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しおりを挟むそれからというもの、オルレアン国からの情報が定期的に知らされてきていた。
橋の欠陥工事から始まり、レイノルズの女性関係、サブリナへの冷遇等、民衆からはレイノルズへの支持が急降下していた。
特に女性からの支持が全くと言っていい程皆無だ。それは、パサ宮殿から漏れた噂だ。
婚約当時から、レイノルズの女遊びが頻繁に隠されていた事実。その相手の名さえ出て来ていて、元恋人達さえも批難の対象となっていた。
もう、別れたのだから、暴露された所で、気にも止めない者もいたが、その影でサブリナへの態度と真逆であった事や、サブリナはパサ宮殿内の生活を質素で過ごしていた事、結婚後には愛人をパサ宮殿に住まわせて、初夜以降サブリナとレイノルズは夜を共にはしていなかった事等、またたく間に知れ渡っていて、レイノルズはサブリナへ不誠実な事を長くしていた、と判明した事で、サブリナとレイノルズの離縁を後押しする形となっていた。
それどころか、そんなレイノルズを国王にして良いのか、と迄言われる始末。
「出るわ出るわ、凄まじい批難だな。支持低迷も当然だろう」
「伊達に、黙って耐えて来た訳ではありませんから」
「…………しかし、相手の女迄、よく調べたな、サブリナ」
レイノルズの元恋人達は全員ではないだろうが、婚約当時からのリストなので、実際はもっとあるかもしれない。
「わたくしが住んでいた宮殿の侍従達から教えて頂きましたの。だって、レイノルズ殿下は歩いて1人で行けませんでしょう?お相手と密会する場所迄」
「侍従達を味方に付けていたのは正解だったな………だが、幾らサブリナへの冷遇に同情したからと言って、君主への裏切り行為と見なされるのではないか?」
「その点は大丈夫ですわ。わたくしが出元ですもの」
「出元?」
「はい、わたくしは出発直前、国王陛下と王妃陛下宛にお手紙を送りましたの。わたくしの名で、お相手達の名を暴露しましたから、その確認をパサ宮殿の侍従達に確認させたのでしょう…………本当なのか?間違いではないのか?と聴取された筈ですから、そこから漏らした者もわたくしの兄、マイルの手の者達です。両陛下へのお手紙は、分厚い本並になってしまって、1つ1つ調べるのは大変ではないでしょうか」
「…………1つ言っていいか?」
「はい」
「姑息過ぎないか?面白いが」
サブリナが根に持つ性格だと、アステラは初めて知る事になる。
「離縁するには、それぐらいしなければ、と思ったのです…………わたくしの意思とは反し、両陛下から熱望されてレイノルズ殿下の婚約者になりましたわ。レイノルズ殿下はわたくしを見下して、わたくし自身を見ては下さらなかった。始めがそうでしたから、恋をする事もその気持ちが進展する事も無く、それでも信頼が成立つなら、夫婦になれる、と思っていたのです。でも、時が経つにつれ、レイノルズ殿下の良い所を見つけるどころか、悪い所ばかりに目が行き、結婚初日でわたくしのレイノルズ殿下への信頼も無いまま、嫌悪感だけが積まれて行きましたわ」
「本当にそりが合わなかったんだな」
「はい。この世で一番嫌いな男性になりましたわ」
嘘偽りの無い力強い目で、レイノルズへの嫌悪感を表していたサブリナ。
「では、俺は?」
「…………は?………い、今お聞きになります?」
「気になるじゃないか」
「ま、毎日伺われるのは困るのですが」
サブリナが亡命して、もう直ぐ1ヶ月は経とうとしている。
オルレアン国からの情報をサブリナは知る権利があるので、日中でも時々、執務室に呼び出されては、オルレアン国の事を話しているが、毎日アステラからは、【好きになったか?】【どう思っている?】とサブリナに聞いてきているのだ。
だからといって、サブリナが拒否する返事を返せば、其処で引きはするのだが。
「毎日聞きたいんでね………好きな女が目の前に居て口説かないのは勿体無い」
「す、直ぐには変わりませんわ」
「王太子への嫌悪感を持つにはどれぐらい掛かったんだ?」
「…………それは……婚約期間中少しずつ……」
「何年?」
「…………確か5年は……」
「待てん!そんなに其方は嫌悪感を募らせるにも観察するのか!」
「あ、いえ………人それぞれ、良い面と悪い面がございますでしょう?わたくしなりにレイノルズ殿下の良い面を探そうと観察したのですが、良い面はわたくしへの無関心だった事だな、と分かった時に、もう無理だな、と思えた直後でしたの。5年で確定した、と申しましょうか……初夜のレイノルズ殿下からのお言葉が後押ししましたわ」
サブリナもそんなに歳月を費やして、レイノルズを嫌いになった訳ではない。
恋人を作り、それを世間で隠そうとしながらサブリナには隠さない事も、外面はサブリナとの関係良好を見せ付ける所も、サブリナは直ぐにレイノルズを嫌った。それでも少しは期待しなければ、簡単に離縁出来る立場では無いだろうから、少しでも光を見出したかったに過ぎない。
だからこそ、離縁に向けて、レイノルズに分からない様に、証拠を固めてやっと行動に移したのだ。
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