿下の発声練習にも関わりますから」
「分かった、案内しよう……それで、レティシャの発声練習はいつから開始する?」
「それについては方針をまとめ、またご報告を致します」

 牢獄に居るレティシャの声を奪った医者は、レティシャの馬車の事故後直ぐだったと自供した。
 医者に依頼した者は、身分と名も偽り、一度しか会ってはいないと言う。しかし、手紙のやり取りと、その者の仲間と名乗る者が、確認をしに来る等、連絡は取り合っていた。だが、医者の手を離れてからは一切連絡は途絶えたと話す。
 
「分からないんだ!手紙も読んだら燃やせと指示があり、住所や名前に手紙を送った事も無い!いつも部下が突然現れ、場所を移動しろ、の指示ばかりだ!ただ死なせるな、とも」

 医者が知っていた住所にはその名前の者は住んでおらず、近隣の住民もその様な名前の者も居なかったという事実だけ。点在した場所全て調べ尽くすが、借家でありその契約は医者の名前で借りている。
 1ヶ月も定住しない転居なのと、最近の出来事の為、家主はよく覚えていた。
 レティシャが医者から手放されたのは、事故から半年後。立てる迄回復したものの、体力が無くなっていたレティシャは、よく睡眠で体力回復をさせられていたらしく、眠っていた時に娼館に連れて行かれた様だった。
 医者の依頼主の部下だと名乗った者が、医者の許可無く連れて行ったという。それからは医者はレティシャの事は気にはなったが、犯罪に手を貸した事もあり、国外に逃げようとした。
 医者である以上、貴重な存在の為、所在地は定期的に調べられる。国外に行くと言うなら、引き止められる事も多々ある。それで、リーヒルはその医者を調べたのだ。
 其処からは手掛かり等何も無い。他の医者に任されたのか、死なせるなという事を信じるなら、医者か若しくは女が身を隠せる場所を探すしかない、と娼館に目を付けた。
 合法な店では直ぐに見つかる。そうなっては困る犯人は、合法ではない娼館へと隠すかもしれないと虱潰しで一年半も探し、レティシャの特徴に類似する娼婦が居れば必ず、リーヒル自身で国中駆けずり回ったのだ。

「お前は、犯罪に加担したんだ。健康な人間を、不健康にしたのだからな……一瞬でも、その人間がこのシュピーゲル国の王女だと思わなかったのか?」
「…………い、いい上等な服を纏っているから、何処かの貴族様としか………その後、王女殿下が亡くなったと、聞いてまさか、とは………」
「何故、その時に報告を入れなかった!」
「っ!…………い、生命を取られる……と……あ、あと金も……」

 人間の弱みに漬け込み、犯罪に手を貸す輩は多いが、態々事故を起こさせ、大怪我の末、手当てと生き長らせる意味があるのか分からない。
 殺せと指示した者と、生かせよと指示した者が同一なのか違うのか。

「ヴァンサン、話したか?」
「殿下………これと言っては何も進展は……調べた事を話すだけで……ただ、俺の推測を話すなら………」

 牢獄に医者達を連れて来たリーヒルに尋問をするヴァンサンが自身のメモをリーヒルに渡す。

「………これは……お前の見解だろう?」
「おかしいので、其処に行き着きました」
「…………この件については後から話そう……レティシャの声だが出せるかもしれない……その事で医者同士話をさせる」
「本当ですか!レティシャ殿下の声が!」
「だから、少し尋問は休め」
「分かりました」

 医者同士の話し合いも、リーヒルとヴァンサンは聞いてはいたが、話に割り込まない様にしていた。

「へぇ………あの嬢ちゃん、レティシャって言うのか………へへへ……いい孔だったぜ……」
「…………お前……」

 同じ独房ではないが、医者と娼館の男達を投獄した部屋が近かった様だ。リーヒルとヴァンサンの会話を聞いていたらしい。

「声出ねぇが、出させてみたかったぜ」
「誰に対して物を言っている!」

 ヴァンサンは剣を抜き、牢獄に向けて翳した。

「知らねぇな……お前等は俺達を切ってこんな所に押し込んだんじゃねぇか………俺達は仕事してただけだぜ?」

 確かにこの男達からしたらそうだろう。だが一国の王女監禁と強姦の罪は重い。

「此処は首都だ。王城の地下牢獄……この方はリーヒル王太子殿下!貴様等が汚した方は、レティシャ王女殿下だ!」
「ヴァンサン、声を控えろ」
「し、しかし殿下……」
「へぇ~、じゃあ俺達ゃ王女の孔にぶっ込んだってのか!いい冥土の土産になるぜ、なぁ?」
「…………くっ!……ヴァンサン!扉を開けろ!」
「え?殿下?」
「いいから開けろ!」

 殺気立つリーヒルに、ヴァンサンは首を横に振る。

「なりません!殿下!脅すなら兎も角、今貴方は殺気立ってます!」
「いいから貸せ!」

 リーヒルはヴァンサンが持つ牢獄の鍵を奪った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...