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少女期
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しおりを挟む聖女が降臨した、と王家から国内に布令を出されたのはこの直後。
神殿からでは無い事が、民達や貴族達を驚かせていた。
「聖女が!何年振りなんだ?」
「何故、神殿からの報告ではないんだ!」
素性は隠した布令だった為、聖女は何処の者か、と貴族達の探り合いが始まった。
「誤報に決まってる!次期聖女はベルセルク公爵家の四女、エレノア嬢だった筈だ!」
「あぁ…………あれだけ金を注ぎ込んで、聖魔法を持つ娘がやっと生まれたんだからな!」
そう、神殿は貴族達から金を巻き上げ、一番寄付をした中から聖女を選んでいたのだ。
「えぇ…………勿論、誤報でございましょう………」
「枢機卿!」
「聖女様は、必ず神殿から降臨されるのです…………過去、王宮より遣わされた聖女、エレノア様は神殿が出来ると、5代目のエレノア様から神殿での加護をお与え下さった…………それからは全て神殿から聖女様を排出しております………聖女の洗礼を受けてない者等、聖女で非ず!」
折しも、エレノアが家出した頃、聖女は居なかった。そして、ベルセルク公爵家の四女、エレノアを据えた後、婚約者でもあるエレノアを王太子に成人した折りに贈る算段であった神殿側。
「そ、そうですよね……枢機卿……」
「歴史が物語っております………我らの教皇が間違う筈ございません……」
貴族達が神殿に訪れ、わざわざ確認をして来るのを対応し、笑顔を絶やさない枢機卿は、神官達に伝えた。
「……………わざわざ、私を呼び出さないで貰いたい………忙しいのだ」
「し、しかし………枢機卿……我等官位が低い故、貴族の方々は我等の言葉に耳を傾けて頂けないのです…………もっと上の者を呼び出しせ、とばかり………」
「教皇が申している、と言えば良い………大した額も払えぬ下級貴族等…………聖女様の恩恵も頂けぬわ…………」
「っ!」
腐敗した神殿。金に目が眩み、私利私欲を優先した貴族達、そして小銭を落す平民達から奪う神殿の闇。それが、今のオルレアン国の実情だった。
「失礼致します、教皇様」
「国王の馬鹿な布令の所為で、此方が忙しくなりましたね………」
「全くでございます…………聖女はベルセルク公爵家、四女エレノアでございます」
「忌々しい、ベルセルク公爵家を我が傀儡にする為の贄だというのに………長き初代聖女、エレノアの親族を自慢し、いつまでも王宮の中枢に居る必要は無いのです………早く、この私をオルレアンの王にさせて下さい…………枢機卿……紛い物の血筋は王家には要らぬ………エレノアは神!それが初代国王の教え……………」
何やら狂った様な男が、石像に向かい枢機卿と話す。その石像は5代目聖女エレノアに似た石像だった。
「御意…………教皇様が唯一の建国から君臨する血筋…………初代国王サムエル様の子孫なのですから………」
一体、エレノアが存在していなかった時に何があったのか。エレノアはただ弟と建国したオルレアン国を守っていきたいだけなのだ。
またエレノアの知らない所で蠢く策略が、この後如何なるのだろうか。
✦ ✦ ✦
一方の王宮には、ベルセルク公爵が国王に謁見を求めて来ていた。
「陛下に謁見を求める!今直ぐに!」
「陛下は今、他の者と謁見中です」
「私以上に重要と申すのか!私は聖女の父親だぞ!」
ベルセルク公爵は四女のエレノアを連れて来ていたのだ。
婚約者の地位も四女から奪い、エレノアを妃に望んだレオナルドに物申したい事もあったのに、聖女の地位迄、愛する四女から奪う事は、父親として許せなくなったのだろう。
「そうは申されましても、只今聖女様と王太子殿下との謁見中でして、王族は何より聖女を大事な存在として崇めておられるので」
「何だと!聖女はこのエレノアだ!何の為に……………神殿に金を入れたと………エレノア!行くぞ!」
「お父様!」
ベルセルク公爵は四女の腕を取り、強行突破をするつもりだろう。応接間に国王が居る事は、既に何処かで確認したのか、エレノアを連れて、応接間へと向かっていた。
『なりません!ベルセルク公爵閣下!只今、陛下は他の方と会談中…………』
「何事だ?…………サイラス!」
「はい!…………っ!ベルセルク公爵!」
「陛下!無礼をした事、必ず処罰は甘んじて受けます!ですが、私の意見も直接お耳にお入れしたく……………っ!…………え、エレノア………」
「出来損ない!」
エレノアが国王と王妃と謁見中に割り込む、不敬な父、ベルセルク公爵と妹、エレノア。着飾っているエレノアは、無言でその場から立ち上がり、カーテシーを目の前で披露した。
「ベルセルク公爵閣下」
「っ!」
「わたくし………エレノア・ベルセルクは貴方様方、ベルセルク公爵家とは絶縁を申し上げたいと思っております…………これからは、わたくしの名は元々の名、エレノア・オルレアン………と名乗る事に致しました…………今迄の処遇は、初代国王サムエルの妻、マーゴットの生家と考慮し、わたくしは王家の現国王、王太子殿下に一任したいと思います…………これからは、わたくしが居なかった、生まれてこなかった、と思い、慎ましくお過ごし下さいませ」
「お、お前は私の娘だ!それを………今迄育ててやったのに!」
「育てた?…………本当……マーゴットに聞かせてあげたい………貴女の大切な家族だった実家の子孫がこんな愚者になった、と…………私は何回謝れば良いのかしら………彼女の慈愛満ちた愛情に、弟サムエルを支えてくれた彼女に、私は安心して死ねたのに………子孫がこんなんじゃ………その血を私も受け継いでしまったのも謝らなきゃならないじゃない……」
「エレノア!駄目だ!王宮だぞ!」
「っ!……………お、王太子……」
怒りが、込み上げていた。予想外の顔合わせが、エレノアを暴走させてしまい、レオナルドが止めなければ、王宮が無事では無かっただろう。
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