22 / 32
21
しおりを挟む翌朝、朝食を眠いままなんとか食べたロゼッタは、登城の為に馬車へと乗り込んだ。
「眠そうですね」
「っ!」
ロゼッタに言われた言葉だと思い、ヴェルゴの声で顔を上げると、ヴェルゴはリードに対して言っていた。
ロゼッタの前に、全身を委ねて赤い目のリードはあくびを連発している。
朝食の時は、昨夜の気恥ずかしさから、リードの顔は見れなかった。
「…………煩い………ヴェルゴ……」
「ロゼッタ様も眠そうですし………」
「…………殿下の………事は……今言うな………少し寝させろ………」
「そういう事ですので、ロゼッタ殿下も少しお眠り下さい。まだ時間はありますし、緊張されていると思いますので」
「な、何も無かったですからね?」
「…………そういう事にしておきます」
「無いです!」
「はい………」
絶対に疑っているであろうヴェルゴに訂正すればする程、信憑性を損なうので、ロゼッタも目線を合わせたくなくて、目を閉じた。
すると、いつの間にか寝落ちしてしまう。
「お2人の間に何があったか等、聞かなくても分かります………事があろうが無かろうが、心配等致しませんよ。これで安心する未来が見える様になりました………お2人であんな悪政を無くして下さい………」
ウトウトするロゼッタの耳に聞こえる、ヴェルゴの穏やかな声に、暫しの安息を与えた。
「ロゼッタ殿下、閣下、もう直ぐで到着致します」
「…………ん………着いたか………」
「…………ね、寝てた………」
「おはようございます、ロゼッタ殿下」
「す、すいません……ヴェルゴさん」
「今から注意点を申します、殿下」
「っ!は、はい!」
ヴェルゴの言葉で一気に、緊張感が走る馬車内。
「私の事は、さん付けでお呼びにならぬ様お願い致します」
「あ………そうですね………リードさんは……」
「私は宰相、若しくは、リード公爵で………ヴェルゴは伯爵を付けて下さい。そして敬語は無しです」
「わ、分かりました………じゃない……分かったわ………で良いの?」
「了承した、若しくは、了解した、ですね。その方が威厳が出ます」
「…………女性的じゃなくても?」
「王太子になる為には必要です」
「…………了解したわ」
「はい………それで大丈夫です。あとは………閣下の様な嫌味混じりの威厳を醸し出せば、もっと良いかと」
「ヴェルゴ…………私を参考にさせなくても………」
「それなら出来そう………見てたから」
「っ!」
嫌味たらしい口調は、よく聞いていたから分かっているロゼッタ。満面の笑みを見せたので、リードが顔を作れていない。
「閣下………ニヤけてますよ」
「煩い………気が抜けてただけだ……きゅ、急だったから………」
「…………フフッ……私も頑張るから……ね?」
「つ、着きますから!揶揄うのはお止め下さい!」
「……………はい……」
「どうも、立場逆転もされた様で……」
「仕方ない…………私の一方的な片思いだ」
「……………」
「着きましたね………如何かされました?殿下」
「あ………いえ……」
ロゼッタはリードの言葉で少しだけ固まった。
リードが初恋の相手で再会した事が嬉しかったのだ。それが今のロゼッタの心は同じ様に向いているのかを考えてしまった。
「殿下………お手を……」
馬車を降りようとすると、リードがエスコートしてくれていて、ロゼッタは手を添える。
「…………私も好きになると思うわ、オーギュ………」
「っ!」
「安心して」
「は、はい……」
小声で、降りる数歩の瞬間にしか言えなかった。
今から入る城は、王女と宰相の立場だから。
「行きましょう、ロゼッタ殿下」
「…………えぇ……私が帰る場所に……」
ロゼッタが帰って来た城は、如何だったかも覚えてはいない。
中に入れば分からないが、今はそんな事を思う余裕は無い。
「あの令嬢は誰だ?」
「知らん………誰だ?」
知らないのも無理はないのだろう。
王女も男尊女卑の風習上、軽視されていて名も覚えている貴族もあまり居ない様だ、とロゼッタは聞かされている。
しかも、登城も限られた女しか許されない場だ。
社交場も、女が参加出来ず、女同士での交流しか無いので、誰が誰の妻かさえも男貴族は分からないらしいのだ。
ロゼッタの教師、トランコート夫人もトゥーイからの紹介で、直接ヴェルゴはトランコート夫人を知っていた訳ではないのだと言う。
「宰相、その令嬢は何方ですか?」
「…………無礼な………王女殿下を蔑ろにする気か?」
「っ!…………お、王女殿下!………い、生きていたのか!」
本当に女に対して失礼極まりない態度は、この国の当然の事なのだ、とロゼッタは城からでも伝わって来る。
「…………本当に……無礼ね……長く療養していたから分からないのは仕方ないかもしれないけど、王女の私が、久しぶりに帰郷したというのに、この出迎えは何なの?宰相………登城の許される女がどれだけ居ると思って?」
「申し訳ございません、ロゼッタ殿下………外国で長く療養された後の久方に帰郷出来たばかりだというのに……」
威圧感はリードを見て覚えていた。
それを真似た強気のハッタリに、リードは応えてくれた。
「今から、陛下にお会いするので………」
「お祖父様にお会いするのも久々ね………お元気でいてくれるかしら」
「はい、殿下にお会いになれば………」
リードにエスコートされた様は、直ぐに王太子に告げられる。
「何だと!死んだのではなかったのか!必ず見つけ出して殺せと、ジャスガに言った筈だ!」
実はジャスガ伯爵、自分の利益優先で、ロゼッタを勝手に孤児にし、それを内密にしていた。
ロゼッタを見付けられない様にしていたのだが、ロゼッタ自身の才能により、レースで名を馳せたが為に、見付けられたのだ。
ジャスガ伯爵だけの所為ではない。商会の管理を任せていた男の所為なのだ。
8
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる