25 / 38
24
しおりを挟む「こ、腰が痛い………」
アステラが起きてから、然程時間が経たずにサブリナも起きたのだが、身体が起こせない。
腰の鈍痛が昨夜の激しい蜜夜が物語っていた。
「サブリナ様、血の巡りを良くするお薬と疲労回復のお薬です」
「あ、ありがとうございます………あ、あの……な、何故皆様嬉しそうにわたくしを見てますの?」
「それはもう、サブリナ様が陛下と結ばれたからですわ」
「っ!」
何故、この鈍痛で動けないサブリナを見て、アステラと結ばれた事が分かるのか。
「あ、アステラ陛下から伺いましたの?」
「いえ、はっきりとは申されてませんわ。ですが、陛下とサブリナ様の表情を拝見すれば分かります」
「そ、そうですか………」
出血も無かった筈だ。シーツにも血は付いていなかったぐらいだが、起きた時の溢れた残骸で薄まったのかもしれない。
アステラもあまり出血はしていなかった、とサブリナに言っていた。
それでも貧血の薬迄持参されると、もう確定としか思えないだろう。
未通だったとはムーア達も思ってはいないだろうが、何処かに血が付いていたとしたら、大袈裟な気もする。
「本日はお部屋で休まれる様に、との事ですわ」
「ガーヴィン様とお約束があったのですが、良いのかしら」
「それについては、ガーヴィン様は陛下の執務室に居られる様ですよ」
普段からアステラはガーヴィンとの時間を作っているのを聞くと、本当に微笑ましかった。
「お邪魔出来ないかしら」
「体調は宜しいのですか?」
「ゔっ…………や、止めておきます」
少し身体を動かそうとしても、筋肉痛になっていた。特に腰から下だ。
立つにもヨタヨタと足元がおぼつかず、入浴も侍女達の手伝いが無ければ無理だった。
これはもう、暫くは大人しくしていろ、という事だろう。
---ま、まだアステラ様が居る気がするわ……お会いしたら気持ちをお伝えしないと………
求められた喜びが幸せとなって、サブリナの心を温める。
気鬱で冷めたレイノルズとの結婚生活では味わえなかった幸せだ。
この幸せを与えてくれるのなら、喜んでアステラの求婚を受けよう、と思う。
レイノルズとの離縁が成立しない限り、サブリナは気持ちに蓋をしていたのだ。
毎日口説かれ、レイノルズと違うサブリナへの誠意を表したアステラに、男の免疫の無いサブリナが揺れていくのは早かった。
---やだわ………お会いしたい………でも……身体が………
思い出すと頬を火照らせ、サブリナは手で顔を覆う。
「ふふふ…………お幸せそうで良うございました」
「っ!…………か、顔に出てしまって嫌だわ……」
「私室でございますから、良いではありませんか。オルレアンでの結婚生活より、陛下がサブリナ様をお幸せにして頂けると思いますよ?ずっと、陛下はサブリナ様に想いを寄せていらっしゃいましたから」
「…………今充分幸せですから、これ以上求めてはバチが当たります」
「サブリナはもっと幸せになって良いんだ」
「アステラ陛下………」
休憩なのか、仕事を終わらせたのか、麗らかな午後の明るい時間に、ガーヴィンを抱いてアステラが部屋に戻って来た。
「こら、呼び方」
「皆が居りますから………」
「きっちりしてるなぁ………ガーヴィン、母上に挨拶しなさい」
「は、母上……ご機嫌い、如何ですか?」
「ガーヴィン様、ご挨拶お上手ですね、お約束していたのに申し訳ございません」
ムーア達は、アステラとガーヴィンが来た事で、距離を空け控えた。
ガーヴィンがサブリナを母と呼ぶようになった昨日から、家族の様に感じてしまう。
「体調は大丈夫か?」
「はい、様子を見に来て頂いたのですか?」
「朝、会話出来なかったからな。それに、ガーヴィンが寂しそうだったのもある」
「ありがとうございます。アステラ陛下」
「今朝から、側室達を下城させる準備を始めている。もう俺には必要の無い女達だ」
「本当に宜しいのですか?」
アステラの側室の扱いが冷た過ぎる気もする。
だが、サブリナが嫉妬しない配慮だと思えば、それは嬉しい事だ。
「あぁ…………それと、明後日に国葬を開く。偽っていた病弱だった偽りの王妃のな」
「わたくしも参列ですの?」
「しなくていい。神殿に空の棺を運び、埋葬の真似事をするだけだ。国民は姿を現さなかった架空の王妃を見送るだろうが、正式の王妃のサブリナが居ては、非ぬ誤解を招くだろうしな」
「…………そうですわね」
「…………」
サブリナを王妃扱いしたアステラだが、それに対して否定しないので、アステラは押し黙っている。
「アステラ陛下?如何されました?」
「…………いや……俺が其方を王妃と言ったのを受け入れてくれるのだな、と」
「…………驚く所ですの?昨日、わたくし求婚をお受け致しましたし、おかしいとは思いませんでしたが…………ですが、婚姻時期は如何なるのか、とは思っておりますが」
「…………求婚を受け入れてくれてたんだっけ?」
「…………あ……まだお返事してない………」
「貰ってないぞ?」
「…………わたくし、アステラ陛下が妃にする、と仰い続けておられるので、そうなるとばかりと思う様になってましたわ………」
「昨日は、身体でも口説いて下さい、と言ったよな?」
「っ!アステラ陛下!…………痛っ……」
侍女達の前で、恥ずかしくなる言葉を繰り返されて、サブリナは思わず椅子から立ち上がったが、鈍痛が腰に走った。
「サブリナ!如何した!」
「こ、腰が…………」
「…………あぁ………それはそれは………ヤり過ぎ?」
「アステラ陛下!」
恥の上乗せをさせられた、甘い夜の翌日だった。
流石に、侍女達も赤面し、サブリナ達を見れない様だった。
---こんな様子では、わたくし気持ちをお伝え出来ない!
サブリナは早く自分の気持ちをアステラに伝えるべく意気込んだのは言うまでもない。
1,170
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる