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しおりを挟む翌日の午後には、ヴォルマ公爵領邸には仕立て屋や宝石商が来ていた。
夜会迄、日が余り無いとの事で、既に売り物のドレスや宝飾品が並んでいるのをアルマは試着してはジークハルトに見せなければならなかった。
「似合うな、それも」
「…………ではコレにしますか?」
「いや………まだもっと似合う物がある筈だ」
「…………こ、これは………如何ですかね?」
「これだと、胸元が空き過ぎて、アルマの胸が男達に晒される、却下だ!個人的には俺だけに見せろ………だからこれは買う」
仕事もせず付きっきりになるジークハルト。
時間を空けて、執事や侍女達に呼ばれても、ジークハルトはアルマから離れなかった。
「ジーク様、お仕事は?」
「仕事より大切な事を放置出来ない」
甘い新婚生活だと言えばそれ迄だが、そんな事は結婚して3か月目に入ってから見せられるのは、侍従達も嫌だろうと思われる。
その困り顔を見せる侍従達に、アルマは圧が掛かるので、アルマがどうにかしろ、と言われている様だった。
「ジーク様」
「ん?」
「…………私……お仕事を怠ける方は嫌いです……」
「なっ!」
「…………ジーク様のお仕事されている姿、私好きですよ?」
「ゔっ……」
「夜会のドレス………ジーク様のお好みのも分かりましたから、その中から選びますので、他にジーク様が買うと仰ったドレス含め、少しは私のセンスを信用して頂きたいな、と……」
アルマは縒れてもいないのに、ジークハルトの襟を正す振りしてお願いをする。その際、アルマは態とジークハルトに試着した胸元の空いたドレスのまま押し当てたのだ。
「ゔっ………」
「ジーク様?」
「し、仕事して来るから………今夜は………あの……」
「はい、ジーク様…………お早いお帰りをお待ちしております」
何処の娼婦か、と思われそうだったが、相手が愛するジークハルトなら、アルマも煽るのはお手の物だ。
愛されている自信が付いたからこそ、言えた事だ。
「お見事です!奥様!」
「本当に!」
「ありがとうございます、奥様!」
執事や侍女達に礼を言われ、アルマは苦笑いだ。
「い、いえ………あの………お仕事溜まってたんですよね?」
「そうです………夜会で王都に行かねばならず、その頃に魔獣達が活発になりがちなので、常駐する騎士達にも警戒と訓練やその討伐に配置する騎士達の振り分けやら色々………」
「そんな時期に、王家からの招待状なんですか!」
「は、はい………」
「大丈夫なんですか?王都にジーク様が行かれて………」
「毎年の事でして………恐らく、父君であられるシュバルツ公爵閣下の策略かと………っ!」
「え…………?」
侍従の1人から、渋々出た一言。
その瞬間、他の侍従達に口を塞がれていた。
「教えて下さい!何故、ジーク様のお父様が関係しているのですか!」
「…………私が、奥様に伝えた事はいずれ、理解されると思います……」
「黙りなさい!旦那様に叱咤されてもいいの!」
「だけど、毎年その時期の手柄を旦那様に与えるのを拒んでいるのは事実だろ!シュバルツ公爵は、この地を狙ってるんだから!」
「狙ってる?」
侍従達は、その言葉で押し黙る。
誰もその事に触れるのを恐れている様だった。
「教えて!ジーク様のお父様が、どんな関与をしているのか!」
「…………シュバルツ公爵は………この地で手柄を立てる為、手に入れたがっておられて……」
「手柄?」
「此処は、隣国との国境………そして、同じく魔獣が暴れる地域………魔獣にしろ隣国にしろ、争って国を守ったという、手柄が更なる名誉になるのだ、と………それを前領主、旦那様のお祖父様であるヴォルマ公爵様が阻止し続けておられていたのです………アマリリス様が亡くなり、前ヴォルマ公爵様は旦那様をお守りしながら、シュバルツ公爵様の計画を阻止し続けておりました。それを旦那様はご存知だった為、実のお父様でありながら、旦那様は疎遠の道を………」
「野心がお有りだと…………」
「………はい……それを前ヴォルマ公爵様が知られたのは、アマリリス様とご婚約された直後………その頃にはもう、旦那様をアマリリス様が身籠っておられて………」
ジークハルトの父は、アルマでも知っていた。
王城や王都の警備を含む、全騎士の頂点に立つシュバルツ公爵。
その人が、ジークハルトであるヴォルマ公爵の父親だとアルマは知らなかった。
公にされていたなら、有名な筆頭公爵とジークハルトの関係を知っていただろうが、公にはなっていない。
「私達は、代々ヴォルマ公爵家を領主として、領地民は育って参りました……アマリリス様への待遇を私達、ヴォルマ公爵領の民達はシュバルツ公爵閣下に恨みしかありません………儚げでお優しかったアマリリス様を、泣いておられていても無理矢理手篭めにされた様を、前ヴォルマ公爵閣下に仕えていた者は今でも鮮明に覚えております!」
ジークハルトの出生に関しても、詳しくはされてはおらず、前ヴォルマ公爵が隠していたのか、シュバルツ公爵の圧力で隠されたのかは不明ではある事だったが、余りにもジークハルトが闇に埋もれている存在の様にアルマは見えた。
アマリリスとシュバルツ公爵との結婚も然り、ジークハルトの出生も然り。
それに今になって、やっとアルマは知り得る事が出来たのは、侍従達から信頼を得ていたのかもしれない。
「ジーク様のお母様の事は少し聞きました………後は、私…………ジーク様から伺うので………」
悔しそうに語る侍従達を見て居られなくなり、アルマはその場で終わらせたが、聞けば聞く程、ジークハルトの闇の中にアルマも入ってしまいそうになっていた。
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