【完結】私は競売に出された……でも終わりだと思ってたら大間違いよ!

Lynx🐈‍⬛

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 翌朝、朝食を眠いままなんとか食べたロゼッタは、登城の為に馬車へと乗り込んだ。

「眠そうですね」
「っ!」

 ロゼッタに言われた言葉だと思い、ヴェルゴの声で顔を上げると、ヴェルゴはリードに対して言っていた。
 ロゼッタの前に、全身を委ねて赤い目のリードはあくびを連発している。
 朝食の時は、昨夜の気恥ずかしさから、リードの顔は見れなかった。

「…………煩い………ヴェルゴ……」
「ロゼッタ様も眠そうですし………」
「…………殿下の………事は……今言うな………少し寝させろ………」
「そういう事ですので、ロゼッタ殿も少しお眠り下さい。まだ時間はありますし、緊張されていると思いますので」
「な、何も無かったですからね?」
「…………そういう事にしておきます」
「無いです!」
「はい………」

 絶対に疑っているであろうヴェルゴに訂正すればする程、信憑性を損なうので、ロゼッタも目線を合わせたくなくて、目を閉じた。
 すると、いつの間にか寝落ちしてしまう。

「お2人の間に何があったか等、聞かなくても分かります………事があろうが無かろうが、心配等致しませんよ。これで安心する未来が見える様になりました………お2人であんな悪政を無くして下さい………」

 ウトウトするロゼッタの耳に聞こえる、ヴェルゴの穏やかな声に、暫しの安息を与えた。

「ロゼッタ殿下、閣下、もう直ぐで到着致します」
「…………ん………着いたか………」
「…………ね、寝てた………」
「おはようございます、ロゼッタ殿下」
「す、すいません……ヴェルゴさん」
「今から注意点を申します、殿下」
「っ!は、はい!」

 ヴェルゴの言葉で一気に、緊張感が走る馬車内。

「私の事は、付けでお呼びにならぬ様お願い致します」
「あ………そうですね………リードさんは……」
「私は宰相、若しくは、リード公爵で………ヴェルゴは伯爵を付けて下さい。そして敬語は無しです」
「わ、分かりました………じゃない……分かったわ………で良いの?」
「了承した、若しくは、了解した、ですね。その方が威厳が出ます」
「…………女性的じゃなくても?」
「王太子になる為には必要です」
「…………了解したわ」
「はい………それで大丈夫です。あとは………閣下の様な嫌味混じりの威厳を醸し出せば、もっと良いかと」
「ヴェルゴ…………私を参考にさせなくても………」
「それなら出来そう………見てたから」
「っ!」

 嫌味たらしい口調は、よく聞いていたから分かっているロゼッタ。満面の笑みを見せたので、リードが顔を作れていない。

「閣下………ニヤけてますよ」
「煩い………気が抜けてただけだ……きゅ、急だったから………」
「…………フフッ……私も頑張るから……ね?」
「つ、着きますから!揶揄うのはお止め下さい!」
「……………はい……」
「どうも、立場逆転もされた様で……」
「仕方ない…………私の一方的な片思いだ」
「……………」
「着きましたね………如何かされました?殿下」
「あ………いえ……」

 ロゼッタはリードの言葉で少しだけ固まった。
 リードが初恋の相手で再会した事が嬉しかったのだ。それが今のロゼッタの心は同じ様に向いているのかを考えてしまった。

「殿下………お手を……」

 馬車を降りようとすると、リードがエスコートしてくれていて、ロゼッタは手を添える。

「…………私も好きになると思うわ、オーギュ………」
「っ!」
「安心して」
「は、はい……」

 小声で、降りる数歩の瞬間にしか言えなかった。
 今から入る城は、の立場だから。

「行きましょう、ロゼッタ殿下」
「…………えぇ……私が帰る場所に……」

 ロゼッタが帰って来た城は、如何だったかも覚えてはいない。
 中に入れば分からないが、今はそんな事を思う余裕は無い。

「あの令嬢は誰だ?」
「知らん………誰だ?」

 知らないのも無理はないのだろう。
 王女も男尊女卑の風習上、軽視されていて名も覚えている貴族もあまり居ない様だ、とロゼッタは聞かされている。
 しかも、登城も限られた女しか許されない場だ。
 社交場も、女が参加出来ず、女同士での交流しか無いので、誰が誰の妻かさえも男貴族は分からないらしいのだ。
 ロゼッタの教師、トランコート夫人もトゥーイからの紹介で、直接ヴェルゴはトランコート夫人を知っていた訳ではないのだと言う。

「宰相、令嬢は何方ですか?」
「…………無礼な………王女殿下を蔑ろにする気か?」
「っ!…………お、王女殿下!………い、生きていたのか!」

 本当に女に対して失礼極まりない態度は、この国の当然の事なのだ、とロゼッタは城からでも伝わって来る。

「…………本当に……無礼ね……長く療養していたから分からないのは仕方ないかもしれないけど、王女の私が、久しぶりに帰郷したというのに、この出迎えは何なの?宰相………登城の許される女がどれだけ居ると思って?」
「申し訳ございません、ロゼッタ殿下………で長く療養された後の久方に帰郷出来たばかりだというのに……」

 威圧感はリードを見て覚えていた。
 それを真似た強気のハッタリに、リードは応えてくれた。

「今から、陛下にお会いするので………」
「お祖父様にお会いするのも久々ね………お元気でいてくれるかしら」
「はい、殿下にお会いになれば………」

 リードにエスコートされた様は、直ぐに王太子に告げられる。

「何だと!死んだのではなかったのか!必ず見つけ出して殺せと、ジャスガに言った筈だ!」

 実はジャスガ伯爵、自分の利益優先で、ロゼッタを勝手に孤児にし、それを内密にしていた。
 ロゼッタを見付けられない様にしていたのだが、ロゼッタ自身の才能により、レースで名を馳せたが為に、見付けられたのだ。
 ジャスガ伯爵だけの所為ではない。商会の管理を任せていた男の所為なのだ。
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