聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 神殿の悪行は、埃を叩く様に溢れ出て来た。
 一番の悪行は、聖魔法師達の殺害。
 5代目エレノアに、魔力を吸わせ枯渇した聖魔法師は生命も奪われていて、特に平民から神殿にと称し監禁されると、何年かは神殿で病人や怪我人の治療を、金に比例して仕事を与え、定期的に新しく入った者と入れ替えの為の、5代目エレノアのとして与えられていた。
 それを聞かされた聖魔法師として神殿に送り出した者の家族は怒り狂い、神官達を見ると復讐心から暴力事件に発展するという、連鎖も始まっている。
 神官や聖騎士達は、元々貴族出身の家系で、家督を継げなかった者達の集まりが多かった。彼等の両親は殆どが神殿派貴族達だったので、神官や聖騎士達の行いによっては処罰は免れないだろう。
 自ら神殿に駆け込んだ者達も同様で、自分の行いを正当化したり、処罰を軽くしたりしようとする供述も多いのだという。
 そして、問題の神殿派貴族の家督達の処遇だ。彼等は、政務の中枢に居る者ばかりで、その分収入も多かったので、神殿への寄付額も凄まじく、重い罪が課せられる事は間違いはない。長年、神殿の在り方を心から信じて止まない者ばかりの人達でもあるので、自分達に罪の意識等は無く、それだけで処罰対象にするのは難しいだろう。殆どの者が歴代の教皇に騙されていたのだから。
 エレノアを神と崇め、聖女誕生の伝説は信じられていても、捻じ曲げていた神殿は偽の聖女を立てる事で信用させてきた。毎回、本物の聖女はエレノア1人なのに、5代目エレノアの亡骸にさせ、偽聖女さえもその悲劇に見舞われていたとなると、エレノアはやるせない罪悪感さえ沸き起こっていた。
 自分が聖女の扱いを神殿にされたくなくて、逃げ惑う約600年。その間十数回生き返って来たが、偽聖女の入れ替えは、倍以上だったのだ。

「被害者の聖魔法師の数が、凄いな…………分かっている人数だけでもこの数なんだから、確認取れない数はそれより多そうだ」
「エレノア様がカタパの街で、神官に見つからなくて良かったですね………あの時は身元不明で連れて行こうと神官達は来ましたし」
「……………そうだよな……神殿が無い街では、洗礼式を受けられない者も居ただろうし、育ってから聖魔法が使える、と分かった時点で、連れ去られてるからな………もっと守れた生命もあった筈なんだ………何で過去の王族達は、神殿に言いなりだったんだよ………間抜け過ぎる……」

 戦わずして、泣きを見てきたのだろう王家の先祖達。エレノアが見限るのは当たり前だったのかもしれない。

「今、思い返すと………エレノア様と初めてお会いした時の言葉の意味が理解出来ましたよ」
「……………聖女に頼るな、か?」
「えぇ、それもありますが………国を統治していたつもりで、統治していなかった実情を、エレノア様に指摘された事です………」
「そうだよな………甘えてたんだよな……駄目だよな………もっと、皆で考えなければ………」

 あの時も、レオナルドは指摘されて、自分を見直して来た。だが、まだ力が足りない。

「失礼します………エレノア様が面会にお見えになられました」
「ロンかもな」
「い、嫌ですよ!近付かないで!」
「何、逃げてんの?サイラスさん」
「え…………?……ロンが居ない?」
『よっ!』
「い、嫌ぁ!」

 エレノアの首の後に隠れていたロン。
 それを見て、サイラスは本気で逃げていた。

「ロン、てば本当にサイラスさん好きだよね」
『面白いし』
「限度があるだろ、猛禽類恐怖症が悪化するぞ、ロン」
『すまん』
「サイラスさん、ごめんなさい、てロンが言ってる………謝り方雑だけどね」
「ち、近くには来ないで………仕事溜まってるので………」

 エレノアがレオナルドに会いに来るのは珍しい。
 いつもなら執務の邪魔になったりするから、と伝言なりしてから用事を聞かれるのだが、この日は直接会いに来た。

「如何した?エレノア」
「手伝いに来たんだけど駄目だった?」
「歓迎するよ」
「忙しいだろうからね………神殿の事件以外にも、大変な仕事もありそうだし………そろそろ、私も王族として仕事しないとな、て」
「やりたくないんじゃなかったのか?」
「やりたくないよ、勿論…………でもさ……」
「でも?」
「レオが仕事終わらないと、私…………レオに会えないでしょ?」
「っ!」

 そう、忙しくしているレオナルドを見てしまい、自分だけがのんびりライフをしよう等とは悪い気がしてきたのだ。それならば、王太子妃の仕事もあるなら手伝って、レオナルドを楽にしてあげたい。

「あ、そうだ!ネックレスの事、分かった?」
「今聞き出してるよ………分かった事といえば、神殿からは色々な魔道具を作る加工場があった、て事だ………其処から、エレノアが作った測定器で、あのネックレスの原料が何か分かった」
「何だったの?」
「……………まだ検査段階だが……骨だったらしい」
「……………その骨……て………私の遺骨……?」
「……………うん……他にもその他の人間のも……だから、実際にあのネックレスに使われた石が人骨だったなら………もう間違いないと思う」

 後日、魔法研究所の職員達の解明により、聖魔法師の人骨や4代目エレノアの遺骨から、禍々しい気を放つ石が作られていた事が分かった。その骨の持ち主の呪いなのか、歪んだ感情から作られたその石は、供養されなかった怨念となり、力を宿せたのかもしれない。偶然の産物であれば良いと思う。その加工場ではサーダリーが魔道具を作っていたそうだ。
 神官からの出た供述で、エレノアが作った測定器の研究目的で作られたそうだが、サーダリーでは作る事が出来ず、色々な魔道具を作る様になったらしい。

「あの神殿で行われた、偽聖女の降臨式は、あのネックレスを教皇から掛けられた時に、神殿内が光ったから、偽聖女を信じたんだそうだ」
「結局、仕組みがあった、て事か…………あの娘じゃ聖女になれないしね」
「自分が聖女だから?」
「違うよ…………聖魔法師向きの魔力を持ってなかったんだよ、元々ね………魔力は高いわよ、あの娘は………でも、両親がね……」
「なる程、夢を見させられたからの意地か」
「そういう事」

 エレノアの第一歩の勇気で、運命が変わってしまった家族達を気の毒とは思わない。修正は可能だった筈なのだ。
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