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しおりを挟む「…………はぁ……」
毎日の勉強に自習で文字の読み書きに飽きて来たロゼッタ。
急速で使い物になる様に、とリードに言われ、未だ教えてくれない素性や、まだ実現出来ていない祖父母との再会。
何度聞いても、誤魔化されて別の話に変えられるのだ。
「いつになったら分かるのかしら………レース編みたい………」
最近、レース編みも出来ていない。
「ご休憩されますか?お嬢様」
「あ、あの……レース編みの材料や道具、あったりします?貸して頂きたいんですけど」
「ありますよ、お持ち致しますね」
「ありがとうございます!」
もう随分と作れなかったレース。
この日の朝、リードの手のひらを縫い、レースを思い出してしまう不謹慎さはあったが、鬱憤もロゼッタにはあったので、レースを作りたかった。
用意して貰うと早速、手早く編んでいくロゼッタ。
少しの休憩だったのに、夢中になり過ぎて、次の勉強の教師が来る迄、気が付かなかった。
「…………まぁ!お嬢様!なんて素敵なレースをお作りになられますの!」
「す、すいません!直ぐに片付けます!」
「見せて下さいませ、お嬢様!」
「え………は、はい………」
教師も女性だったからだろう、レースに興味があったのか、出来映えを見てうるうると涙目になっていた。
「お嬢様…………此方のレース、私に売って頂けませんこと?」
「え………良いです……けど………あの……私、自分が編んだレースが幾らで扱われているのか知らないんで、幾らでお売りしたらいいか……」
「…………そうですわね………これは有名な作家のロゼッタに匹敵……いえ……それ以上のお品かもしれません!」
「そ、それ………一体幾らぐらい……」
「金貨10枚は行くかと………人気の物なら大きい物で25枚の高値ですわね」
「そ、そんなに!」
自分のレースの値段に驚きを隠せないロゼッタ。
そのレースを商会に納入しても銅貨50枚行くか行かないかだったのに。
その差額はロゼッタに入らず、何処に行ったのか。
銅貨100枚で銀貨1枚の価値になる。
銀貨100枚で金貨1枚になるので、レースを納入し始めてから3ヶ月、差額を売上の割合が高ければ高い程、貯めに貯めれば、極貧な生活等しなくて良かった筈だ。
「この柄は見た事の無い柄………ロゼッタの編みに似ている様ですが、お嬢様の手なら同等の人気になりますわ!お売り頂けませんこと?」
「…………ふ、夫人は……このレースに値段を付けるなら幾らで買って頂けますか?」
「私、気に入りましたし、またお嬢様のレース編みを見たくもあります。金貨10枚お渡ししますわ。次もしまた別の編みを見れて、また私が欲しいと思ったら、倍出します!」
「っ!」
「駄目ですよ、トランコート夫人」
突然、入室して来たトゥーイ。
「ま、まぁトゥーイ夫人………お嬢様のレースにご興味が?………ですが、このレースはもう私が買わせて頂きますので!」
「いいえ………その事ではありません。次の作品は、もう無いという事です。其方はお嬢様とトランコート夫人との間で決められた事なので、私は口出しをするつもりはございません。ですが、商会を通さない取引は、法律で禁止されている筈です…………売買は禁止なのですよ?」
「そ、そんな事は分かってますわ!なんなら、私の夫の商会を通じて………」
「夫人、事情がありお嬢様の素性は隠されておりますが、その方はジャスガ伯爵領主の商会に入っております………ロゼッタ様ご本人ですのよ?後に問題になる可能性もあるかと思います」
「え…………え!………お嬢様がロゼッタご本人!」
「…………は、はぁ………実は……そうなんです」
「…………あぁ……お知り合いになれるなんて……なんという幸運………商会の垣根は超えられませんわね………このレースは諦めますわ……」
法律で商会を変える事は許されてはいなかったのを、ロゼッタは知らなかった。
「トランコート夫人、このレース差し上げます」
「…………え?……で、ですが高値で取引されている物を頂く等……う、嬉しいですけれど………」
「夫人は、これを気に入って下さいました。日頃からのお礼です。といってもまだ数日ですけど………夫人の、これを見た時の顔が、私も嬉しくて………商会を通さない取引は許されてない事も知りませんでした………なので、私からの贈り物なら大丈夫ですよね?トゥーイ夫人」
「…………はい……お嬢様。それなら問題ありませんわ」
少しトゥーイの含む顔が気にはなったが、その後勉強があるので、トゥーイは退室して行く。
しかし、トランコート夫人が帰宅する時間、トランコート夫人にトゥーイから言葉があった。
「トランコート夫人」
「トゥーイ夫人………騒がしくして申し訳ございませんでした」
「その事ですが、くれぐれもそのレースを自慢なさらない様にお願い致します。お嬢様は訳あってお預かりしている大切なお方………その方の素性が明らかになる迄は、ロゼッタが此方に滞在されている事は内密なのです。口の硬い貴女様を信じて、我が夫は貴女に依頼致しました……リード公爵閣下の逆鱗に触れます事にならぬ様、お願い申し上げます」
「っ!…………わ、分かりましたわ……まさか……あのお嬢様は………」
「我等の交流が切れる事が無い事を願うばかりですね、トランコート伯爵夫人」
「っ!………え、えぇ……そうですわね……ヴェルゴ伯爵夫人」
トランコート夫人は、冷や汗を掻きながら、帰宅して行った。
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