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プロポーズ

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 ネックレスを作るのに、土台とチェーンだけである為、時間はそんなに掛からず出来た。約束の時間にルカスはマークを連れて取りに行く。

「いい仕事させて貰いましたよ、王女様の宝石だと思うと、単純には出来なかったよ………どうだい?この仕上がり」

 職人が取付けたネックレスは、マシュリーの宝石だけでなく、その周辺にも小さな宝石を散りばめていて、その宝石がジェルバ国の民達の宝石だと分かる。民の中心に縋る様に、崇める様に美しく輝くネックレスは、ルカスの想像以上の出来栄えだった。

「素晴らしい!気に入った………王女の胸にこのネックレスが輝くのを想像出来るよ」
「気に入ってくれると有り難い!滅多に着飾る事をなさらない王女様だからな………」
「…………確かに、着飾ってなかったな……」

 マシュリーの姿を思い出すルカス。ドレスは着てはいたが、アクセサリーは着けていなかった。

「王女様は、輸出量の方に回す為に、ご自分はアクセサリーを身に着ける事を拒んでおられるんだ…………ご自分の価値も、民の苦労もご存知だからな」
「…………本当に心が美しい人だな……」
「そうなんだよ!!マシュリー様以上に美しい方等居らん!!分かってるな、旦那!!」
「ルカス様、そろそろ戻りませんと……」
「……………あぁ、そうだな……じゃあこれが代金だ………足りるか?」
「旦那、こりゃ貰い過ぎだ!」
「構わん、主人や主人の弟子達、家族達に美味い物でも食べてくれ、技術料を上乗せするのは、俺がこれを気に入ったからだ、気持ちとして受け取ってくれ」
「……………有り難い!!また作る物あったら、また来てくれ!旦那!」

 店を後にすると、マークが冷ややかにルカスを見つめる。

「持金全部渡しましたよね?ルカス様」
「渡したが?」
「帰りは如何するんです?帰国するにも何泊かしなきゃ城に帰れませんよ?」
「城に帰ったら、返すから立替宜しく、マーク」
「嫌ですよ、部下に集るの止めて下さい」
「じゃぁ、嫌味止めてくれ」
「無理なお願いですね、それ」
「……………」

 ルカスが舌打ちをする。すっかり日が暮れかかり、街に灯りが灯り始まる。子供達は帰路に付き、街の酒屋で酒を酌み交わす者も居る。だが、賑やかではない。本心から笑っていない民達が多かったジェルバ国の街並みを抜け、ジェルバ城に戻ったルカスとマーク。

「返事がある迄、帰国する気はないんですよね、ルカス様」
「……………直ぐに返事は来るさ……切羽詰っている状況だしな」
「条件飲まなかったら如何するんです?」
「……………如何するかなぁ……放っとけねぇし」
「ルカス様が放っとけないのはマシュリー様だけでしょ」
「……………心読むなよ」
「顔に出てます」
「……………副官、辞めさせるぞ?お前」
「俺の代行出来る奴が居るならどうぞ」
「……………くそっ!!」

 客間に戻ると、晩餐会の招待されたルカス。客間に居ないのは伝えて、街に出ていたが、狭い国土である為、行動を把握されていたかもしれない。断る理由も無く、盛装に着替えたルカスと、軍服に着替えたマーク。参加したジェルバ国王族達や臣下達、臣下達の家族がほぼ集まっている様だった。

「急なお誘いで申し訳なかった、ルカス殿」
「いえ、断る理由等ありませんし、寧ろ臣下の方々の顔合わせに丁度いい………もし、移住となれば、その自治区の管理や警護を担う方々ですからね」
「……………その話なのだが、晩餐会の後返事をさせて頂きたい……ここでは重い話は忘れましょうぞ」
「そうですね」

 ジェルバ国王がルカスを臣下達に紹介し、乾杯後の2人の会話。だが、ルカスはマシュリーが居ない事が気になって仕方なかった。

「マシュリー王女は参加されてないのですね」
「………あれは、こういう場が嫌いでな……あの美しさだ………未婚の貴族の嫡男達から言い寄られるのが嫌で仕方ないらしい………ツェツェリア族の幾据えを嘆き、自分は未婚でいい、と言う………だが民達の幸せを一番願っておるのはあの子だ………矛盾しておろう?」
「自分の幸せを探す余裕が無いのでしょう…………もし、心から愛せる相手が見つかったら、ジェルバ国王は祝福されますか?」
「勿論だ………娘の幸せを願わぬ親等居らぬ」
「……………それを聞いて安心しました」

 ワイングラスを口に当て、数口飲むルカスの横顔は自信満々だった。その表情をジェルバ国王は感じ取る。

「手強い娘ですぞ?ルカス殿」
「…………私は諦める事が嫌いなんで……その事も後程、話させて下さい………申し訳ないのですが、王女に会いに行かせて貰っても?」
「…………呼びに行かせよう………万人の目があればアレも変われるかもしれぬ」

 ツェツェリア族同士での婚姻の方がいいのではないか、と思う一方、その男達にさえ靡かないマシュリーへの刺激の為に、ジェルバ国王は動いたつもりだった。だが、ルカスを前にして、山賊から民を救い出す為に、国外に出ようとした勇気に驚いたのだ。この2日の間でマシュリーも変化を求めているに違いないと、期待したジェルバ国王だった。
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