30 / 38
29
「…………そうか、やっと来たか」
アステラが今夜の準備に着替え始めていた時の事。
ガネーシャが、オルレアン国からレイノルズが到着した、と知らせに来ていた。
「予定では2日程早く到着だったんじゃなかったか?」
「はい、そうなのですがお調べした所、レイノルズ王太子とご同行の女性の我儘で大層機嫌が悪く、もうポロポロと暴露していきましたよ。何でも宿泊予定に無い街に遊びに行かれたり、出発時刻にまだ寝ていたり、と」
「あはは…………そりゃあ難儀しただろうな、侍従達も」
「えぇ、凄い剣幕で愚痴られた様です」
「それで、此方が提供した部屋に入ったのだな?」
「はい、もう急いで準備に入った様ですが。流石に招待を受けておいて、他国に来て失礼な事は幾ら王太子でも出来ませんからね」
アステラは姿見を見ながら、礼装を整えると、肩からサッシュを掛け、紋章の歪みが無いかを自分でも確認する。
「誰か、髪を整えてくれ」
「畏まりました」
普段髪は流すだけで、特には整えないアステラは外交に関する時だけは、紳士的な印象に纏めている。
それには、横に立つサブリナに見合う男にならねばならず、この日は入念だった。
「サブリナと衣装も合わせてるんだ、しっかり頼む」
「本当に変わられましたね、陛下」
「当たり前だ、今迄以上に気合は入るさ。ガネーシャ、来賓の警護も抜かりないよな?」
「勿論でございます」
「…………では、サブリナを迎えに行くとするか」
アステラが髪を整えて貰うと、サブリナが準備をしている部屋に向かった。
やはり、アステラが想像していた以上に美しくしたサブリナを見ると嬉しくなる様で、サブリナが姿見の前で準備をしている背後から、ニタニタと笑っている。
「まぁ、一声お掛け頂ければ良いではありませんか、アステラ陛下」
「サブリナが美しいから見惚れていたんだ。抱き着きたくても今は駄目だろう?化粧も髪も崩れてしまう」
「はい…………今はご遠慮を願いますわ」
「本当に綺麗だ、サブリナ」
「アステラ陛下も凛々しくて素敵ですわ」
サブリナも準備が整い、アステラの前に立った。
「如何ですか?」
「このまま、脱がしてむしゃぶりつきたいぐらい、溶け合いたいな」
「…………ま、また卑猥な事を………我慢して下さい」
「分かってる………そんな事はしない。後では貰えるのだろう?」
「っ!…………は、はい……お疲れでなければ……」
「疲れるものか………寧ろ癒やされるさ………そして癒やす…………レイノルズ王太子も到着した様だし、鬱憤もたまるだろうからな」
「…………そうですか………」
サブリナの手が震えていた。
久しぶりの再会になる元夫。緊張で身体の前で重ねていた手をお互いに握りしめ、ドレスも握り皺になっていく。
「サブリナ」
「っ!」
それを見たアステラはサブリナの手を握った。
「大丈夫だ、俺が居る」
「…………はい……」
「あと…………コレを………」
アステラが服の中に仕込んでいた物を、ポケットから取り出すと、サブリナの左手薬指に指輪を嵌めた。
「…………アステラ様……」
「もう、充分着飾ってはいて美しいが、この指輪は代々王妃に継承されて来た宝石で作られた指輪だ。俺の母上も身に着けていたが、寸法をサブリナに合わせて作り直した。大事にして欲しい」
指に嵌められた指輪は、キラキラと輝いていて、サブリナを感極まらせた。
代々受け継がれた大事な指輪だと聞かされて、サブリナは嵌められた指輪を包み込み、胸に押し当てている。
「…………勿論です。アステラ様だと思って大切に身に着けさせて頂きます」
「本来、結婚式に渡すんだがな………もうそんな事はしなくても、サブリナは俺の妃だと思っている」
「…………慣例を無視されましたわね」
「…………早く渡したかったんだ!」
慣例や決まり事は大事にしたい生真面目な性格のサブリナだが、この時ばかりはアステラの気持ちが嬉しかったのだろう。
「ありがとうございます、嬉しいです」
目を潤ませたサブリナを見て、アステラも伝わっていた様だ。
「…………だぁぁっ!キスしたい!いいか?化粧直させるから!」
「陛下、そろそろお時間ですから駄目ですよ」
「っ!」
侍女にサブリナへのキスをも止められて、婚約発表の夜会が始まる。
既に、来賓達も集まり、サブリナとアステラの入場を待つばかりだった。
✦✦✦✦✦
「すっごい………」
「以前、来た頃より豪華だな」
慌てて準備したにも関わらず、レイノルズとミューゼはバッチリめかし込んで、意気揚々で会場を見渡している。
「でもレイノルズ様、アステラ王は王妃を亡くされたばかりなのに、こんな豪勢にしても良いのかしら」
「そうだよな、喪中な筈なのに」
レイノルズとミューゼは目立ちたいからか、壁の花には決してならない。
中央辺りで、先に軽食やワインを嗜みながら、会話をしていた。
「あっ!ユーザレスト公爵!」
「え?………ユーザレスト公爵ってサブリナ様のお父様じゃ………」
「あっちには、モントール………何故居るんだ………」
レイノルズとミューゼの声が響いたのだろう。
ユーザレスト公爵やモントールもレイノルズ達に気が付いた。
「父上、如何します?ご挨拶しに行きますか?」
「何故行かねばならんのだ?もう私達はレイノルズ殿下とは関わりがない。それに、廃位される方で、廃位された後の処遇が如何なるか等分かりきっている」
「…………あぁ………兄上は今頃……」
「そうだ………そろそろ、陛下もご覧になられておられる」
「人を見極める才能があれば、こんな事にはならなかったのに残念だ」
「同意だな」
しかし、気が付いた所で、ユーザレスト公爵やモントールは無視し、気が付かない振りをしていた。
「何あれ………見てみぬ振りしてるわ!」
「ふざけるなよ…………ユーザレスト公爵家……帰ったら亡命した罪に問わさせてやる………侍従に捕まえさせてやるからな!」
「そうよ!職務放棄してるんだから当たり前よ!」
レイノルズからすれば、王族なのだから臣下から挨拶をしに来るのが当たり前だと思っている。
だが、ユーザレスト公爵家は国を捨てたのだ。
王族のレイノルズの方が立場が上だろうとも、母国に居るなら兎も角、外国で頭を下げる意味は果たしてあるのかどうか、だ。
知らない振りをしていればいい、と判断しただけの事。
今後の事を思えば挨拶するだけ無駄なのだ。
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。