逃亡姫と敵国王子は国を奪う為に何を求むのか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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28  *エレズ視点

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「今日は飲まないか?エレズ」

 明日、レイシェスが結婚式を挙げるので、ミハエルだけでなく、モルガン、ユラン、アンセムがエレズが居る騎士達の宿舎の部屋へと集まって来ていた。

「おい!警護は!」
「俺、今日非番」
「俺も」
「俺、明日夜勤」
「俺、サボり…………いやいや、冗談だって!夜勤だよ夜勤!」
「ユランは冗談では済まされない事あるから怖い」
「全くだ」

 エレズがサボって会いに来ているのでは、とモルガン達に聞けば、それぞれ時間を空けて来ていたと安心する。

「エレズは?明日朝一からだろ?」
「…………あぁ……だから、そんなに飲めないぞ?響くから」
「酔えないだろ、明日が結婚式だから」
「俺、カミさんにエレズを慰めに行ってくる、て言ったら快く送り出してくれたぜ」

 グラスに酒を注い合いながら、ツマミを広げていく男5人。

「ちくしょう!いいよなモルガンは家族が無事だったんだから!」
「アンセムだって、カミさん大怪我したものの生きてるじゃないか」
「足、不自由になったからな………俺、レイシェス様の結婚式後、騎士を除隊する事に決めたんだ」
「決めたのか、アンセム」
「支えてやらないとな。まだガキ小さいし」

 配属は違ってはいたが、レイシェスをルビリア城から逃して警護してきた事で友情が芽生え、何かにつけては集まり飲んでいたからか、お互いの家族事情にも詳しい。

「俺は独り身だからなぁ、結婚してぇ………」
「「「「ユランは無理だな」」」」
「何でだよ!」
「お前、浮気性」
「女にだらしない」
「飽きっぽい」
「お前、彼女居たろ?もう別れたのか?」
「…………フラれた」
「誠実じゃないからな、お前」
「エレズに言われたくないね!告白も出来ない弱腰のクセに!」
「…………ぐっ……」

 エレズの横に座っていたモルガンが、エレズの肩を抱き寄せ、グラスに酒を注いで慰める。

「まぁまぁ……ユランに言われた事は気にするな。お前は、姫様一筋で告白なんて出来ない立場だったんだ………高嶺の花に惚れた代償だよな?ミハエルも………」
「……………」
「モルガン!酒!」
「はいよ、ミハエル」
「………俺にもだ!モルガン!」
 
 結局、酒を飲み過ぎて、二日酔い気味になったエレズだが、職務放棄等は出来ず、結婚式前の警備を整え、リンデンに報告しに訪れたリンデンの執務室。
 ギリギリ迄、執務をしようとしていたのか、白の布地のロングコートにサッシュを掛けて机に向かっていたリンデン。

「滞りなく、警護騎士を配置に付かせました事を報告致します」
「うん、ありがとう………ところでエレズ」
「はい」
「まだ引き摺ってるんじゃないだろうな」
「…………え……」

 リンデンはペンを置き、入口に立つエレズを見据えている。

「…………ミハエルにも伝えて、レイシェスにフラれてこい。溜め込んで、其方達2人が一生独身なのは困るだろ。優秀な人材なんだから、子孫を残し、新しいルビリア帝国を支え、もしかしたら俺とレイシェスの子孫と結ばれる可能性だってあるんだ。その機会を逃すのか?」
「…………陛下………」
「爵位があって、場合によっては互いの子供達が結婚する可能性もあると思わないか?」
「…………だからといって、直ぐに切り替えれる訳には……」

 真正面でエレズがリンデンに諭されるのは久しぶりの事だ。エレズはどう切り替えて良いのか返事に困り、目線をリンデンから反らした。

「分かってる………だが、きっかけとしてレイシェスにフッて貰える機会等、今日ぐらいしかないぞ?レイシェスは独身。既婚になって迄懸想されたままだと、レイシェスもどう対処していいか分からないみたいでね………レイシェスにフラせてやってくれないか?エレズ」
「…………分かりました……レイシェス様の為にも……」
「ミハエルとフラれてきてくれ。まだ時間はある。今は準備中だろうが、クラリスにはエレズとミハエルが部屋に訪れる事は伝えてある」
「…………分かりました……時間を作って頂きありがとうございます」
「じゃあ、頼む」
「失礼致します」

 エレズはミハエルと共に、レイシェスの部屋へと向かう。

「告白して成就しないのに、フラれる為に行けって酷だ………」
「姫様は俺達が避けてるのを気にして居られるんだ………フッて貰えるだけ、スッキリするだろうし、姫様も俺達の事で悩まなくて済む……だろ?ミハエル」
「分かったよ…………はぁ……こんな形で終止符を打ちたくなかった」

 扉を叩き、クラリスが顔を出すと、ガウンを着て今から結婚式の衣装を着る準備をしていたレイシェスが立っていた。

「エレズ………ミハエル迄………如何したのかしら?」
「姫様、暫しお時間頂いて宜しいでしょうか」
「…………えぇ……」

 2人が部屋の中央迄歩いて来ると、クラリスとヘレンは部屋の片隅へと隠れる様に立っていた。なるべく聞かない様にしたのだろう。

「姫様、本日はおめでとうございます」
「良き日に恵まれた事、祝福出来る事、心よりお祝い申し上げたいと思います」
「…………ありがとう、エレズ、ミハエル………」

 跪く2人に、少し愁いある表情のレイシェス。

「姫様………本心では祝いたいのです………ですがその横に立つのは、俺で在りたかった……」
「っ!…………エレズ……」
「俺もです!姫様………恋焦がれてました!ですが、俺達は臣下………主君になられた姫様に懸想し、姫様の心を乱す訳にはいかぬ、と想いを閉じ込めていれば良かった………んですが………一年前の事で俺達はとんでもない事を………」
「ミハエル迄………」
「この俺達の想いは、この場で捨てて行きます……それで良いでしょうか、姫様………」
「…………えぇ………貴方達はルビリア帝国の大事な民……そして臣下以外………わたくしがそれ以上思いを変える事はありません………ごめんなさい……わたくし………ずっと気付く事が無くて……貴方達を傷付けてきたのね」
「いえ!…………姫様は姫様らしく過ごされておられれば良いのです」
「これからは、王妃としてリンデン陛下と国の繁栄の為、我々と共にあります事を願っております」
「…………ありがとう、2人共」

 エレズとミハエルは、レイシェスの準備を始めると言うので、クラリスに追い出される様に部屋を出た。

「フラれたな」
「そうだな………また今夜も飲むぞ」
「俺達、何かに付けて酒に頼ってんな」
「いいじゃねぇか」

 この後、結婚式が行われ、エレズ達の警護により問題無く執り行われた。

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