聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛

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少女期

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「両親が変わってしまったんじゃないだろう」

 話を聞いていたレオナルドが、エレノアの思いもよらない言葉で返す。

「え?」
「君が例え、洗礼式に魔力を抑制したとか、測定器を弄ってなかったとしても、あのベルセルク公爵夫妻は四女の様に君を育てていた筈だ」

 エレノアはそれを考えてはいなかった。ただ聖女になりたくなくて、洗礼式には魔力を抑制した。もし、抑制しなかったらと思えば、と考える事も、どうせ毎回同じ様な人生だろう、と思っただけだ。
 何故、前世の記憶のあるまま生まれ変わるのか、何故性格は当時のままなのかも、面倒で考えるのも止めたのだが、という過程の人生さえも考える事を億劫になっていたので面倒になっていたのかもしれない。
 レオナルドに気付かされた時、ふと涙が一筋溢れた。

「……………あ……そっか……私、自分で自分を助けてたんだ………ホッとしてる……捻くれたあんな娘の様にならなくて………自己犠牲という私の……民を想う気持ちを………忘れない様にその人生を避けたんだ…………それが、この国を作ったきっかけだったんだもん…………汚れた大地、水、空気……泣き叫ぶ生き物達…………皆………好きだから……無くしたくなくて…………頑張ったんだもん、サムエルと一緒に………あの子は身体が弱かったから…………住める土地を探し回って此処を浄化したのよ………」

 穏やかな気持ちになると、エレノアは聖魔法を自然と出せてしまう。エレノアの周辺には花々が咲き始め、木々も緑を取り戻す。空気は済み、獣達も精霊のイフやジルも嬉しそうだった。

「この一帯が浄化されてく…………」
「俺でも分かりますよ………空気の味が変わった………」
「……………あ、張り切り過ぎちゃった……私が手を貸しちゃいけないのに………」
「何故だ、もっとやってくれ!」
「……………それで、この国が衰退しているのが分からないの?王太子なのに………」
「え?」
「何故、皆努力しないの?何故、エレノアを頼りきるの?…………私は死を通して、眠りについて生まれ変わる迄、何十年か百年ぐらい存在しない…………生まれ変わる度に、浄化してきた土地は荒れ、干ばつが起き、森は消え、獣達は住処を無くす………エレノアが、聖女は蘇る。それを口癖に皆は私を待ち侘び、丸投げされてきたの!川が氾濫したら、誰が直すの?人よね!飢えに苦しんだら、誰が作物を育てるの?それも人!じゃあ、川が氾濫しないように、飢えに苦しまないように、何故貴方達王族は考えないの?努力しないの?…………全てエレノアが助けてくれる?…………私は万能じゃない………万物の声が聞こえるのは、彼等が助けを求めているからよ!人だけじゃないの!生きている物は!」

 こんな話を訴えるのに、何年も何十年も何百年も掛かってしまった。

「……………すまない………すまなかった………エレノア………」
「……………うん、だからね、王太子………私の代わりに頑張ってね!私はこの今のエレノアを楽しんで死ぬから、見届けさせてね!あ、私が死ぬより早く死なないでね、安心出来ないから!」
「な、何をそんな軽いノリで言ってるんだ君は!」
「だって、もう他人事だも~ん!聖女になる気、全く金輪際お断りだし!のんびりライフを満喫するんだ~い!ロン!王太子に言いたい事言えたし、私達は旅を楽しも~!」
「…………絶対に駄目だ!」

 レオナルドから離れ、食べ終えた物を片付けて退散しようとしたエレノアだが、背後で握り拳を作り、わなわなと怒りを見せたレオナルドに、エレノアは振り向いた。

「何が駄目なのよ、良いじゃん、貴方もエレノアの子孫なのよ?…………あ、サムエルの子孫か………エレノアには子供も居なかったし、貴方達残された王族は責任を負わなきゃ………私は今度こそ結婚して子供生んで、旦那様と幸せライフを送るんだ~!」
「……………なら、俺がその旦那様なろう!」
「……………は?…………貴方………馬鹿なの?」

 聖女とは関わりたくは無いのだ、と言ったのは、王族も含んで言った事だったのだが、どうやら伝わってはいなかった様だ。

「私はね、王族とも関わりたくないの!浄化やら政務は懲り懲りなの!生まれ変わる度に、直して来た所が変わっていくのよ?それを予想出来て、何でまた余計な労力を使わせる訳?貴方が旦那様になったら、私聖女じゃなくても、王妃になっちゃうじゃん!女王もどれだけ大変だったか、貴方にはまだ分からないでしょうけどね!王太子だし!」
「……………ぐっ………分かった……」
「分かってくれたら良いのよ………じゃ、さよなら~」
「君は一切政務や聖女の事をしなくていい!」
「ん?…………え?」
「その代わり、俺の妃になれ!」
「……………え?………お断りします」

 生まれ変わった直後だったら、結婚相手探ししなくて済む、と思っていたが、今はお断りだ。
 それに、16歳の王太子が10歳の少女にプロポーズ等、どんな趣味なのだ、と王太子が世間に批判されそうだ。

「いや、君は如何しても必要な存在だ!国にとっても、俺にとっても!」
「国は分かるけどさ………何で王太子に私が必要なのよ」
「それは………」
「…………それは?」
「っ!…………」
「言わないならさよなら~………」
「俺が君に運命を感じたからだ!」
「殿下!な、なんていう告白をしてるんですか!」

 時代や国が違えばこの年齢での恋愛や結婚は犯罪だ。
 しかも、スマートなプロポーズではなく直球でなのとロマンチックさは全く、真っ向勝負。
 貴族らしさに欠けた前代未聞の王家一大事の始まりだった。
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