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 翌日、朝食を一緒に、とアステラから誘われたサブリナは、朝食の場に来ていた。
 すると、アステラの腕に抱かれた、サブリナの甥と同じぐらいの歳の男の子を抱いて、朝食の場に入って来る。

「紹介する。俺の第一子のガーヴィンだ」
「…………ガーヴィン様、宜しくお願いしますわ。わたくしサブリナと申します」

 小さな子でも、一国の王子だ。礼儀は弁えなければならない。

「…………」
「人見知りが激しくてな」
「ガーヴィン様のお母様は………ご一緒ではありませんの?」
「産まれて直ぐにこの世を去った。代わりに他の側室に育児を任せてみたが、側室達はガーヴィンを蔑ろにしていてな、世話する侍女にしか懐かない。血の繋がった息子だ。母が死んだからと言って、父親の俺が手放すのは違うだろ?」

 心情では、側室達の思いはサブリナにも分かる。それだけ側室同士で寵愛を競っているのだろう。

「側室達の気持ちも理解しますが、お母様のご実家にはお預けにはならなかったのですね」
「政治的利用されては困る。手元に置き、しっかり教育させたい。そして、ガーヴィンの母親は平民だ。元より王位継承は与えられん。臣下からの反感が出る可能性のある子を、手放す程、次世代の後継者を脅かす存在になるからな」
「平民を側室に?」
「貴族の娘は、妃になりたがる。素質の無い娘程強い。其方なら分かってるんじゃないか?」
「…………それは、どうお答えてしていいか……」

 昨夜のレイノルズとミューゼの関係をアステラに伝えた事を鮮明に覚えている。
 サブリナが婚約中の時でも、レイノルズの女遊びには手を焼いたのだ。ミューゼ1人に結果的に落ち着いたが、そう思い返すと、サブリナは男から言い寄られた事は一度も無い。
 幼い時から、レイノルズの婚約者候補として言われてきたサブリナに、王族の反発を買う貴族は居なかったからだろう。それにサブリナは常に警戒しながら過ごしていた。
 王太子妃として恥じる行為はするな、と両親に言われる事は無かったが、国王や王妃からはよく言われていた。
 落ち着けない場所で勉強し、レイノルズに腹を立て、ミューゼの癇癪が聞こえる日常に、サブリナはギリギリの所迄頑張っていたからだ。

「サブリナ」
「っ!も、申し訳ありません」
「…………サブリナが側室が嫌なら、全て切るぞ?幸い、子供はこの子しか居ない。子が出来ぬ様に、細心の注意は払っていたからな。この子以外は………」
「さ、左様ですか………わたくしにはその注意がよく分からないので、お答えしかねますが」

 アステラがサブリナの表情で、何を考えていたのか察したのだろう。
 求婚の返答は先延ばしてはくれているが、サブリナがアステラに好意を持てば、側室も付いてきてしまう事を、今時点で知っていた方が良かったのかもしれない。

。それ以外の注意は無い」
「っ!………あ、朝から何と卑猥な………ガーヴィン様の前ですわよ!」
「それなら、その注意をしない様に、サブリナが相手してくれ」
「っ!アステラ陛下!」
「フッ…………其方を困らせるのは楽しいな」
「っ!」

 揶揄われていたのだと、気が付いてサブリナは顔を赤らめた。

「冷めてしまうな、食べようか」
「あ、はい」

 朝食を食べながらにはなってしまったが、サブリナはレイノルズとミューゼの事を聞かれ、侍従達の前なので、白い結婚だとは伏せて、説明した。

「…………辛かったのだな」
「…………はい……」
「俺に、オルレアンの事で手伝う事はあるか?」
「いえ、特には…………わたくしが出来る範囲で、復讐はして参りましたし」
「何だ、もうしたのか」
「はい、お手を煩わせる事は本意ではございません」
「聞きたいものだな、それ」
「…………アステラ陛下でしたら、お調べされるのでは?」
「調べていいのか?出来るなら、其方の口から聞きたいがな」
「ガーヴィン様のお耳を汚したくありませんわ。子供は純粋でなければなりません」
「そうか………そうだな………では、いつか寝所で聞かせて貰おう」
「っ!」

 時折、真面目な話の中で、アステラはサブリナを揶揄うので、サブリナは顔が作れなくなりそうだった。
 気を抜くと、表情を崩されてしまう。
 サブリナのがもう、アステラに知られてしまった様にも気がする。

「今日、1日ガーヴィンを相手してくれ。人見知りに困惑するだろうが、ガーヴィンの世話役の侍女も付き添わせる」
「わたくしで出来る範囲でしたら」
「すまないな、サブリナ」

 食事中、アステラはガーヴィンに食事を食べさせていた。しかも手慣れた手付きだ。それを見るとアステラは子煩悩だと分かる。
 アステラが待機する侍女にガーヴィンを任せると、執務へ行くと言うので、朝食の場を後にした。

「アステラ陛下にはご兄弟姉妹はおみえではないのですか?」
「居られましたが…………」
「……………そうですか、もう結構ですわ」

 侍女達の表情で理解出来る。
 何処の国でもあり得る政権争い。若しくは1人だけか。
 大方前者であろうが、サブリナはそれ以上聞かなかった。

 ---ガーヴィン様も、もしかしたらいずれ巻き込まれるのでしょうね………アステラ陛下が妃を娶ったら………それがわたくしだったら………わたくしはガーヴィン様を守るのか、守らないのか…………いえ、今はまだ考えない方が良いわね………

 結婚も確定ではないのに、先を考えるのは時期尚早だ、と思いに至るとサブリナはガーヴィンに向けて笑顔を見せるのだった。
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