拝啓、殿下♡私を追い出して頂いて感謝致します【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「こ、腰が痛い………」

 アステラが起きてから、然程時間が経たずにサブリナも起きたのだが、身体が起こせない。
 腰の鈍痛が昨夜の激しい蜜夜が物語っていた。

「サブリナ様、血の巡りを良くするお薬と疲労回復のお薬です」
「あ、ありがとうございます………あ、あの……な、何故皆様嬉しそうにわたくしを見てますの?」
「それはもう、サブリナ様が陛下と結ばれたからですわ」
「っ!」

 何故、この鈍痛で動けないサブリナを見て、アステラと結ばれた事が分かるのか。

「あ、アステラ陛下から伺いましたの?」
「いえ、はっきりとは申されてませんわ。ですが、陛下とサブリナ様の表情を拝見すれば分かります」
「そ、そうですか………」

 出血も無かった筈だ。シーツにも血は付いていなかったぐらいだが、起きた時の溢れた残骸で薄まったのかもしれない。
 アステラもあまり出血はしていなかった、とサブリナに言っていた。
 それでも貧血の薬迄持参されると、もう確定としか思えないだろう。
 未通だったとはムーア達も思ってはいないだろうが、何処かに血が付いていたとしたら、大袈裟な気もする。

「本日はお部屋で休まれる様に、との事ですわ」
「ガーヴィン様とお約束があったのですが、良いのかしら」
「それについては、ガーヴィン様は陛下の執務室に居られる様ですよ」

 普段からアステラはガーヴィンとの時間を作っているのを聞くと、本当に微笑ましかった。

「お邪魔出来ないかしら」
「体調は宜しいのですか?」
「ゔっ…………や、止めておきます」

 少し身体を動かそうとしても、筋肉痛になっていた。特に腰から下だ。
 立つにもヨタヨタと足元がおぼつかず、入浴も侍女達の手伝いが無ければ無理だった。
 これはもう、暫くは大人しくしていろ、という事だろう。

 ---ま、まだアステラ様が居る気がするわ……お会いしたら気持ちをお伝えしないと………

 求められた喜びが幸せとなって、サブリナの心を温める。
 気鬱で冷めたレイノルズとの結婚生活では味わえなかった幸せだ。
 この幸せを与えてくれるのなら、喜んでアステラの求婚を受けよう、と思う。
 レイノルズとの離縁が成立しない限り、サブリナは気持ちに蓋をしていたのだ。
 毎日口説かれ、レイノルズと違うサブリナへの誠意を表したアステラに、男の免疫の無いサブリナが揺れていくのは早かった。

 ---やだわ………お会いしたい………でも……身体が………

 思い出すと頬を火照らせ、サブリナは手で顔を覆う。

「ふふふ…………お幸せそうで良うございました」
「っ!…………か、顔に出てしまって嫌だわ……」
「私室でございますから、良いではありませんか。オルレアンでの結婚生活より、陛下がサブリナ様をお幸せにして頂けると思いますよ?ずっと、陛下はサブリナ様に想いを寄せていらっしゃいましたから」
「…………今充分幸せですから、これ以上求めてはバチが当たります」
「サブリナはもっと幸せになって良いんだ」
「アステラ陛下………」

 休憩なのか、仕事を終わらせたのか、麗らかな午後の明るい時間に、ガーヴィンを抱いてアステラが部屋に戻って来た。

「こら、呼び方」
「皆が居りますから………」
「きっちりしてるなぁ………ガーヴィン、に挨拶しなさい」
「は、母上……ご機嫌い、如何ですか?」
「ガーヴィン様、ご挨拶お上手ですね、お約束していたのに申し訳ございません」

 ムーア達は、アステラとガーヴィンが来た事で、距離を空け控えた。
 ガーヴィンがサブリナを母と呼ぶようになった昨日から、家族の様に感じてしまう。

「体調は大丈夫か?」
「はい、様子を見に来て頂いたのですか?」
「朝、会話出来なかったからな。それに、ガーヴィンが寂しそうだったのもある」
「ありがとうございます。アステラ陛下」
「今朝から、側室達を下城させる準備を始めている。もう俺には必要の無い女達だ」
「本当に宜しいのですか?」

 アステラの側室の扱いが冷た過ぎる気もする。
 だが、サブリナが嫉妬しない配慮だと思えば、それは嬉しい事だ。

「あぁ…………それと、明後日に国葬を開く。偽っていたのな」
「わたくしも参列ですの?」
「しなくていい。神殿に空の棺を運び、埋葬の真似事をするだけだ。国民は姿を現さなかった架空の王妃を見送るだろうが、正式ののサブリナが居ては、非ぬ誤解を招くだろうしな」
「…………そうですわね」
「…………」

 サブリナを王妃扱いしたアステラだが、それに対して否定しないので、アステラは押し黙っている。

「アステラ陛下?如何されました?」
「…………いや……俺が其方を王妃と言ったのを受け入れてくれるのだな、と」
「…………驚く所ですの?昨日、わたくし求婚をお受け致しましたし、おかしいとは思いませんでしたが…………ですが、婚姻時期は如何なるのか、とは思っておりますが」
「…………求婚を受け入れてくれてたんだっけ?」
「…………あ……まだお返事してない………」
「貰ってないぞ?」
「…………わたくし、アステラ陛下が妃にする、と仰い続けておられるので、そうなるとばかりと思う様になってましたわ………」
「昨日は、身体でも口説いて下さい、と言ったよな?」
「っ!アステラ陛下!…………痛っ……」

 侍女達の前で、恥ずかしくなる言葉を繰り返されて、サブリナは思わず椅子から立ち上がったが、鈍痛が腰に走った。

「サブリナ!如何した!」
「こ、腰が…………」
「…………あぁ………それはそれは………ヤり過ぎ?」
「アステラ陛下!」

 恥の上乗せをさせられた、甘い夜の翌日だった。
 流石に、侍女達も赤面し、サブリナ達を見れない様だった。

 ---こんな様子では、わたくし気持ちをお伝え出来ない!

 サブリナは早く自分の気持ちをアステラに伝えるべく意気込んだのは言うまでもない。
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