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マッチング(5)
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「ごめんなさい。悪く思ったわけじゃないんです。羨ましいと思って」
鈴は咄嗟にそうフォローした。気を悪くしていないだろうかとコータを見ると、彼は不思議そうに首を傾けている。
「羨ましい、ですか?」
「私は、あまり人と接するのが上手くないので」
口に出してから、またしても余計なことをいったと鈴は眉根を寄せた。お悩み相談に来たわけではないのだ。セックスをしてみたくて、あんな募集をかけたのだから。
けれど、これだけはちゃんと伝えておかなければいけないだろう。
「私、初めてなんです」
「はい。VRに慣れてないんですよね?」
「それもあるんですが、その、性経験がなくて」
鈴がそういうと、コータは目を丸くした。
「えっと、それはVRでのセックスが初めてってことですか?」
「そうではなくて。セックス自体が」
「え?」
コータの口から驚きの声が漏れる。やはり、処女がこういう募集をかけるのは驚かれるものなのだろう。もしかしたら、処女は面倒くさいと思われたのかもしれない。
「心配しなくても大丈夫です。VRは脳刺激で疑似的に快感を引き出すから、初めてでも痛くないって聞きました。血も出ないし、あなたにもそう面倒はかけないと思います」
「いや、待って下さい。そういうことが言いたいんじゃなくて」
コータはなぜか顔を赤くして、手のひらで顔を覆った。それから、低い声で何度か唸ると、指の間から伺うように鈴を見る。
「本当に、初めて?」
「事前に伝えるべき情報を、後出ししてすみません。慣れている相手が良いのなら、私はまた別の人を探すから」
「待って下さい、嫌だなんて一言も言ってません!」
「そう? でも、処女は面倒くさいって聞きますし」
「面倒だなんて欠片も思いませんから! むしろ、大歓迎です」
「そう、ですか。なら良かった」
前のめりで否定されて、鈴は少し後ろに仰け反った。
コータのこの食いつきは何なのだろうか。世の中には、処女を好む人間もいるようだから、もしかしたら彼もその類なのかもしれない。
「でも、掲示板にはソフトSMがしたいって」
「お恥ずかしいのですが、私は、どうやらそういうのが好きみたいで」
「それは、いったいどうしてそう思ったんです?」
「アダルトコンテンツを見て、惹かれるのがそういう嗜好だったんです。具体的には拘束、目隠しだったり、脅されて無理やり恥ずかしいことをさせられるプレイが、その、好きだなあと」
「無理矢理、恥ずかしいことを」
コータの喉がごくりと動く。
性癖をうちあけながら、初対面の人間に何を話しているのだろうと鈴は恥ずかしくなってきた。リアルの知り合いであれば、絶対にこんな話はできないし、頼めない。けれど言わばVRは行きずりの関係。ログアウトしてしまえば、コータはRINが誰かなんて知りもしないのだ。だからこそうちあけられるのだが、それでも恥ずかしいことは恥ずかしい。
「やっぱり、ひきますか? 処女のくせにそういうのに興味があるなんて」
「とんでもない!」
不安になって鈴が問いかけると、コータは大きく首を左右にふった。
「ちょっと驚きましたが、良いと思いますよ。というか、うん、凄く良いです」
コータに肯定されて、鈴はほっと息を吐いた。
「よかった。そう言っていただけて安心しました」
「性癖は人それぞれですから。ただまあ、ああいう掲示板で募集するのはあまり良くないとは思いますけど」
「そうですか?」
「いくらVRだからって、どういう相手がくるか分からないんですよ? 俺を選んでくれたから良かったものを、変な相手が来たかとおもうと」
「その心配は私もしましたが、いざとなればログアウトすればどうとでもなるので、平気かなと。だけど、初めてがコータさんで良かったと思います」
メール文が丁寧だから選んだが、こうして会って話してみても親しみやすい。おかしな相手に当たることも想像していたが、初めてが彼で良かったと鈴はホツと息を吐いた。
「そんな風に言われたら、調子にのりますよ?」
コータは照れたように鼻の下を指で擦ってから、すっくとソファーから立ち上がる。
「雑談も良いですが、時間も勿体ないですし、始めませんか?」
そう誘われて、鈴もこくりと頷いた。いよいよなのだと思ったら、やはり少し緊張する。
「そうですね。えっと、まず何をすればいいでしょうか」
「とりあえず、服を脱ぎましょうか」
鈴は咄嗟にそうフォローした。気を悪くしていないだろうかとコータを見ると、彼は不思議そうに首を傾けている。
「羨ましい、ですか?」
「私は、あまり人と接するのが上手くないので」
口に出してから、またしても余計なことをいったと鈴は眉根を寄せた。お悩み相談に来たわけではないのだ。セックスをしてみたくて、あんな募集をかけたのだから。
けれど、これだけはちゃんと伝えておかなければいけないだろう。
「私、初めてなんです」
「はい。VRに慣れてないんですよね?」
「それもあるんですが、その、性経験がなくて」
鈴がそういうと、コータは目を丸くした。
「えっと、それはVRでのセックスが初めてってことですか?」
「そうではなくて。セックス自体が」
「え?」
コータの口から驚きの声が漏れる。やはり、処女がこういう募集をかけるのは驚かれるものなのだろう。もしかしたら、処女は面倒くさいと思われたのかもしれない。
「心配しなくても大丈夫です。VRは脳刺激で疑似的に快感を引き出すから、初めてでも痛くないって聞きました。血も出ないし、あなたにもそう面倒はかけないと思います」
「いや、待って下さい。そういうことが言いたいんじゃなくて」
コータはなぜか顔を赤くして、手のひらで顔を覆った。それから、低い声で何度か唸ると、指の間から伺うように鈴を見る。
「本当に、初めて?」
「事前に伝えるべき情報を、後出ししてすみません。慣れている相手が良いのなら、私はまた別の人を探すから」
「待って下さい、嫌だなんて一言も言ってません!」
「そう? でも、処女は面倒くさいって聞きますし」
「面倒だなんて欠片も思いませんから! むしろ、大歓迎です」
「そう、ですか。なら良かった」
前のめりで否定されて、鈴は少し後ろに仰け反った。
コータのこの食いつきは何なのだろうか。世の中には、処女を好む人間もいるようだから、もしかしたら彼もその類なのかもしれない。
「でも、掲示板にはソフトSMがしたいって」
「お恥ずかしいのですが、私は、どうやらそういうのが好きみたいで」
「それは、いったいどうしてそう思ったんです?」
「アダルトコンテンツを見て、惹かれるのがそういう嗜好だったんです。具体的には拘束、目隠しだったり、脅されて無理やり恥ずかしいことをさせられるプレイが、その、好きだなあと」
「無理矢理、恥ずかしいことを」
コータの喉がごくりと動く。
性癖をうちあけながら、初対面の人間に何を話しているのだろうと鈴は恥ずかしくなってきた。リアルの知り合いであれば、絶対にこんな話はできないし、頼めない。けれど言わばVRは行きずりの関係。ログアウトしてしまえば、コータはRINが誰かなんて知りもしないのだ。だからこそうちあけられるのだが、それでも恥ずかしいことは恥ずかしい。
「やっぱり、ひきますか? 処女のくせにそういうのに興味があるなんて」
「とんでもない!」
不安になって鈴が問いかけると、コータは大きく首を左右にふった。
「ちょっと驚きましたが、良いと思いますよ。というか、うん、凄く良いです」
コータに肯定されて、鈴はほっと息を吐いた。
「よかった。そう言っていただけて安心しました」
「性癖は人それぞれですから。ただまあ、ああいう掲示板で募集するのはあまり良くないとは思いますけど」
「そうですか?」
「いくらVRだからって、どういう相手がくるか分からないんですよ? 俺を選んでくれたから良かったものを、変な相手が来たかとおもうと」
「その心配は私もしましたが、いざとなればログアウトすればどうとでもなるので、平気かなと。だけど、初めてがコータさんで良かったと思います」
メール文が丁寧だから選んだが、こうして会って話してみても親しみやすい。おかしな相手に当たることも想像していたが、初めてが彼で良かったと鈴はホツと息を吐いた。
「そんな風に言われたら、調子にのりますよ?」
コータは照れたように鼻の下を指で擦ってから、すっくとソファーから立ち上がる。
「雑談も良いですが、時間も勿体ないですし、始めませんか?」
そう誘われて、鈴もこくりと頷いた。いよいよなのだと思ったら、やはり少し緊張する。
「そうですね。えっと、まず何をすればいいでしょうか」
「とりあえず、服を脱ぎましょうか」
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