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成人
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しおりを挟む「枢機卿!教皇様とお逃げ下さい!」
「出来る訳が無いでしょう!教皇様は此処に留まられるおつもりなんです!勝算はある様です!教皇様が今迄間違った事をした事ありますか!」
逃げ惑う神官達が枢機卿を連れ出そうとしているが、枢機卿は動かなかった。
「聖魔法師達に、聖騎士達の治療をやらせなさい!貴方も神官で微力ながら聖魔法が使えるのでしょう!回復させまた戦わせるのです!」
戦意を失った者も居るだろう。その彼等を直ぐに戦わせる、その枢機卿の言葉が、聖騎士達は傷付いていく。外傷ではない、心の傷だ。
「やってられない!枢機卿!俺は神殿のやり方を信じ戦ってきたが、治療して直ぐ戦わせるのか!大怪我をした者は戦意を失ってる者も居るんだ!手や足を切られてる者も戦えと言うのか!同じ国の者同士、聖女エレノアを崇める同士で何故戦う!」
「……………そうですよ……聖女エレノアを慕っているから神殿に騎士として居るんだ……王宮騎士達も聖女エレノアを崇めていて、あっちに居るじゃないか!」
「枢機卿の言葉なんかで動かされるな!皆!」
「何を言う!神殿こそが正しき道に導くのだ!戦え!騎士共!」
しかし、大怪我をした聖騎士達は武器を取らない。それどころか鎧も脱ぎ、神殿から出て行こうとする。
「何をしている!戦え!」
「立てるか、おい…………安静に出来る所へ行くぞ…………此処は危険だ」
「俺も………連れ出してくれ………」
「あぁ、行こう………」
「私達もお供します!」
怪我人の騎士達を放っては聖魔法師として見逃せないのか、聖魔法師達もここぞとばかり逃げ出そうとしていた。
「神官!何をしている!聖魔法師は神殿から出してはならん!聖騎士!聖魔法師を逃がすな!」
「嫌だね…………俺達にも意思がある。アンタに従えない」
枢機卿の横暴さが露見し、戦線離脱者が多く見える様になった。
「ねぇ、聖騎士達減ってない?」
「みたいだな………負け確定だと気が付いたのかもしれないな………作戦でわざと減らした、とも考え難い」
「貴族達の逮捕も効いてるのかしらね」
「何らかの繋がりはあるからな、神殿派貴族と聖騎士や聖魔法師は」
「身内が居たり?」
「そう………不信感は残ったまま戦えはしない」
徐々に減っていると感じる神官や聖騎士、聖魔法師。聖魔法師に至っては、ホッとした表情を王宮騎士達に見せていた者も居たらしい。
「なんて事だ!逃げて行きおって!戻れ!教皇様を信じろ!教皇様が正しいのだ!」
「へぇ~…………正しい?」
「何処が?」
「っ!……………お、王太子………そ、それにお前は…………」
「エレノアちゃんで~す!」
「エレノア…………またそんな軽いノリで……」
「え?だって、この人捕まえやすそうじゃない?」
「そうだな…………」
「役職知らないけど、何が良い?」
「……………へ?」
「火傷?水攻め?斬撃?それとも浄化?あ、あと雷なんて落とせるわよ?」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
エレノアは指1本1本に、魔法を別属性で玉を作りほくそ笑むと、枢機卿は腰を抜かして後退りする。
『お任せを、エレノア様』
「イフ!」
「あ、熱いっ!熱いっ!た、助け…………」
「あらあら…………弱っ………衣服が少し燃えただけで大騒ぎなのね…………貴方」
「枢機卿、教皇の元に案内しろ………案内しなければ丸裸にしてやるぞ」
「ひ、ひぃぃっ!」
少し服の裾や袖が燃えただけで大騒ぎの枢機卿は直ぐにレオナルドに捕まった。
枢機卿の案内で奥に進むと、血生臭さが強くなっていく。換気が出来てはいないのだろう。
「こ、此処です………」
「誰か枢機卿を連れて行け」
何もエレノアとレオナルドの2人だけで来た訳ではない。数人連れているので、対処は可能だろうと思われた。
『俺が中を見てきますよ、エレノア様』
「本当?助かるわ、イフ」
地下で松明も炊いていたのが幸いした。
廊下でさえ、薄暗いのだ。部屋も暗く火は灯っているだろう。
『エレノア様…………』
「何人居た?」
『……………それが……3人なのですが………中に……昔のエレノア様のお姿が………』
「っ!」
「……………エレノアは戻れ……3人なら、騎士含めて2人か3人居れば良い………イフ、手伝って欲しい」
「……………嫌よ……自分でケジメ付けなきゃ」
『エレノア様、俺がレオと入りますから!』
「イフ、気持ちは嬉しいけど、私が居るんでしょ?駄目よ………その私を楽にさせれるのは私よ」
「エレノア…………」
『エレノア様………』
石像を見ても取り乱したのに、石像ではない恐らく死体があると察した。レオナルドもまた取り乱しそうなエレノアを中に入れたくないのだ。
「何度だって言うが、俺から離れるな」
「うん、離れない」
幾らエレノアが魔力が膨大で強くても、女だし感情的になりやすい。エレノアの手を固く繋ぎレオナルドは中に入った。
「…………ようこそ、私達の神殿に」
「っ!」
「エレノア………あれが君か?5代目……」
「え、えぇ…………な、何で生きてる様に保存出来てる訳?」
「貴女が私達の仲を割こうとしている、自称生まれ変わりのエレノアですか………甚だおかしい………私のエレノアの方が美しい……」
確かにこの5代目のエレノアは今のエレノアの様に美しい顔立ちだった。金髪ではなく、銀髪で青い目をした聖女。雪の様な白い肌がにサラッと髪が撫でると、人々を魅了してきた過去があった。
「アンタのエレノアじゃないわ!エレノアはエレノアの物よ!エレノアの意思は今私にある!はっきり言うわ…………例え、アンタがその身体に何をしたって、其処にエレノアの意思は無い!何故ならその身体に入っていた魂は今、この身体にあるからよ!」
「何を馬鹿げた事を………生まれ変わり等、誰が信じると?」
「俺は信じてるぞ」
「……………王太子………レオナルド……」
サーダリーの色恋の目が憎悪に変わる。その視線はレオナルドに向けられていた。
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