養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 レティシャにも、牢獄での事件が耳に入った。

「怖いわね、たかが営業違反を注意されただけで殺されるなんてね」

 侍女達がレティシャの部屋から外れた時に、噂を聞き、レティシャの部屋迄話が続いたのだ。
 夕食迄、レティシャは侍女達と会わず、呼び出さなかった為、侍女達が仲間達から聞いた様だ。
 レティシャはそれにも興味は示す事もなく、与えられた食事を食べている。

「レティシャ殿下に出された食事の厨房は違うんでしょ?」
「城で働く者達の厨房らしいわ」
「え!じゃあ一歩間違えれば、私達も危なかったんじゃない!」
「そう、だから大騒ぎなんじゃない!」

 止まらない話で、レティシャも自分の名が出て、その話を聞き入っている。

「ちょっと!アン!シーラ!レティシャ殿下のお耳に入れないの!」
『お城で事件?』
「………今、王太子殿下が調べてらっしゃる様です」

 エマも、仕方なく噂の事をレティシャに話す。

『先程、慌てて出て行かれた件かしら』
「そうかもしれません。レティシャ殿下に危害が及びそうな事では無いと思われますので、お気になりませんように」

 ---娼館の人達だわ、きっと……わたくしの事だから義兄様が……

 娼館の男達の事で、リーヒルは慌てて出て行き、侍女達は殺されたと迄、聞こえたのだ。レティシャに関係の無い話ではない。
 案の定、リーヒルは深夜を超えても部屋には戻っては来ず、レティシャも待つのに疲れ、ソファの膝当てに凭れて眠ってしまった頃、ふわっと持ち上げられたので、目を覚ました。

「起こしたか……駄目じゃないか、ベッドで寝ないと」
『聞きました』
「………ちょっと、その話は下ろしてから言う」

 リーヒルがソファからベッドに、レティシャを運んでくれていた。しかし、レティシャのベッドではなく、リーヒルの部屋迄運ばれている。

「此処なら、侍女達は入って来ない」
「?」
「朝にならないと、無闇には彼女達は此方に入らないからな」
『睡眠中は入って来ないですよ?呼び鈴鳴らさない限り』
「内緒話は、この部屋の方が良いんだ……もし、レティシャが寝たいならこのまま抱き締めて寝るが」
『シないのですか?』
「っ!………流石に今日は私も疲れたよ」

 ベッドに下ろされたレティシャ。
 よく見たら、リーヒルはもう軽装で湯上がりだったのか、髪も湿っている。レティシャを抱こうとするなら、脱ぎやすいガウン一枚の方がいい筈だ。昨夜は予定外だったのかもしれない。

「レティシャ」
「………」
「娼館の男達と、レティシャの声帯手術をした医者が殺されたよ」
「………」
「………やはり、耳に入ったか」
「………」
「すまない、しっかり調べ公の場で罪を曝け出し、真相に近付かせようと思っていたんだが、まだ暫く先になりそうだ」
『いいえ、謝らないで下さい。わたくしは大丈夫です。寧ろ、もう彼等を怖がる事は無くなったので』

 凌辱される事が無くなった、と思うだけ、幾分気持ちは楽にはなったレティシャだが、それでも思い出す。捕まって安心していても、昼間のうたた寝の夢を見ただけで冷汗と涙が止まらなかったのだ。

『彼等はわたくしから純血を奪っただけではありません。わたくしの希望、尊厳、光、自尊、自由、心……帰りたいと思った回数分、わたくしを犯し、言葉が出ない事で笑い飛ばし、泣けば泣くだけ、わたくしに……汚い………あ……アレ……』
「もういい!書くな!思い出すな!」

 リーヒルは、レティシャがどんな経験をしてきたかは調べが付いている。だからリーヒルは聞かない様にしていた。それでもレティシャはリーヒルの気持ちを組み、その気にして抱かれる決心もしたのだろう。
 酔っ払い、酒に頼り、リーヒルをリードしたのもレティシャなりの頑張りと、覚悟も含まれているのだろう。妃になる為の。
 リーヒルも、そのレティシャの気持ちが分かるからか、手を払いレティシャを抱き締める。

「言わせたくなかった………思い出して欲しくなかった……あいつ等の末路等知らない方が良かった……」
「う………くっ……」

 リーヒルの肩が、レティシャの涙で濡れる。そして、レティシャの肩にもリーヒルの涙で濡れた。

「今日は、もう何もしない……このまま寝よう……な?」
「………うっ……」

 その夜は、そのまま抱き締め合いながら、深い眠りに着くレティシャ。翌朝、悪夢を見る事なく目覚める事が出来た。

「………リ……ヒ……」
「っ!」
「!」

 レティシャが先に目覚め、絶対に一番に聞かせたい言葉を掛ける。愛しい人の名前だ。
 それに気付く愛しい人、リーヒル。
 驚いたレティシャは仰け反り、逃れようとしてしまう。

「レティシャ………今……私の名……」
「リ……ヒ……っ……ル……」

 吃りながらではあったが、練習した成果が出ている。
 夜中の悲しい涙ではなく、夜明けと共に、嬉しい涙を見せ会えた時間だった。

「レティシャ……嬉しいよ……愛しいレティシャ……」
「………」

 レティシャは、嬉涙を見せるリーヒルに唇を重ねる。軽くだが、幸せを感じ、リーヒルを抱き締めた。
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