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しおりを挟む「お嬢様、勉強お疲れ様でございました」
この日の勉強が終わり、トゥーイが茶を準備してロゼッタに会いに来た。
「トゥーイ夫人、すいませんでした!私、自身の商会を通して以外の売買禁止を知らなくて………」
「…………お嬢様……大丈夫ですよ……知らなかったのは私も知りませんでしたし、トランコート夫人には、お嬢様とロゼッタが同一人物だという事をご理解頂きましたから」
「夫人は、私の身分ご存知ですよね?」
「…………皆、下がって頂戴」
侍従達がロゼッタの部屋を会釈して無言で退室して行くと、トゥーイが自分の手を握り締め、深く頷いた。
「…………はい……存じております」
「まだ………教えてはくれないんですか?」
「…………閣下が良いと仰る迄は………」
「…………リードさん、嫌いになりそうです……」
ロゼッタはプイっと拗ねた表情をする。
それを見ればまだ幼い少女だ。
「あらあら………いつまでも教えてくれないからですか?」
「…………嫌味多いですし、そうかと思えば優しいですし………私のレースを使ったドレスを自分が編んだ、て言いたくても言えないし……内緒にしろ、て言ったんです!あの人!だから、ロゼッタだと名乗らず、トランコート夫人にも言わずに売ってしまえって………このドレス代も返さなきゃならないし………」
「それで売ろうと?」
「…………はい……」
トゥーイはそれを聞いて納得する。
レース編みが得意だとは、トゥーイも聞いていて、トゥーイもロゼッタの編むレースのファンの1人だ。
だから、侍従にレース編みがしたいと言われたら、素直に渡して、気分転換をしてもらうつもりで、いつでも用意出来るようにしていた。
あわよくばトゥーイも見れると思っての事だ。
「とても人気ですから、ロゼッタ様のレース……何を隠そう、私もファンなのですよ」
「…………言ってくれていたら、私もっと早く夫人に贈ったのに………」
「何枚も持ってますし、侍従達にも評判なので、私1人という訳にはいきませんでしょう?それに、ロゼッタ様はお忙しくされていらっしゃるので、勉強が進んだ頃に、ロゼッタ様がレースを編みたい、と仰る迄は、と願っても望めませんでしたわ」
「今から編みましょうか?」
「まぁ………折角の休憩に……無理なさらなくて結構ですのよ」
「ハンカチ程度の大きさなら編みたい柄があるんです。評価して頂けますか?」
「……………はい!嬉しいご提案ですわね」
ロゼッタの手元見たさに、トゥーイも前のめりになって覗き、ロゼッタの指の動きに感心を表していた。
「…………まぁ……これはこんな風にして…………あ……素敵………」
等と呟いていたので、ロゼッタも針が進む。
「本当に手早いですわ………私も真似ようと拝察しておりましたが、覚えきれませんでした………勉強の覚えの速さも、レース編みの器用さも、ロゼッタ様は賢いですわ」
「あ、ありがとうございます………照れますね……」
「使うのが勿体無いぐらい美しいです………額縁に飾りたいぐらい………」
「使って下さい、是非」
「え…………私に頂けると?」
「はい…………ヴェルゴさんにもお世話になりっぱなしですし、夫人にも仲良くさせて頂いてますので…………こんな小さなハンカチですが……社交場にでも持っていって下さい」
「…………はい……必ず………」
一方、そのロゼッタへの想いが消えないリードは登城し、仕事を熟していた。
「閣下、ジャスガ伯爵領地の帳簿を入手したそうです」
「見せてくれ」
「はい」
「……………」
現王太子を断罪すべく、金の流れの帳簿だ。
全てでは無いにしろ、数カ月だけでも証拠にはなる。
「如何ですか?」
「上手く誤魔化している………商会で消えた収支を孤児院寄付だのと言って、結局は自分の手に残し、王太子に回ってるんだろう………その繋がりが分かれば良いが、別の件で王太子を断罪出来るから、それは今後で良いとして、孤児院や商会、【妻競売】の店共………全部繋がっていて反吐が出る…………」
「全くです…………領地内で金を動かしていれば、漏れないと思って、納税分の収支だけにしていたんでしょうか………ジャスガ伯爵領地は極貧街、という悪評もあった影で、至福を肥やしていたとは………社交場でのジャスガ伯爵もみすぼらしい姿でよく現れますが、実際はそうでは無かった、て事ですね」
「…………まんまと私達は騙されていた、という事だ………街の民達の貧困は、何処よりも目立っている。民達が気の毒だな」
「はい」
リードは席を立ち、脱いでいた上着を羽織る。
「何方へ?」
「陛下の所だ………実行しようと思う。早く解決はさせたい」
「陛下に会うとまた言われますね」
「…………仕方ない。陛下にはもう暫くお待ち頂かないと………ロゼッタ殿下にまだ話せないんだから」
執務室から出たリードに向かい、ヴェルゴはボヤく。
「ご自分の事も言いたくないだけでしょうに………ロゼッタ殿下に何と言われるか怖いんでしょう?オーギュスト様」
誰も聞いては居ないのに、聞こえないリードに語り掛けたヴェルゴだった。
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