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しおりを挟む「…………そうか、やっと来たか」
アステラが今夜の準備に着替え始めていた時の事。
ガネーシャが、オルレアン国からレイノルズが到着した、と知らせに来ていた。
「予定では2日程早く到着だったんじゃなかったか?」
「はい、そうなのですがお調べした所、レイノルズ王太子とご同行の女性の我儘で大層機嫌が悪く、もうポロポロと暴露していきましたよ。何でも宿泊予定に無い街に遊びに行かれたり、出発時刻にまだ寝ていたり、と」
「あはは…………そりゃあ難儀しただろうな、侍従達も」
「えぇ、凄い剣幕で愚痴られた様です」
「それで、此方が提供した部屋に入ったのだな?」
「はい、もう急いで準備に入った様ですが。流石に招待を受けておいて、他国に来て失礼な事は幾ら王太子でも出来ませんからね」
アステラは姿見を見ながら、礼装を整えると、肩からサッシュを掛け、紋章の歪みが無いかを自分でも確認する。
「誰か、髪を整えてくれ」
「畏まりました」
普段髪は流すだけで、特には整えないアステラは外交に関する時だけは、紳士的な印象に纏めている。
それには、横に立つサブリナに見合う男にならねばならず、この日は入念だった。
「サブリナと衣装も合わせてるんだ、しっかり頼む」
「本当に変わられましたね、陛下」
「当たり前だ、今迄以上に気合は入るさ。ガネーシャ、来賓の警護も抜かりないよな?」
「勿論でございます」
「…………では、サブリナを迎えに行くとするか」
アステラが髪を整えて貰うと、サブリナが準備をしている部屋に向かった。
やはり、アステラが想像していた以上に美しくしたサブリナを見ると嬉しくなる様で、サブリナが姿見の前で準備をしている背後から、ニタニタと笑っている。
「まぁ、一声お掛け頂ければ良いではありませんか、アステラ陛下」
「サブリナが美しいから見惚れていたんだ。抱き着きたくても今は駄目だろう?化粧も髪も崩れてしまう」
「はい…………今はご遠慮を願いますわ」
「本当に綺麗だ、サブリナ」
「アステラ陛下も凛々しくて素敵ですわ」
サブリナも準備が整い、アステラの前に立った。
「如何ですか?」
「このまま、脱がしてむしゃぶりつきたいぐらい、溶け合いたいな」
「…………ま、また卑猥な事を………我慢して下さい」
「分かってる………そんな事はしない。後では貰えるのだろう?」
「っ!…………は、はい……お疲れでなければ……」
「疲れるものか………寧ろ癒やされるさ………そして癒やす…………レイノルズ王太子も到着した様だし、鬱憤もたまるだろうからな」
「…………そうですか………」
サブリナの手が震えていた。
久しぶりの再会になる元夫。緊張で身体の前で重ねていた手をお互いに握りしめ、ドレスも握り皺になっていく。
「サブリナ」
「っ!」
それを見たアステラはサブリナの手を握った。
「大丈夫だ、俺が居る」
「…………はい……」
「あと…………コレを………」
アステラが服の中に仕込んでいた物を、ポケットから取り出すと、サブリナの左手薬指に指輪を嵌めた。
「…………アステラ様……」
「もう、充分着飾ってはいて美しいが、この指輪は代々王妃に継承されて来た宝石で作られた指輪だ。俺の母上も身に着けていたが、寸法をサブリナに合わせて作り直した。大事にして欲しい」
指に嵌められた指輪は、キラキラと輝いていて、サブリナを感極まらせた。
代々受け継がれた大事な指輪だと聞かされて、サブリナは嵌められた指輪を包み込み、胸に押し当てている。
「…………勿論です。アステラ様だと思って大切に身に着けさせて頂きます」
「本来、結婚式に渡すんだがな………もうそんな事はしなくても、サブリナは俺の妃だと思っている」
「…………慣例を無視されましたわね」
「…………早く渡したかったんだ!」
慣例や決まり事は大事にしたい生真面目な性格のサブリナだが、この時ばかりはアステラの気持ちが嬉しかったのだろう。
「ありがとうございます、嬉しいです」
目を潤ませたサブリナを見て、アステラも伝わっていた様だ。
「…………だぁぁっ!キスしたい!いいか?化粧直させるから!」
「陛下、そろそろお時間ですから駄目ですよ」
「っ!」
侍女にサブリナへのキスをも止められて、婚約発表の夜会が始まる。
既に、来賓達も集まり、サブリナとアステラの入場を待つばかりだった。
✦✦✦✦✦
「すっごい………」
「以前、来た頃より豪華だな」
慌てて準備したにも関わらず、レイノルズとミューゼはバッチリめかし込んで、意気揚々で会場を見渡している。
「でもレイノルズ様、アステラ王は王妃を亡くされたばかりなのに、こんな豪勢にしても良いのかしら」
「そうだよな、喪中な筈なのに」
レイノルズとミューゼは目立ちたいからか、壁の花には決してならない。
中央辺りで、先に軽食やワインを嗜みながら、会話をしていた。
「あっ!ユーザレスト公爵!」
「え?………ユーザレスト公爵ってサブリナ様のお父様じゃ………」
「あっちには、モントール………何故居るんだ………」
レイノルズとミューゼの声が響いたのだろう。
ユーザレスト公爵やモントールもレイノルズ達に気が付いた。
「父上、如何します?ご挨拶しに行きますか?」
「何故行かねばならんのだ?もう私達はレイノルズ殿下とは関わりがない。それに、廃位される方で、廃位された後の処遇が如何なるか等分かりきっている」
「…………あぁ………兄上は今頃……」
「そうだ………そろそろ、陛下もご覧になられておられる」
「人を見極める才能があれば、こんな事にはならなかったのに残念だ」
「同意だな」
しかし、気が付いた所で、ユーザレスト公爵やモントールは無視し、気が付かない振りをしていた。
「何あれ………見てみぬ振りしてるわ!」
「ふざけるなよ…………ユーザレスト公爵家……帰ったら亡命した罪に問わさせてやる………侍従に捕まえさせてやるからな!」
「そうよ!職務放棄してるんだから当たり前よ!」
レイノルズからすれば、王族なのだから臣下から挨拶をしに来るのが当たり前だと思っている。
だが、ユーザレスト公爵家は国を捨てたのだ。
王族のレイノルズの方が立場が上だろうとも、母国に居るなら兎も角、外国で頭を下げる意味は果たしてあるのかどうか、だ。
知らない振りをしていればいい、と判断しただけの事。
今後の事を思えば挨拶するだけ無駄なのだ。
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