【完結】鬼畜皇太子にロックオンされまして…………

Lynx🐈‍⬛

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蜘蛛に狙われる金の瞳♥

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 数日後、マシュリーはレナード護衛により、男爵家令嬢コレットの招待のお茶会に来ていた。ルカスとは関係もなく、派閥争いには関与していない中立的立場の男爵家のお茶会だ。最近、社交界へデビューしたばかりで、マシュリーとルカスの婚約発表の夜会が初めて参加したという彼女からの招待だ。
 
「初めまして、コレット様…………マシュリー・ツェツィ・ジェルバでございます」
「ようこそおいで下さいました、マシュリー様!初めてマシュリー様をお見かけした時、この世の人なのかしら、と本当に本当に思っていたんです!うわぁ……本当にお綺麗な方!」
「お嬢様っ!コレット様!ご挨拶を!」

 どうやら、コレットはまだ社交界の礼儀作法がまだ身についていないらしく、控えていた侍女に注意されている。

「あ!も、申し訳ありません!マシュリー様………コレット・フィン・モルアーニと申します。本日はマシュリー様をお迎え出来て、嬉しゅうございます」
「わたくしも本日は楽しみにしておりました………数多くのご令嬢方との交流出来る機会が今はなかなか取れなかったものですから」
「皆さん、気心知れた方々です、お気軽になさって下さい………我が家の庭園で続々と集まって頂いてます……ご案内致しますね」
「ありがとうございます、楽しみますわ」

 庭園に進み、整えられた色鮮やかな花々に囲まれた円卓に、既に3人の令嬢が会話に夢中になっている。椅子は7脚、あと2人来る予定の様だ。マシュリーの姿を見た先客の令嬢達は、立ち上がり一礼をする。

「マリエッタ・ド・ヌーベルと申します、父は侯爵ですわ」
「ドミニク・チェン・マクドネルです、まだ私は社交界へは参加出来てはいませんが、コレット様やマリエッタ様からお話は聞いておりました、これを期に親しくさせて頂きたいです」
「ロージェ・シエラ・ヌーベルと申します。マリエッタの従姉で、いつもお茶会があると一緒にいます」
「マシュリー・ツェツィ・ジェルバですわ、本日は楽しみにしてましたの」

 令嬢達は爵位や自己紹介等を続けたが、マシュリーは言えずにいた。ツェツェリア族としての誇りもあるが、とルカスにも言われていたからだ。ツェツェリア族自治区と他の街への行き来はまだ簡単に出来ている訳ではなく、先ずはツェツェリア族民の生活が安定し定着出来る迄は、往来は制限されている。ルカスはマシュリーとの結婚式迄にはそれが出来る様に、準備を進めているのだ。

「まぁ、今日は見知らぬ方がおみえなのですね」
「………アンナ様!申し訳ありません、お出迎えに遅れて」

 新たな客人に気付き、マシュリーは其方に身体を向ける。護衛で同行したレナードは離れた場所に待機し、その客人の姿を確認すると途端に青褪めるが、直ぐに無表情に変えた。

「…………金の瞳……」
「………はい?」
「あ、コレット様、大丈夫よ………何度もこちらにお邪魔しているのですもの………勝手知ったる、というところでしょうか」
「アンナ様、今日はマシュリー様にもお越し頂けましたの!皇太子殿下のご婚約者様ですわ!」
「ま……まぁ……皇太子殿下の………」

 マシュリーの真正面に居たその令嬢は顔が引き攣る。マシュリーは見逃すつもりもなかったが、敢えて気が付かない振りをする。

「マシュリーと申しますわ、縁あって皇太子殿下の妃になる事になりましたの………至らぬ事ばかりで殿下の隣に居る事に不安を覚える方々もおみえかもしれませんが、殿下の支えになる様に努力致しますわ」
「………ア、アンナレーナと申しますわ……父は法務大臣をしておりますの…………殿下とはさせて頂きました」

 マシュリーとアンナレーナの間に火花がぶつかる。マシュリーからすればただの嫉妬だとは思っていた。

「………そうなのですね、わたくしは殿下の事をまだ全て理解出来ておりませんから、わたくしが知らない殿下の事等教えて頂きたいですわ」

 にこやかに、内心を探られない様にを通すマシュリーに、警護のレナードは冷や汗ダラダラで見守る。そんなやり取りのある庭園にまだ到着していなかった令嬢が来た事で、場は和らいだ。
 差し障りの無い会話を楽しんだ7人。しかし、マシュリーだけふらふらと焦点が合わなくなっていく。それを見兼ね、レナードはお茶会の輪に入りマシュリーに声を掛けた。

「マシュリー様、具合が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「……………え、えぇ……」
「まぁ、マシュリー様大変!少し休ませて貰ったら?コレット様!お部屋をお貸しして頂戴な」
「は、はい!」
「い、いえ………そんな………レナード………帰らせて………頂…………く……」

 カチャ、ガチャン!

「マシュリー様!」
「お医者様を!………今移動はあまりしない方が良いのではなくて?先ずはお部屋へ」
「……………私が運びます………マシュリー様、申し訳ありませんが抱き上げます」

 マシュリーは円卓に突っ伏し、意識が遠退いた。レナードは城に戻ろうと考えたが、アンナレーナがそれを阻み、コレットに指示を出していく。身分の差で左右されてしまうレナードの立場は弱い。父親も爵位持ちだが、子爵であり、レナードも子爵位だった。だが、レナードもただ手を拱いている訳ではなく、レナードは部下にルカスに知らせる様に伝える。

「同じ飲み物を飲んでおられた筈……マシュリー様倒れられたのはおかしい………ルカス様とマークにも動いてもらう様調べろ」

 だが、ルカスがその一報を聞き、モルアーニ男爵家に着いた頃、既に庭園は片付けられ、部屋で休ませられていたマシュリーはモルアーニ男爵家から姿を消した。
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