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嫉妬は心を狭くする

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 その夜、ルカスが執務を終え、薔薇の部屋に戻って来たのを見計らい、マシュリーは繋ぎ扉をノックする。

「あれ?マシュリー、夜のお誘い?」
「違いますわ」

 部屋に入り即否定するマシュリーに、ルカスは顔を顰めると、その気にさせようとマシュリーを抱き締めようとするが、マシュリーはすかさずお茶会の招待状を目の前に突き付けた。

「うっぷっ!」
「申し訳ありませんが、わたくし宛にお茶会の招待状が届いておりまして、参加するか迷ってるのです。ルカス様のご判断で出席の有無を出したいと思っておりまして、ご相談させて頂けますか?」

 明らかにその言葉が不服そうで、胸元に押し付けられた招待状をルカスは受け取り、薔薇の間のソファに座り、テーブルに招待状を広げ一通り見ると、レナードが避けた招待状を尽く破り避けた。

「これは却下!絶対にここには行くな………行っても害が無さそうな令嬢はコレとコレとコレかな」

 そして、可もなく不可も無いと言う招待状をマシュリーに返すルカス。

「レナードに伺った令嬢達ですわ」
「ん?レナードにも聞いたのか?」
「はい、ルカス様がお忙しいと思いまして、結局話の流れから、ルカス様へ確認した方が良いと至りましたの…………皇太子妃になる身としては、令嬢方々との交流も必要になりますし、この方々へお返事させて頂き、出席しますが宜しいですか?」
「…………行かなくてもいい」
「え?でも………交流は必要では………きゃっ!」

 マシュリーは手に持った招待状を、ルカスに腕を引っ張られた拍子に落とし、ベッドに連れて行かれ押し倒された。

「必要だけど、何故俺に先に相談しなかった?」
「ですから、お忙しいルカス様の手を煩わす訳にはいかない、と………ただのお茶会の招待状ですし……」

 明らかに怒っているルカス。その導火線に火を着けたのはマシュリーだが、マシュリー自身は全く分かっていない。

「手を煩わす?…………マシュリーが俺に気を遣う必要なんてないんだけど?」
「遣います!」
「………何で?」
「だって…………今はツェツェリア族の事に尽力を尽していらっしゃるではありませんか!その事に、わたくしが邪魔等出来る筈ありません!」
「……………マシュリー……邪魔なんて思う訳ないじゃないか」

 ルカスはマシュリーの気遣いに悲しみを覚えながら、マシュリーの頬に手を添えて擦る。お互いの気持ちが通じ合う。だが、マシュリーには何故ルカスが怒るか分からないので、マシュリーは言葉を続ける。

「では、何故そんなに怒るのですか?」
「………そ、それは………レナードを頼ったから………」
「…………嫉妬ですの?………」
「……ゔ……」
「信用しませんの?ご自分の部下ですよ?わたくしがルカス様の部下を頼るのは、ルカス様が信頼している方々だからこそですよ?」
「…………き、気持ちと心理は別なんだ!」
「………そうですわね……わたくしもモヤモヤしましたもの………今、ルカス様が破った招待状の送り主の令嬢方々…………過去、ルカス様が付き合ってきた方々だとか…………」
「!!」

 ルカスの力が緩み、マシュリーはルカスを押し退け、今度は上になる。

「過去の事ですから、気にしない様にはしてますのよ?でも、その令嬢方達からの嫉妬の矢面に立つ立場になってしまったわたくしは強くあらねば、と思っておりますの………1その嫉妬をわたくしに向けるのは如何なものでしょう…………レナードも話されてましたが、ルカス様はお心狭いですわ………」
「マシュリー…………顔が怖いぞ?」
「お気持ちは察します………今後、ご相談しなければならなくなった時、真っ先にルカス様にお話を通しますわ………その代わり、夜会の招待状が届いたとしても、わたくしが知らない所で破り捨てる事が無いようにお願いしますわね?」

 マシュリーは夜会は好きな訳ではない。だが、未婚を通す立場では無くなった以上、変わる気でいるマシュリーは、ルカスの役に立つ事を優先したかった。ルカスによって、マシュリーは変われたのだ。必要であればその自分の立場でさえも利用しなければ、ルカスの役には立たないと考えていたマシュリー。嫉妬の渦にでさえ、甘んじて受けようと覚悟はしている。

「……………」
「お返事は?ルカス様」

 ルカスはマシュリーに威圧され、押し黙っていた。

「わ、分かったから………それより……この体勢は…………勃ってしまうんだが………そのまま………」
「!!………………お、おやすみなさいませ!」
「あっ!逃げるな!」
「今日から暫くは無理です!」

 マシュリーは、流れ的に房事に持ち込みそうなルカスから逃れる。

「な、何で!」
「……………察して下さい………あ、あの月の………穢れ………は嫌です……」
「…………あ………そ、そうか………分かった……」
「…………申し訳………ありません……」

 あまりにも照れた様子のマシュリーに、ルカスも照れが伝染ると、もう手出しは出来なかった。


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