結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 処罰された貴族は財産没収や爵位剥奪、罪が重い者は投獄とされ、軽くて平民となる事を余儀なくされる。
 領地の移動も制限される事になる為、特にヴォルマ公爵領への出入りは禁止とされた。
 それは悪用されかねない資源の収集を防ぐ為である。
 数限りある資源になるオリハルコン。秘宝とされヴォルマ公爵領の騎士達全て、持てる訳でもないからだ。
 隣国もヴォルマ公爵領でオリハルコンが採取される事も知らない程、希少な物で守らねばならない。

「暫くお別れね、アルマ」
「はい………寂しいですが、お元気でいて下さい、お父様、お母様、お兄様」
「俺は頻繁に帰れる様にはするが、アレクシス殿下の仕事を担うから、王都に残る。手紙、書くからな」
「はい………お兄様もお身体にお気を付けて」

 お互い、出発時期を知らせていたので、アルマは両親の見送りに来ていた。

「ジークハルト様に感謝を伝えておいて」
「分かりました」

 最後に包容をし合い、見送る。そして翌日にアルマもジークハルトとヴォルマ公爵領に帰る予定だ。
 1週間の滞在は長いようで短かった。

「帰る準備、しないと………」
「荷造りは私達にお任せ下さればいいのですよ、奥様」
「手持ち無沙汰は嫌なんです」
「奥様は真面目ですねぇ」

 ジークハルトはギリギリ迄王城に登城している。あれやこれやと、アレクシスに振り回された日々を送り、疲れて宿に帰ってきていた。

「はぁ…………やっと帰れる………」
「終わったのですか?事後処理」
「俺は切り上げただけ。後は殿下や殿下の秘書官達に丸投げしてきたよ」
「よ、良かったのでしょうか」
「良くも悪くも、本当に帰らないと領地が心配だからな………領地からの知らせもこっちでは対処が遅れるし」
「そうですね」
「帰ろう、我が家に」
「…………はい」

 長旅で途中、ヴォルマ公爵領からの知らせを受け取りながら、対処も欠かさないジークハルトに、旅の疲れが溜まっていく。

「…………全く……まだアイツが領地に居るとはな……王都に帰りたくないんだろうな、捕まるから」
「アイツ?」
「キースだよ、シュバルツ公爵家の」
「逃亡の恐れはないんでしょうか」
「見張らせてるが、ない様だ」

 アルマがジークハルトから聞いた所、父のシュバルツ公爵が投獄された後、娼館に隠れて出て来ないのだという。如何していいか分からないぐらい、主導者が居ないと動けない輩だった、という事だ。
 魔獣だとて生き物であり、人間の生態系を脅かさない限り、領地の居住地に押し入る事があれば討伐する事になっている為、常に緊迫した状態で警備するのだが、キースは遊び歩き、討伐しに来た意思は全く無い。
 兄のヴァイスはキースよりマシだったぐらいだ。
 気に入らない事があると邸迄来て文句を言い、ジークハルトに追い返されるのを、この時期は頻繁だった。それがそれも無いという事は、自分も捕まる、と思っているのだろう、と笑って語るジークハルト。

「隣国に逃亡の気配も無いのですね」
「隣国も馬鹿じゃない。魔獣の被害もあちらでもあるんだろう。その為、国境間の諍いは少なくなるんだ。態々、魔獣の繁殖時期に縄張りを通ると如何なるか、等分かりきっている。餌にされて骨も残らない。行き来するだけ生命をそれだけで無くすだけだ。だから戦を回避出来る時期でもあるのだがな」
「知りませんでした………そこ迄」
「アルマには領の資源を話してあるが、オリハルコンは魔獣に守られている事も重要なんだ」
「守ってる?」
「乱獲すると、世界の均衡が保てなくなる。必要な物だと思うが、貴重な物として使っておけば、その均衡が崩れるのを先延ばしに出来るからな」

 シュバルツ公爵は魔獣を全て倒し、オリハルコンを全て手に入れるつもりで領地を欲しがった。その為に人間の生命を犠牲にするのはあってはならない。

「オリハルコンの地質調査も魔獣が居るから出来ていないのに、魔獣の姿が見えなくなったら隣国だって黙ってはいない。剣を作るのにだって時間も掛かる。短剣は剣より作る日数は少なくて済むが、量も時間も騎士全員に行き渡される事は容易ではないんだ………祖父より前の領主が長年掛けて作らせられたのはたった2本。短剣は何本も作れたが、国王に献上した1本と領主が代々受け継ぐ1本で何代も所持している……それをあの男は、1代でやろうとした………阿呆だろ?」
「策士策に溺れる、という感じですね。その前に溺れてしまいましたが」
「そうだな………祖父はそこ迄あの男に教えてなかったのかは知らないが、オリハルコンが簡単に手に入れられると思っていたのかもしれない。魔獣は鉄剣で倒し難い個体も居る。そういう場合、オリハルコンの素材で出来た矢も用いられるから倒せるが、それだから剣術の腕だけで簡単に倒せると思ってたのかもな………自分が生きている間に出来ると思ってたら本当に阿呆だ」

 同じ時間を掛けて移動し帰ってきたヴォルマ公爵領。
 魔獣が活発になっている、と知っているので途中、アルマ達が乗る馬車が襲われる事もあったが、ジークハルトや多く付き添っていた侍従達が倒し、アルマは初めて剣を振るうジークハルトにまたも惚れ惚れするのだった。
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