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制裁は屈辱的に♥
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しおりを挟む翌日、ルカスは大至急に鉄格子の檻を用意させている。
「全員入れて、寝転がれるスペースは確保してやれよ~、あとは排泄物も処理出来る様にな」
大掛かりな鉄格子の檻をマシュリーは見てしまい、ルカスの元へ行く。
「何をなさってらっしゃるのです?」
「あぁ、マシュリー………今日も美しい」
「……………朝別れたばかりじゃありませんか……」
鉄格子を作る職人の前だろうが、ルカスはスキンシップを欠かさず、マシュリーは抱き締める。それがまたマシュリーは恥ずかしく、ルカスを押し離すのだが、この行為が目のやり場に困る事を、マシュリーは知らなかった。
「アガルタの収容している兵士と、デイルが入る鉄格子の檻を作ってる」
「…………何故ですの?追い返すだけで良いのでは?」
「捕まった事と、任務失敗の証拠が必要なんだ…………で、鉄の板にコレを書いて貼り付ける」
ルカスが書いた文章だろう、その文章をマシュリーが読む。
「『私、デイル・ツェル・ジェルバは任務に失敗し、金の瞳の女を連れて行く事は叶わず、尚且つ囚われの身となり、幼き時からの恋焦がれた女にこっぴどくフラれました』………………ルカス………様………酷いですわね………」
「何を言う……デイルに同情するのか?それと、コレも貼り付ける」
「…………同情等はしませんわ……したら、ルカス様怒りますでしょう?……………え!?『私、デイル・ツェル・ジェルバは、金の瞳の持ち主です。以下用にも扱われるのを覚悟し、アガルタへ帰ります。ここにある宝箱には、私デイルから作られた宝飾品で、こちらも好きな様にお使い下さい。私はアガルタの下僕になります』……………はぁ………ルカス様……一応、彼はわたくしの親族で…………」
「だが、ジェルバ国側に置いておくと、マシュリーに害がある…………アガルタに帰りたがっているなら、帰してやるのが親切だろう?」
流石に、マシュリーも言葉が続かず、同情等はしないが、はとこが無事である事を願うだけだ。それは口には出せぬまま、ルカスに紙を返す。
「以下用にも、ルカス様のなさりたい様になさいませ…………わたくし、ルカス様の側に居る事にはその鬼畜さにお付き合いする覚悟が出来ましたわ………そして、ディル兄様から守って頂きありがとうございます」
「覚えておいてくれ、マシュリー………俺はマシュリーの憂いになる事は全て俺の手で取り払うからな…………その思いだけは例えマシュリーでも拒む事は許さない」
「……………はい……」
お互いに重い枷を着けたものだ、とマシュリーもルカスも思ってはいるが、後戻りも変える事も出来ない。分かっているからこそ、マシュリーらデイルに同情もしないし、ルカスもとことん排除しようとするのだと、分かった今回の一連の結末だった。
数日で鉄格子の檻が出来、アガルタ側、西門の外に置かれた檻。国境の門だが、アガルタの兵士が常駐している訳ではなく、ジェルバ国側で、この様な準備をしていても気が付かないのは、アガルタ側がジェルバ国を下に見ていて、侵略しても制圧出来ると思っているからにすぎない。コルセア側も同様だった。
「よし、準備出来たな…………食事や体調管理には気を遣ってやってくれ、檻から出ようとしたり、アガルタ兵が来る様なら、牢獄から直ぐに移動させろ、監視は怠るなよ」
「畏まりました」
「さて、モルディアに帰ろうか」
馬車を用意し、荷を積込む帰郷する兵士達。マシュリーもその馬車に乗る為に城から出て来ると、ツェツェリア族の民達が見送りに来る。
「マシュリー様、我々がこの地を守っていきますのでご安心を」
「お幸せになって下さいね」
「…………皆さん………この地を宜しくお願いします」
マシュリーは民達に頭を下げる。王女が頭を民達に下げるのはあってはならない事だが、謙虚で民を思うマシュリーには簡単に出来る事だった。
「…………マシュリー、行こう」
「はい」
馬車に乗り、モルディア皇国に変える馬車は道中何も問題なく首都へと着いた。
その頃、ジェルバ国とアガルタ国国境付近に、アガルタ兵士達がジェルバ国へ向かって来るのを見た、ジェルバ国の兵士とモルディア皇国の兵士は、牢獄からアガルタ兵を出し、国境にある鉄格子の檻に押し込む。
「何だ、これは!」
「ここに入っててもらう………アガルタから迎えに来てくれている様だからな、そのまま開放するのは、参謀殿に禁止されているのでね」
参謀殿、とはルカスの事だ。モルディア皇国皇太子とは名乗らせてはいない。これは時間稼ぎだ。
手と足を拘束したまま次々と押し込まれるデイルとアガルタ兵。そして鉄格子の扉の反対側には鉄板に彫り込まれた、デイルの事を書いた文章。ルカスが考え、その指示通り書かれた文章が一言一句違わず、書かれていた。
「如何やって出てアガルタに帰ればいいんだ!」
「壊せばいいだろ?鍵を掛けても鍵は渡さない…………檻ごと帰らせてもらえ……屈辱的な帰国だなぁ………ははははははっ!」
「「「「ははははははっ!」」」」
「お、俺はツェツェリア族だぞ!ジェルバ国民だ!王族だぞ!」
デイルは鉄格子にしがみつき兵士達に怒鳴る。
「マシュリー王女からの伝言だ、『デイル・ツェル・ジェルバ氏は、ジェルバ国追放と致します、アガルタ国でご無事で居られる事を願っております』との事だ。マシュリー王女らしい慈悲ではあるが、追放されたアンタは、もうジェルバへ入る事は許されない。良かったな、最後に慈悲深いお言葉を頂いて」
「マシュリー!!マシュリー!!出してくれぇ!!」
その最後の慈悲でさえ、望みを持とうとするデイルだが、ジェルバ国の兵士達は、デイルの行動や考え方は賛同等得る事はなく、清々とした顔をしていた。
「じゃあな、数時間後にはアガルタ兵達は来るだろうから、どう扱ってくれるか分からないが、一応戦闘準備をしなきゃならないんでな、あばよ~」
ジェルバ国からの最後の食事も檻に入れ、ジェルバ国の兵士、モルディア皇国の兵士は門内に入って行った。
数時間後、アガルタ兵士達がやってくる。目の前には鉄格子の檻にアガルタ兵達。武器も持っておらず、傍らにはその兵士達の荷物や馬車、馬、【輸出】した宝石の入っている宝箱と、ディルドが作り出し、マシュリーに贈った宝飾品。
「な、何だ!これは!」
「おい!無事なのか!……………プッ…見ろよおい、コレ」
「ん?何だ?……………ぶはぁははははっ!」
「ジェルバ侯爵、アンタ生きて帰れねぇなぁ…………どうします?隊長」
「クククッ………陛下に献上してみたらどうだ?生意気で、この男を信頼する者は、誰も居ないからな……良くて奴隷落ちか?」
爆笑が起きる国境。壁の上から見張る兵士達も失笑しているのだが、檻ごとアガルタ兵達は持ち帰って行った。戦闘にはならず、警備兵達は胸を撫で下ろした。
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