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27 *イェルマ視点
しおりを挟む王城、イェルマの私室。
「何ですって!」
「殿下、お怒りかと思いますが、お静まり遊ばせて………」
茶会が終わり、一旦夕方迄時間が出来たこの間、親戚であるセムラ侯爵夫人がイェルマの私室へ訪れていた。
一部始終、セムラ侯爵夫人が茶会で見てきた事を報告する為だ。
「ジークハルト様と結ばれるのはわたくしよ!何でパッと出の田舎貧乏伯爵令嬢に奪わなければならないの!」
「殿下…………美しいお顔が台無しになります!」
「……………そうよ……わたくしは何でも持っているわ………地位、権力………そしてこの美貌………誰か!そのリンデル伯爵令嬢の絵姿を持って来て!」
貴族社会に居る者は、全員絵姿を提出させられている。アルマも提出をしなければならず、王城に保管されている筈だった。
「じゅ、16歳との話でしたが、とても大人びた印象を受けました………茶会の場所も急遽変えたのにもかかわらず、サロンの場に合った衣装で来ておりまして………」
「馬鹿にするんじゃなかったの!恥ずかしい思いをさせて、田舎に引っ込ませる様に持って行きなさいよ!ジークハルト様に呆れられてあの方から逃げたら、シュバルツ公爵の長男ヴァイスが慰める予定だったんじゃない!夜会でその女を仕方なく連れて来なければならない様に、招待状も名指しして送ってるのよ!ヴァイスに後は任せるつもりだったのに!」
イェルマがヴァイスを長男と言うあたり、ジークハルトと兄弟なのは知らないのだろう。
シュバルツ公爵家では長男という扱いではあるが、シュバルツ公爵の第1子はジークハルトだ。イェルマの兄であるアレクシスでもヴァイスを長男の扱いはせず、ジークハルトの弟と言っている。
その様子を見ると、イェルマは政治的な観点や歴史について知識は疎いのかもしれない。
「も、申し訳ございません!」
「……………使えないわ、叔母様………貴女はシュバルツ公爵家を支持しているのでしょう?それなら役に立って貰わないと困るわ!わたくしはジークハルト様と結ばれて、あの方を国王にするの!エリックお兄様はシュバルツ公爵の言いなり、アレックスお兄様は頭はキレるけど平和主義者………その点わたくしは平和より愛を取るの!政治の事はジークハルト様に任せ、わたくしはジークハルト様にだけ愛を囁き、いつまでもお支えするわ…………あんな魔獣や隣国の小競り合いの多い危ない場所に、ジークハルト様を根付かせるなんてあってはならないの!」
頭の中はお花畑でも咲いているのだろうか。
愛だけで国は統治出来ない。
ジークハルトが統治するヴォルマ公爵領が守っているから今は平和なのだと、知りもしない王女に任せたら国は潰れてしまうだろう。
ジークハルトと結婚をあわよくば出来たとして、アルマと別れさせられたらジークハルトは国への忠誠心は無くなるかもしれない。
そういう事も考えが及ばなそうなイェルマに誰も注意はしなかった。
「もういいわ………夜会の準備するから叔母様は出てって下さい………わたくしの美貌でジークハルト様を落とすのよ!ほら!早く貴女達動きなさいよ!」
「「「「は、はい!殿下!」」」」
夜会用のドレスに着替えたイェルマ。
姿見を見て自己陶酔していた。
「あぁ………なんてわたくしは美しいの……ね、皆も思うでしょう?」
「はい、とても」
「美しいですわ」
「ヴォルマ公爵閣下が魅了される事、間違いないかと」
「…………ふふふふふふ……そうよね?わたくしより美しい女は居ないのよ!」
反対意見を述べれば、首が飛ぶ。
そんな場所で誰も否の意見は言えなかった。
美しくても美しくなくても、本人が美しいと思えば、美しいと答えなければならないイェルマの侍従達。
王子以外、国王になれる法律は無かった。そんな国でイェルマに国王となる資格等与えられる事は無いのだから、いい嫁ぎ先を見つけ、国の為に役立つ相手に恵まれればいい、と甘やかされた王女だという事だ。
王都から離れたくない、という我儘は、父である国王に甘やかされたままで居たいから、の1つしかない。
嫁いで降嫁しても、王女だから、と威張るのが関の山だろう。
そんなイェルマが夜会で何をするのか、イェルマの侍従達は恐ろしさをひた隠しし、その心配からアレクシスへと直ぐに報告が入ったからこそ、アルマとジークハルトに伝えられたのだ。
アレクシスは平和主義者では決してなく、国の為になる事をしているに過ぎないのを知る者は少ない。エリックも国王の素質があったのかもしれないが、シュバルツ公爵の言いなりになってしまい、イェルマの行動を心配する侍従が、エリックに話をしても改善されなかったから、アレクシスが動く事を決めたのだ。
小さな我儘であれば許されたかもしれないが、積み重なり大きな我儘になると手が付けられなくなる。その前に摘み取らねばならない。
兄妹でも許せない事は、他人はもっと許す事は無いからだ。
「あぁ………夜会、楽しみだわ……今夜からわたくしの夫となるのよ、ジークハルト様………お父様にはお願いしてあるわ………夜会であの女との婚姻は無効にする、て宣言して貰うの………そして、わたくしを妻に………て………使える権力は使わなきゃね、そうでしょ?ジークハルト様……」
姿見の自分を見て、その先に居もしないジークハルトが居るように話し掛けるイェルマに心配しない者は居ないのだった。
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