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アガルタのその後

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 ツェツェリア族自治区にマシュリーはやって来ている。国王の仕事と大して変わらないという、知事としての仕事に翻弄しながら、マシュリーの為にツェツェリア知事は時間を取った。

「待たせたな、マシュリー……ジェルバは如何だった?」
「それが………ディル兄様がアガルタ国の侯爵として、使者で来られましたわ」
「…………な、何だと!生きていたのか!」

 ツェツェリア知事だけでなく、補佐の臣下達も集めて欲しい、とマシュリーはお願いしていて、知事屋敷にはツェツェリア知事の腹心達も集まっている。

「マシュリー様!デイル様が帰られたので?」
「…………いいえ、わたくしを連れて行こうとしてましたわ」

 マシュリーは事の顛末を説明する。アガルタ国へ、ツェツェリア族の希少価値を付けたのは、ツェツェリア知事の従兄、デイルの父親で、その情報を元に、デイルの家族は爵位を持ち、アガルタ国でツェツェリア族の民達を奴隷として管理をして、信頼を得ていたと話す。そして、ザナンザ王太子の身柄をアガルタ国王へ献上し、デイルがマシュリーを娶る事を計画していた、という3年前のザナンザの死の真相をマシュリーは涙を流し話した。

「…………な、なんという………」

 ツェツェリア知事は息子の死にとても心を痛め、マシュリーの事には殊の外慎重になっていた。ツェツェリア知事も涙を浮かべ、頭を抱える。

「し、信頼しておったのに………デイルのマシュリーへの思想はともかく、臣下としてディルの父親は信頼していたのに………」
「我々もですぞ!陛下!だからこそ、ザナンザ殿下が亡くなってから、デイルとマシュリー様が、ジェルバの未来を、と願っていましたよ………だが、ザナンザ殿下が亡くなって直ぐに失踪してしまい………」
「わたくしは…………ディル兄様は嫌いです……失踪等しなくても、わたくしはディル兄様は遠慮していたと思います………ジェルバへ、アガルタ国の使者として来られた時、ディル兄様はルカス様に剣を向けました………」
「「「「……………」」」」

 つい最近、ジェルバ国であった事をマシュリーは話していく。ザナンザの死、失踪の理由、アガルタでのデイル一家の立場をデイルから聞かされた事を話す。

「……………わたくしの権限で申し訳ありませんが、ディル兄様一家はジェルバ国追放を言い渡しましたわ………お父様、宜しかったですか?」
「構わん…………だが、アガルタに居るツェツェリア族の民の安否が心配だ………何をさせているのか等、想像もしたくないが……」
「………ディル兄様は仰いましたわ………女性は娼館へ、男性は労働に当てられ………ザナンザお兄様がもしアガルタへ連れて行かれていたら、アガルタ国王への献上品となる、と………お兄様は金の瞳でいらっしゃったから……」
「デイルも金の瞳だったであろう、何故あやつは奴隷にはなっていなかったのだ?」
「…………瞳の色を変えれる薬を飲んでいた、と………アガルタ人の緑の色で再会しましたわ」
「く、薬……だと?」
「はい」
「「「「「………………」」」」」

 沈黙が流れる。ジェルバ国の苦悩は、王族の身である者の所業ある事が、益々ツェツェリア知事やマシュリーの心を痛めた。だがこの事は内密にしていい話でもなく、既に追放という処罰をマシュリーが下した以上、ツェツェリア知事は隠すつもりは毛頭なかった。

「皆の物…………すまぬな……マシュリーも辛い決断をさせてしまって、苦しかっただろう」
「……………わたくしは大丈夫です……ルカス様がディル兄様に対処して頂いて、気持ちが楽になりました………今迄の柵を、灰にし消し去って頂けたので………」
「?」

 今迄贈られた贈り物や手紙を処分出来た事が何よりもマシュリーの気持ちを楽にしたのだ。それは臣下達には言う事もないので、改めてツェツェリア知事には話すつもりでいたマシュリー。

「失礼致します………マシュリー様、ルカス皇太子殿下がお迎えに来られました」
「ルカス様が?…………お迎えは必要無い、とお伝えしてあったのに……」

 知事屋敷の侍従が、マシュリーに話掛けて来る。

「マシュリー、私もルカス殿と話がしたい……こちらへお通ししてくれ」
「はい、お伝えしてきます」

 暫くすると、ルカスが案内され入室してくる。侍従により椅子もマシュリーの横に用意され、もう既にツェツェリア族から認められる存在になっていたルカス。そのまま、その椅子に腰掛けた。

「失礼します、義父上……臣下の方々も時間を割いて申し訳ない」
「ルカス殿、此度のデイルの事、尽力を尽して頂き、礼を申します」
「いえ、これでマシュリーの憂いが取り除かれた様で、私も嬉しいので礼等必要ありません………その事で義父上や皆に、報告したい情報が入りましたので、お話をさせて頂きたく…………宜しいですか?」

 ルカスは、ツェツェリア族民達を見回し、反応を見る。

「構いません、話て頂いても?」
「では、話をさせて頂きます……」
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