聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛

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プロローグ

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 魔法国オルレアン。
 建国1000年を迎えた繁栄し続けたこの国に新たな聖女候補が誕生する。
 聖女となる条件は、万物の声が聞こえ、生きとし生ける者から愛される女性、とされている。
 だが、長年その様な女児は誕生しておらず、初代エレノアの得意とした魔法、聖魔法が強い者を候補としていた。
 その候補が、ベルセルク公爵家の三女として生まれる予定だった。

「旦那様!邸中に獣達が集まり対処出来ません!」
「駆除しろ!防御魔法を張れ!」
「し、しかし………殺気が無く、此方に攻撃する態勢ではなくて………被害が無い以上、無用な殺生は、初代聖女エレノアの意思に反する事となり………」

 ベルセルク公爵家の邸に、無数の獣達が、新たな生命の誕生を待っていたのだ。
 聖女候補誕生の前後は、その様に数百年に一度、起こると言われていて、それはオルレアン国にとって誉れな事となる。

「な、何だと!ま、まさか我が家に聖女候補が産まれると言うのか!」
「奥様はご懐妊中です………もしかしたらもしかすると………という可能性も……」
「それは良い!めでたい!王宮に至急報告だ!きっと、カミラが産むのは女児に違いない!」

 ベルセルク公爵家には今2人の男児に2人の女児が居るが、こんな出産は初めての事だった。
 だから、ベルセルク公爵も有頂天になるのは仕方ないのだろう。

「旦那様!奥様が只今産気付きました!」
「そうか!今駆け付けるぞ!」

 オルレアン国の伝説によれば、聖女が産まれれば、その子は全身に魔力を発し、光輝くオーラと共に産まれてくるという。
 ベルセルク公爵も浮足立ちながら妻の元へと向かった。


       ✦  ✦  ✦


 産気付いてから5時間程で産まれた女児は、予想通り魔力を発して産まれた為、エレノアと名付けられた。
 紛うごと無き、次代の聖女となるべくして産まれたのだと、信じて疑わずに。

「でかした、カミラ………何と美しい娘だ……エレノア」
「まさか………わたくしが聖女を産み落とすなんて………」
「本当にご苦労だったな、愛してるぞ」
「貴方………」

 夫婦関係も良好で、5人目を授かり、聖女候補誕生に、ベルセルク公爵家だけでなく、王家も喜んでいた。

「ベルセルク公爵家に、聖女候補だと?しかも伝説通りの誕生とはめでたい!」
「今直ぐ、その娘を我が王家の王子達の婚約者候補に入れるのだ!」

 私利私欲、そんな言葉が過ぎる、それぞれの思惑を感じずにはいられなかった。

「…………ぁぁ……ぅぅ……」

 ベルセルク公爵の妻カミラに抱かれたエレノアは、宙に向かい喃語を話している。

「エレノア、何を話しているの?………可愛いわね、貴女は」
『……………何で、またなのよ……毎回毎回、転生した名前は全部………たまには別の呼び方されても良いんじゃない?私』
『エレノア様が産まれ変わられたぞ!』
『やっと我々の嘆く声が届く!』

 喃語を喋るエレノアは、母には届きはしなかった。
 その代わり届いたのは、エレノア誕生を待ち侘びた獣達だ。

『…………イフ、貴方ももしかして居るの?』

 部屋の中にある暖炉の火。それが意思のある様に揺らぐ。

『エレノア様、勿論です………火のある所ならば自由自在』
『……………私、今回はしないからね』
『な、何ですって!今この国の状況が分からないんですか!自然は破壊され、獣達の住処も破壊され、水は汚れ、干ばつさえあるのですよ!貴女が我々精霊に指示を下されば、直ぐに対処出来るのです!オルレアン国は貴女の国ではありませんか!』
「ぅう………あぁあぅ……」
「あら、エレノアご機嫌なのね、お喋り上手よ」

 魔力がある国民でも、万物の声が聞こえぬ者には、という精霊の声や姿は確認出来ない。
 よって、カミラにはただエレノアが喃語を喋っている事しか分からないのだ。

『見限った、という言葉が合ってるわね……聖女にだけ負担が行く様になってしまっている気がするの。国民、皆が対処出来た事を、見逃してきた結果よ………以前の生も、聖女から除外出来る様にして生きたけど、私が手を貸しちゃもっと駄目なのよ』
『それはそうなのですが………前回は何だかんだと手を貸しておられたではないですか』
『大きな災害だけね………でも、今回はしない』
『エレノア様!』
『私、1回でもいいから結婚したいのよね~』

 まだ生後間もない女児が、結婚と口にするのは、明らかに精神年齢はずっと大人であり、言葉も大人びている。

『…………け、結婚………?』
『聖女になるとさ、結婚出来ないのよ。一生独身、て寂しくない?て、言っても初代の時から5代ぐらいしか聖女してないけどさ………させられた娘達、辛かったんじゃないかなぁ』

 1000年の時の間に、時代背景は変わっただろうが、聖女の役割は国の為に生きる事だった。それにはエレノアも何の苦も無かったが、家族を持つ幸せをエレノアは知らない。
 いつか、家族を作るのに憧れていたのだ。
 勿論、生みの親は居て、それぞれ育てて貰ったが、自分が恋をして、結婚した事はない。
 初代女王になったエレノアは、王家を弟家族に据えただけだ。寿命で亡くなった後は、その子孫が今のオルレアン国の王族になっている。

「エレノアにプレゼントだぞ」
「貴方、またですか?」
「他の子供達にも買ってきたさ………今日は朗報も持って来た」
「まぁ、なんですの?」
「うぅ………ぁぁ……」
「王家の中の王子殿下3人の何方かが、エレノアの結婚相手になってくれるそうだ」
『なんですって!結婚!結婚出来るの!私!え?でも、私聖女になるわよね………出来ないわよね!どういう事!』

 前回の生の没後からおよそ100年経った間に、オルレアン国の法律が変わっていたのに、エレノアは驚いた。
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