35 / 38
34
しおりを挟む処罰された貴族は財産没収や爵位剥奪、罪が重い者は投獄とされ、軽くて平民となる事を余儀なくされる。
領地の移動も制限される事になる為、特にヴォルマ公爵領への出入りは禁止とされた。
それは悪用されかねない資源の収集を防ぐ為である。
数限りある資源になるオリハルコン。秘宝とされヴォルマ公爵領の騎士達全て、持てる訳でもないからだ。
隣国もヴォルマ公爵領でオリハルコンが採取される事も知らない程、希少な物で守らねばならない。
「暫くお別れね、アルマ」
「はい………寂しいですが、お元気でいて下さい、お父様、お母様、お兄様」
「俺は頻繁に帰れる様にはするが、アレクシス殿下の仕事を担うから、王都に残る。手紙、書くからな」
「はい………お兄様もお身体にお気を付けて」
お互い、出発時期を知らせていたので、アルマは両親の見送りに来ていた。
「ジークハルト様に感謝を伝えておいて」
「分かりました」
最後に包容をし合い、見送る。そして翌日にアルマもジークハルトとヴォルマ公爵領に帰る予定だ。
1週間の滞在は長いようで短かった。
「帰る準備、しないと………」
「荷造りは私達にお任せ下さればいいのですよ、奥様」
「手持ち無沙汰は嫌なんです」
「奥様は真面目ですねぇ」
ジークハルトはギリギリ迄王城に登城している。あれやこれやと、アレクシスに振り回された日々を送り、疲れて宿に帰ってきていた。
「はぁ…………やっと帰れる………」
「終わったのですか?事後処理」
「俺は切り上げただけ。後は殿下や殿下の秘書官達に丸投げしてきたよ」
「よ、良かったのでしょうか」
「良くも悪くも、本当に帰らないと領地が心配だからな………領地からの知らせもこっちでは対処が遅れるし」
「そうですね」
「帰ろう、我が家に」
「…………はい」
長旅で途中、ヴォルマ公爵領からの知らせを受け取りながら、対処も欠かさないジークハルトに、旅の疲れが溜まっていく。
「…………全く……まだアイツが領地に居るとはな……王都に帰りたくないんだろうな、捕まるから」
「アイツ?」
「キースだよ、シュバルツ公爵家の」
「逃亡の恐れはないんでしょうか」
「見張らせてるが、ない様だ」
アルマがジークハルトから聞いた所、父のシュバルツ公爵が投獄された後、娼館に隠れて出て来ないのだという。如何していいか分からないぐらい、主導者が居ないと動けない輩だった、という事だ。
魔獣だとて生き物であり、人間の生態系を脅かさない限り、領地の居住地に押し入る事があれば討伐する事になっている為、常に緊迫した状態で警備するのだが、キースは遊び歩き、討伐しに来た意思は全く無い。
兄のヴァイスはキースよりマシだったぐらいだ。
気に入らない事があると邸迄来て文句を言い、ジークハルトに追い返されるのを、この時期は頻繁だった。それがそれも無いという事は、自分も捕まる、と思っているのだろう、と笑って語るジークハルト。
「隣国に逃亡の気配も無いのですね」
「隣国も馬鹿じゃない。魔獣の被害もあちらでもあるんだろう。その為、国境間の諍いは少なくなるんだ。態々、魔獣の繁殖時期に縄張りを通ると如何なるか、等分かりきっている。餌にされて骨も残らない。行き来するだけ生命をそれだけで無くすだけだ。だから戦を回避出来る時期でもあるのだがな」
「知りませんでした………そこ迄」
「アルマには領の資源を話してあるが、オリハルコンは魔獣に守られている事も重要なんだ」
「守ってる?」
「乱獲すると、世界の均衡が保てなくなる。必要な物だと思うが、貴重な物として使っておけば、その均衡が崩れるのを先延ばしに出来るからな」
シュバルツ公爵は魔獣を全て倒し、オリハルコンを全て手に入れるつもりで領地を欲しがった。その為に人間の生命を犠牲にするのはあってはならない。
「オリハルコンの地質調査も魔獣が居るから出来ていないのに、魔獣の姿が見えなくなったら隣国だって黙ってはいない。剣を作るのにだって時間も掛かる。短剣は剣より作る日数は少なくて済むが、量も時間も騎士全員に行き渡される事は容易ではないんだ………祖父より前の領主が長年掛けて作らせられたのはたった2本。短剣は何本も作れたが、国王に献上した1本と領主が代々受け継ぐ1本で何代も所持している……それをあの男は、1代でやろうとした………阿呆だろ?」
「策士策に溺れる、という感じですね。その前に溺れてしまいましたが」
「そうだな………祖父はそこ迄あの男に教えてなかったのかは知らないが、オリハルコンが簡単に手に入れられると思っていたのかもしれない。魔獣は鉄剣で倒し難い個体も居る。そういう場合、オリハルコンの素材で出来た矢も用いられるから倒せるが、それだから剣術の腕だけで簡単に倒せると思ってたのかもな………自分が生きている間に出来ると思ってたら本当に阿呆だ」
同じ時間を掛けて移動し帰ってきたヴォルマ公爵領。
魔獣が活発になっている、と知っているので途中、アルマ達が乗る馬車が襲われる事もあったが、ジークハルトや多く付き添っていた侍従達が倒し、アルマは初めて剣を振るうジークハルトにまたも惚れ惚れするのだった。
96
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる