27 / 38
26
しおりを挟むサブリナの元に面会者が来ていた。
父であるユーザレスト公爵と兄のモントールが、兄マイルの手紙を持って来ている。
ユーザレスト公爵から、婚約の祝いを伝えに来たのと、アステラから役職を任命されたから、感謝の意を述べに登城した。
そして、マイルの手紙からはレイノルズが王太子を廃位になるという内容で、新たな王太子をマイルに、という打診があった事があり、近くオルレアンを出るという話だった。
マイルが王太子になってしまっては、折角妻のデイジーや息子のアベルをファルメル国に行かせた意味も無くなる。
オルレアン国王族の血脈のユーザレスト公爵はもうオルレアン国に見切りを付けているのだから、マイルもそれに賛同しているのだ。
でなければ、身を隠していた意味も無い。
「俺がこの手紙を受け取った時、ファルメルには頃合いを見て、兄上も亡命すると言っていたよ」
「ご無事に到着すると良いのですが………」
「大丈夫さ、兄上は」
「それにしても、何故マイルお兄様に白羽の矢が………幾ら王族の血脈だからと言っても、随分と前の事ではありませんか」
「恐らく、マイルが王太子になればサブリナが帰って来やすいと思ったのだろうな」
「あり得ませんわ」
「しかし、ヤル事が汚い」
「陛下はその様な事をする方ではない。臣下の者だろう………サブリナの手腕を知る者からすれば考えそうな事だ」
応接の間で、淹れられた茶を飲み、ユーザレスト公爵の話を聞いたモントールは、しかめっ面をする。
「亡命して正解………俺は商人になってしまったから、オルレアンには戻る事もあるだろうが、ほとぼりが冷めない内は俺も行かない方が良さそうだね」
「オルレアンには部下を送れば良い。お前も見付かって問正され、サブリナに何かあっては困る。アステラ陛下の妃になるのだからな」
「だけど、よく決心したなサブリナ」
「お慕いしておりますから」
「…………あっそ………少なくとも、レイノルズ殿下よりマトモだった、て事か」
「違いますわ、モントールお兄様。レイノルズ殿下はアステラ様の足元にも及びません」
「サブリナ」
「はい、お父様」
「漸く、幸せを掴んだのだな?」
「…………はい」
サブリナの安堵する表情で、ユーザレスト公爵とモントールも安堵の顔を見せた。
「それで、レイノルズ殿下はいつ頃廃位になるのですか?」
「今、サブリナが暴露していた後始末をレイノルズ殿下が解決させ、新たな王太子が立太子する頃だそうだ。まぁ、解決させる前に王太子が決まれば直ぐにだろうな」
「モントールお兄様の予想は的中しますわ」
「言い切るなぁ、サブリナ」
「当然です。レイノルズ殿下には無理なのですもの…………レイノルズ殿下は資産を投げ売ってでも、反省してもらわなければなりません」
「……………何をしたんだ?」
「……………レイノルズ殿下は国を誑かしてましたもの」
「……………誑か………まさか横領か!」
「はい…………国の資産を使い込んでましたわ。廃位になるどころか廃嫡も可能性あるかと思います」
サブリナは最後にその証拠をオルレアン国に突き付けるつもりだ。
ミューゼへの散財をレイノルズは国庫を横領していた。それをレイノルズの資産を知るサブリナが知らない訳は無い。
それをサブリナは国王に隠しながら、レイノルズの資産を活用し、横領の証拠集めをしていたのだ。
碌でもない男でも、そういう悪巧みには賢かったのだ。
「流石………」
「本当に息子で産まれて欲しかったな」
サブリナが男で産まれていたなら、苦労する結婚生活はしなかった筈だ。
それなのに、サブリナは後悔が無いとばかりに綴る。
「嫌ですわ、お父様…………わたくしは女で喜びを噛み締めておりますのよ?やっと………安住の地を見つけましたわ」
「兄上も優秀で、妹も優秀…………俺は平凡………板挟みしないでくれ」
「あら、お兄様も商人の才がお有りではないですか」
「それが性に合ってる」
今ではモントールも大富豪と言われていて、オルレアン国の貴族の中でも、資産は多かった。
サブリナやユーザレスト公爵よりも。
「全く…………貴族らしい事をせんで、遊び呆けているの間違いではないか?お前もそろそろ落ち着きなさい」
「恋人は居ますよ。平民の娘で父上の許しが出るなら求婚します」
「……………お前……私が反対するとでも?」
ユーザレスト公爵はモントールのする事を諦めている節がある。
「いえ?父上が反対したら俺は縁を切る事ぐらい理解されてると思ってますから」
「お兄様も策士ですわね………先に仰るのはズルいですわ。縁切る覚悟迄されている方なのですね?」
「まぁ良い…………連れて来なさい。了承は人柄を判断してからだがな」
「ありがとうございます、父上」
「サブリナ様、陛下がお越しになりました」
「申し訳無い。家族団欒の中にお邪魔する」
アステラが応接の間に来ると、サブリナの横に腰掛けた。
「いえ、アステラ陛下。最早陛下も家族だと思っております。娘を娶って頂くのですから………私等、家族と申し上げるのは烏滸がましく、無礼な事やもしれませんが」
「いえ、貴方は義理の父になります。家族と見て頂き嬉しく思います」
「サブリナの直ぐ上の兄、モントールと申します。長兄はまだオルレアンでの仕事があり、不在で申し訳ございません。ファルメルに亡命する予定ですが、参りましたら直ぐに登城許可を頂くかと思います」
「貴方が、ギルドを運営するモントール卿ですか………噂はかねがね……俺も何度か利用させて貰ってますよ」
「存じ上げております。賢帝と言われる陛下に覚えて頂き、嬉しい限り」
「サブリナの家族ですから、知らないとは言えません。それに、父君と兄上に報告もあり、参りました」
アステラはそう言うと、サブリナを見つめた。
1,201
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる