逃亡姫と敵国王子は国を奪う為に何を求むのか【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
11 / 31

10

しおりを挟む

 更に数日後、リンデンがロイズの邸へとお忍びでやって来た。

「やぁ、レイシェス」
「リンデン殿下へご挨拶申し上げます」

 優雅なカーテシーをリンデンに披露したレイシェスだが、リンデンへの表情は無。

「不機嫌に見えるんだが………」
「…………そんな事はありません」

 ロイズとの話を聞き、リンデンがレイシェスにさせようとしている事への不信感だけが重なっていた。

「城で匿う準備は出来たから、計画を聞いて欲しいんだが………」

 ルビリア公国から付いてきた7人の侍従達も同席している部屋で、リンデンとロイズが説明をしようとしている。

「…………殿下……申し訳ありません」
「如何した?ロイズ」
「恐らく、レイシェス様の殿下への信頼度は地に落ちたかと……」
「…………な!何でそんな事迄お前は話すんだ!閨時狙う等!」
「…………っ!」

 ロイズがリンデンに耳打ちした内容で、リンデンの反応がの事を言うのなら、レイシェスがリンデンを信用出来なくなるのは、致し方ないのかもしれない。
 好意があっても、初めて閨事をする場合は緊張するもので、それを見られる可能性のある事や、将来的な約束も無い相手との閨事はレイシェスでも嫌なのだ。
 そのリンデンとロイズの反応を見て、レイシェスは扇で顔を覆い、リンデンから目を逸らす。

「お前………余計な事を……」
「申し訳ありません………まさか本当に考えて来られるとは思わなかったので………」
「それは最終手段だ!俺としても、信頼関係に成り立つ迄、そこにはまだ踏み入れるつもりはないぞ!」

 どうやら、リンデンはロイズに予め話している様で、リンデンも顔が赤い。

「申し訳ありません………」
「全く………先走るな………レイシェスは明日、ロイズと共に登城してくれ。勿論、後の7人もな」
「…………それは構いませんが、どの様にするのですか?ムラガ王を」
「親父には、俺にロイズから『ルビリア公国の女を献上される』と話をしている」
「…………それで、ムラガ王にリンデン殿とわたくしの閨を見られる、という事でしょうか?」
「「何だと!」」
「エレズ!」
「ミハエル!」
「落ち着けよ!まだ話を………」
「話なんて聞く必要あるか!結局この王太子も姫様目当てなんじゃないか!」

 騒ぎ立てるエレズとミハエルは、モルガンやアンセムに羽交い締めされ、ユランは2人を押し戻そうとしていた。

「まぁ、聞け………親父はその献上される女の特徴を聞いて来たが、レイシェスの外観を話している。だが、銀髪に水色の瞳の女に興味を示さなければ、計画は別のにするつもりだったんだが、案の定興味を示した。そこで、他にもルビリア公国からの捕虜になった女から自分も探してみては、と話をしてある。今探している筈だ」
「見つかる訳はない!銀髪はルビリア公国の公族の象徴だ!」
「そう………何千人と連れて来たんだ。既に奴隷になり振り分けられている中からたった1人を見つけるしかない。その隙に、すればいい。居ないと怒り狂い、偽装中に俺達の寝所に怒鳴り込んだ時、親父でも隙があるだろう。予め、寝所に部下達を配置し隠れさせておいて、首を跳ねる」
「…………上手く行くのでしょうか、そんな都合良く……」

 閨を偽装する、とリンデンが言うので、レイシェスは安堵の表情を見せた。誠実に扱われるなら、話を乗ってもいい、とぐらいしか思ってはいないレイシェス。

「親父は銀髪の女を探させ始めた………少なくとも確認迄時間も掛かるし、登城して挨拶等させる気も無いから、明日はずっと俺と寝所に籠っていれば自ずと親父は来ると思う」
「もしその前に、この邸にムラガが来て連れて行こうとしたら……」
「エレズの心配は尤もだ………その点は大丈夫。元々、ロイズのこの邸は別邸で、本邸しか城に登録させてないから、この場所は親父は知らない………偽名で購入させたロイズの邸」

 伏線は張ってあった様で、紋章も無い馬車を使い、レイシェスを連れて来て、ずっと前から本当にムラガを排除しようとしてきていたのだろう。

「血眼になって探し始めた、と報告が入ってる。だが、捕虜になっているルビリア公国の民達が、銀髪の女はレイシェスだ、と言ってしまえば、危険度が上がってしまうかもしれない」
「…………可能性大だ……」
「そうだな………民達は、公族の方々を敬愛しているし、姫様の肖像画は皆欲しがって、人気が高い………インバルシュタットとは国交が無かったから知らないだろうが、海を渡った国々からは、婚姻の申し込みも多数あったと聞く………姫様は1人娘だったから、誰かが婿養子に来る筈だった」
「肖像画は出回っているから、捕虜の殆どが知っている、という事か!」
「姫様は16歳になられ、結婚も出来る歳………引く手あまたでしたよ、ねぇ姫様?」
「…………クラリス……引く手あまたな訳ないじゃないの………例え、望まれたとしても国を治めれる方でないと………」
「…………そんなに多かったのか?」
「おや、殿下………またが増えましたね」

 だが、ルビリア公国が滅亡したという知らせは、もう各地に広がっているだろう。偵察に出してる国もある筈で、そこにレイシェスが居ないとなれば、諦めるしかないのだ。
 ロイズの嫌味に、リンデンは睨むが、その光景を面白く思わないのが、エレズやミハエルだった。
 立場上、地位も権力も持ち合わせているリンデンの方が、レイシェスには相応しい。それが敵国の王太子であっても………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...