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コルセアとの停戦合意
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しおりを挟むモルディア皇国は、それから何度もコルセア国から兵を送り込まれたが、決してモルディア皇国からは攻め入らなかった。ジェルバ国側からも、国境の砦以外からの過酷な場所からの侵入をされては、国境沿いに魔獣やルカス率いる兵士達に、返り討ちにされコルセアは経済が逼迫してしまい、モルディアから再三の停戦合意をされ、コルセア国王は折れた。
アガルタの地は荒れにあれ、コルセア領土にしたはいいが、結局アガルタ周辺の他の国に取られる羽目になり、コルセア国王は廃位に陥った。
今は廃位になったコルセア国王の息子が即位し、モルディアからの停戦合意に応じる事に決まった。
マシュリーの懐妊祝賀祭から、2年後の事だった。そのマシュリーは無事第1子を産み、2人目を妊娠している。
「やっとですわね………」
「疲れたよ…………マシュリー癒やしてくれ」
「いつも、癒やしているではありませんか………だから、今はロティに癒やされて下さいな」
マシュリーとルカスの第1子はロティシュと名付け、すくすくと育っている。
「女の子がいい………」
「あらあら、可愛いでしょ?男の子でも」
「次も男じゃないか」
「仕方ないじゃないですか………男の子は2人は欲しかったのですから、わたくしは嬉しいですわ」
「ルカス様、そろそろコルセアへ出発する時間ですよ」
「……………もう、そんな時間か……行ってくるよ、マシュリー………ロティ………母上を守ってくれよ」
ルカスは、昼寝をする我が子の額にキスを落とす。
「ルカス様、まだロティは1歳になったばかりですわ」
「意気込みだ、意気込み!!小さくても、大事な人を守る意気込みを持て、という意味だよ」
「ルカス様が1歳でそう思ってたかどうか疑問ですね」
「マーク!!家族団欒を邪魔するな!」
「……………あぁ、はいはい……行きますよ、ルカス様」
「クスクス………お気を付けて」
半ばマークに引っ張られる様にルカスはコルセアへ向かった。
「相変わらずですね、ルカス様とマークの関係」
「エリス………アリエスは見てなくていいの?」
「はい、娘は交代で見てくれてます………ロティ様はお昼寝してしまいましか」
「…………えぇ、グズってしまって」
「幸せそうなお顔」
「……………この子達の時代は、争いの無い国にしたいわね」
「…………そうですね」
ルカス似の白銀の髪のロティシュを撫でながら、ロティシュの乳母になってくれたエリスと微笑むマシュリー。母となった今は子供達が幸せになる夢が増えた。
♡♤♡♤♡
モルディア皇国とコルセア国国境付近。
「ガルルルル………」
「よぉ、今日は通るだけだ………餌は無いぞ」
「すっかり、ルカス様に懐きましたね、あの魔獣達」
「可愛いな……いつか乗れるかな」
「……………また無謀な事言わないで下さいよ」
「ははははははっ!」
何度も戦いの地になってきた平原に住む魔獣達は、ルカスやルカスが率いる兵士達に懐いてしまった。今や番犬ならぬ番獣だ。時折、餌になる家畜の肉を分け与えていたのもあるだろうが、警護をしてくれるようになった。その平原を越えた森を進み、コルセアの砦が見える。
停戦合意協定は、その砦のあるコルセアの街だ。その合意をする上でルカスは前国王も参加する事を望み、現国王や重鎮達と面会する。
「初めまして、ですね………コルセア国王、そして前国王」
「…………モルディア皇国皇太子殿下、この度は度重なる停戦の申し出を先送りにし、戦をした事を謝罪します」
「…………分かって頂けただけで有り難い……モルディアは被害は然程ありませんでしたし………コルセアの方が痛手でしょう」
現国王とルカスの差が垣間見える。悔しそうな前国王と重鎮達を見ると、まだ停戦には合意したくない様だった。しかし、逼迫した経済は取り戻せず、国民からの反発に応じるしかなかった前国王。
「…………そうですね……父、前国王の情けない欲に迷惑を掛けました」
「私が何故、貴方の父上である前国王に会わせて頂きたいと申したのか分かりますか?」
「いえ……何故かお聞きしても?」
「聞きたい事があったのです」
ルカスは前国王に問う。
「…………何が聞きたいのか」
「デイル・ツェル・ジェルバは如何しました?」
「!!……………死んだ」
「その理由を聞いても構いませんか?妻に……妻の両親に聞かせる必要がありまして………妻は元ジェルバ国王女であり、デイルの親族です……ジェルバを追放されたからと言って、最後は知りたいだろうと思いまして」
マシュリーが知りたい訳ではない。知りたいのはルカスだ。デイルが何を知っていたか知りたかったのだ。古代文字を解読すると、研究資料が一部無いという事を知ったモルディアの皇族達。門外不出でなければ、また悪用されかねなかったからだ。
「モルディアの歴史を聞いていた際、私が調べた内容から、大した情報ではないと気が付き殺害を命令したが…………まだ何かを知っていたかの様だった………『虹色の涙』の使い道と【宝珠】が無いから………確かそう言って倒れ、聞き直そうと医師を呼んだが、間に合わず………」
「…………【宝珠】………そうですか……それの情報を持っていたのか……」
「聞いてもいいか?皇太子」
「何でしょう」
「モルディアの皇族とジェルバの民達は、神だったのか?」
「…………貴方も知り過ぎですね………だが、馬鹿の独りよがりで破滅された事を後悔なさるがいい…………神は、モルディア皇国の祖とジェルバ国の祖であるのです………だが、神だった頃の力は遺され今も遺る…………それがモルディアやジェルバの罪。何故なら、何も持たなかったコルセアやアガルタを巻き込む結果となったから…………よく知りもしないで首を突っ込んだ末路がアガルタを滅ぼし、コルセアの前国王の貴方が廃位に追い込まれた悲しい結果となった………これに懲りて、神の力を欲しがる事の無いようにして頂きたい………これは、モルディアの為でもあります………他国を侵略せず、侵略させず………これは、神との約束でしたから………貴方達が、モルディアやジェルバの力を求めなければ、平和に暮らせると思います」
「……………そうか……では私は失礼する……国王はお前だ、停戦合意の締結は任せた」
「………父上、もう静かにして下さいね」
「……………」
コルセア前国王は無言で去って行く。本当に知りたかった言葉は聞けなかっただろうが、神を敵に回す様な行為に、敵う筈は無いのだ、といやに納得させられた前国王は、後日王宮の湖に、浮かんだ状態で発見された。
廃位になり、気鬱になった状態でのルカスの言葉に、もう太刀打ちが出来ないと悟ったのかもしれない。亡くなった以上、憶測でしか無かった。
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