養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 それからのリーヒルが行った事は悲惨な光景だった。
 犯罪を犯した者は、取り調べてのちに裁判が行われる。だが、リーヒルは牢獄している囚人達を、裁判の前に罰を与えたのだ。

「ギャー!助け……止めろ!」
「痛ぇよぉ!死んじまう!」
「殿下!お止め下さい!」

 ヴァンサンの静止も聞かず、夜叉の如く殺気立ち、リーヒルは剣を振った。

「はぁ………はぁ………殺されたくなければ動くな!」

 男達は股を押さえ藻掻き苦しんでいった。

「ヴァンサン!医者に手当てさせろ!」
「え?………は、はい!」
「切ってやった……」
「………は?」
「こいつ等の生殖器を切った……これで泣く女達が少しでも減れば良いがな」
「…………あぁ………ですが、殿下……ヤり過ぎです……心情はすっごく理解出来ますけど、俺もあんな事されたら男としてのプライドがメッタ刺しになりますよ」
「だから切ったんだろ………風呂に入ってくる……卑劣な男達の血を浴びたからな、こんな姿でレティシャの前に居たくない」
「後は俺に丸投げか………」
「…………嬉しいだろ?私の尻拭い」
「嫌ですよ」

 騒ぎに、青褪めた医者達や、見張り兵士達は自身の股を手で押さえていた。
 この事は箝口令を出したリーヒル。娼館の男達の股の被害は、拘束する際の怪我だという事に置き換えられた。
 裁判で例え、男達がボヤいても、男達の所業に賛同はされ難いだろう。

「レティシャ」

 血の付いた身体を洗い流し、リーヒルはレティシャに会いに来る。

『わたくしの声は如何なりますか?』
「それは、医者達と今後の治療方法が決まってから話す事になると思う」
「………」
「何を読んでいた?」
『二年前と変わっているか如何かを確認しておきたくて』
「貴族名鑑か……代わり映えはしないな……成人した者達を覚えるぐらいだろう」
「………」
「ん?」

 レティシャがリーヒルに近付いていたので、リーヒルは何事かと思っているとレティシャがリーヒルの身体を見渡している。

「如何かしたか?」
『何故お着替えに?』
「今、牢獄に行ってきただろ?カビ臭さが衣類に付いたから着替えたんだ」
『香油も取れた様ですがお風呂にも?』
「あ、あぁ……洗い流したくてね」
『そうなんですね』

 感が鋭いレティシャなのは、リーヒルも分かってはいたが、何故か後ろめたさがあるリーヒル。もし、浮気や嘘等したら、レティシャには直ぐに分かってしまうだろう。

「もう少し、執務をしてくる。一緒に食事をしたいが、遅くなるだろうから気にせず食べておいてくれ………また夜に会いに来る」
「………」

 レティシャはただ頷いただけだが、リーヒルの意図が何なのかは、暫く経ってからだった。

「娼館の男達は何か喋ったか?」
「………いやぁ、痛がり過ぎて話も出来ませんよ」

 只今絶賛治療中で、思わぬ結果になった医者達は治療に慌てている。それについて、ヴァンサンは言いたげでリーヒルを睨んでいた。

「態度悪いな、ヴァンサン」
「当然です。引き止めましたよね!」
「お前は腹立たなかったのか!」
「殿下程では無いとは思いますが、俺だって腹立ちましたよ……ですが、裁判もまだ執り行われていない事で牢獄の中での罰は如何なものかとは思ってます」
「…………父上には黙っておいてくれ」
「………分かってますよ……ですが、陛下もあの言葉を聞いたら同じ事をされるでしょうね」
「…………だからだ……次は殺しかねん」
「なるほど、納得です」

 リーヒルのレティシャへの溺愛も然る事ながら、オルデン国王の溺愛も相当な物だった。
 実子でもない、娘が亡くなったから似た子供を養子に迎え、娘同様に育てている事は国民の中では有名だ。だからだろう、ついて回る噂さえもあるぐらいだ。

「…………殿下」
「何だ?」
「本当は、レティシャ殿下は陛下のお子なのでは?」
「………違う………断じてな……」
「その根拠は?」
「言えないが、父上からレティシャの出自の事は聞いている。この事は、父上が死ぬ迄極秘にしたい事らしい」
「何故、極秘なのに殿下はご存知なんです?」
「………レティシャの事だから教えて頂けた……」
「そうなんですね………噂が後を絶ちませんが、それでも極秘にしたい程の話なんですね」

 リーヒルは、執務中のペンを置き、ヴァンサンに話す。

「その都度、訂正は行っている父上だが、心労も重ねておられる。特に母上にはな……母上が耳にすると、父上は母上を宥めるのに時間を掛けてらっしゃる………父上は、母上に一目惚れをし、娶られた方だ。惚れた弱みだろうが、それにレティシャの出自も関連しているとあって、私が結婚したら退位される意向を示されている」
「………陛下は健康上、何も問題は無いではないですか!」
「今の所はな……この話は終わりだ……レティシャの事だけでなく、国政に休みは無い。ヴァンサンも手と頭を止める事なく仕事してくれ」
「…………分かってます」

 リーヒルがオルデン国王から聞いた話は気になってしまうが、ヴァンサンは執務を再開し、リーヒル共々終わらせたのは夜中になっていた。
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