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 更に数日後、リンデンがロイズの邸へとお忍びでやって来た。

「やぁ、レイシェス」
「リンデン殿下へご挨拶申し上げます」

 優雅なカーテシーをリンデンに披露したレイシェスだが、リンデンへの表情は無。

「不機嫌に見えるんだが………」
「…………そんな事はありません」

 ロイズとの話を聞き、リンデンがレイシェスにさせようとしている事への不信感だけが重なっていた。

「城で匿う準備は出来たから、計画を聞いて欲しいんだが………」

 ルビリア公国から付いてきた7人の侍従達も同席している部屋で、リンデンとロイズが説明をしようとしている。

「…………殿下……申し訳ありません」
「如何した?ロイズ」
「恐らく、レイシェス様の殿下への信頼度は地に落ちたかと……」
「…………な!何でそんな事迄お前は話すんだ!閨時狙う等!」
「…………っ!」

 ロイズがリンデンに耳打ちした内容で、リンデンの反応がの事を言うのなら、レイシェスがリンデンを信用出来なくなるのは、致し方ないのかもしれない。
 好意があっても、初めて閨事をする場合は緊張するもので、それを見られる可能性のある事や、将来的な約束も無い相手との閨事はレイシェスでも嫌なのだ。
 そのリンデンとロイズの反応を見て、レイシェスは扇で顔を覆い、リンデンから目を逸らす。

「お前………余計な事を……」
「申し訳ありません………まさか本当に考えて来られるとは思わなかったので………」
「それは最終手段だ!俺としても、信頼関係に成り立つ迄、そこにはまだ踏み入れるつもりはないぞ!」

 どうやら、リンデンはロイズに予め話している様で、リンデンも顔が赤い。

「申し訳ありません………」
「全く………先走るな………レイシェスは明日、ロイズと共に登城してくれ。勿論、後の7人もな」
「…………それは構いませんが、どの様にするのですか?ムラガ王を」
「親父には、俺にロイズから『ルビリア公国の女を献上される』と話をしている」
「…………それで、ムラガ王にリンデン殿とわたくしの閨を見られる、という事でしょうか?」
「「何だと!」」
「エレズ!」
「ミハエル!」
「落ち着けよ!まだ話を………」
「話なんて聞く必要あるか!結局この王太子も姫様目当てなんじゃないか!」

 騒ぎ立てるエレズとミハエルは、モルガンやアンセムに羽交い締めされ、ユランは2人を押し戻そうとしていた。

「まぁ、聞け………親父はその献上される女の特徴を聞いて来たが、レイシェスの外観を話している。だが、銀髪に水色の瞳の女に興味を示さなければ、計画は別のにするつもりだったんだが、案の定興味を示した。そこで、他にもルビリア公国からの捕虜になった女から自分も探してみては、と話をしてある。今探している筈だ」
「見つかる訳はない!銀髪はルビリア公国の公族の象徴だ!」
「そう………何千人と連れて来たんだ。既に奴隷になり振り分けられている中からたった1人を見つけるしかない。その隙に、すればいい。居ないと怒り狂い、偽装中に俺達の寝所に怒鳴り込んだ時、親父でも隙があるだろう。予め、寝所に部下達を配置し隠れさせておいて、首を跳ねる」
「…………上手く行くのでしょうか、そんな都合良く……」

 閨を偽装する、とリンデンが言うので、レイシェスは安堵の表情を見せた。誠実に扱われるなら、話を乗ってもいい、とぐらいしか思ってはいないレイシェス。

「親父は銀髪の女を探させ始めた………少なくとも確認迄時間も掛かるし、登城して挨拶等させる気も無いから、明日はずっと俺と寝所に籠っていれば自ずと親父は来ると思う」
「もしその前に、この邸にムラガが来て連れて行こうとしたら……」
「エレズの心配は尤もだ………その点は大丈夫。元々、ロイズのこの邸は別邸で、本邸しか城に登録させてないから、この場所は親父は知らない………偽名で購入させたロイズの邸」

 伏線は張ってあった様で、紋章も無い馬車を使い、レイシェスを連れて来て、ずっと前から本当にムラガを排除しようとしてきていたのだろう。

「血眼になって探し始めた、と報告が入ってる。だが、捕虜になっているルビリア公国の民達が、銀髪の女はレイシェスだ、と言ってしまえば、危険度が上がってしまうかもしれない」
「…………可能性大だ……」
「そうだな………民達は、公族の方々を敬愛しているし、姫様の肖像画は皆欲しがって、人気が高い………インバルシュタットとは国交が無かったから知らないだろうが、海を渡った国々からは、婚姻の申し込みも多数あったと聞く………姫様は1人娘だったから、誰かが婿養子に来る筈だった」
「肖像画は出回っているから、捕虜の殆どが知っている、という事か!」
「姫様は16歳になられ、結婚も出来る歳………引く手あまたでしたよ、ねぇ姫様?」
「…………クラリス……引く手あまたな訳ないじゃないの………例え、望まれたとしても国を治めれる方でないと………」
「…………そんなに多かったのか?」
「おや、殿下………またが増えましたね」

 だが、ルビリア公国が滅亡したという知らせは、もう各地に広がっているだろう。偵察に出してる国もある筈で、そこにレイシェスが居ないとなれば、諦めるしかないのだ。
 ロイズの嫌味に、リンデンは睨むが、その光景を面白く思わないのが、エレズやミハエルだった。
 立場上、地位も権力も持ち合わせているリンデンの方が、レイシェスには相応しい。それが敵国の王太子であっても………。
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