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恋人のように(2)
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「先輩、やりなおし」
鈴が言われた通りに昨日と同じルームに向かうと、開口一番、梶川はそんな言葉を投げつけてきた。
まさかそんなことを言われると思わず、鈴は目を丸くする。
「やりなおしって、どういう意味」
「だって先輩、なんで昨日と同じアバターなんですか。もうお互い正体は分かってるんですから。ちゃんといつもの先輩の姿でログインしてください」
そういう梶川は、昨日のアバターではなく普段通りの彼の姿をしていた。
なるほど、梶川の言いたいことは分かった。
だけども、素直に彼の言うことを聞くのは癪だ。
「このアバターでも問題ないでしょ?」
「駄目ですよ、普段の先輩の姿が良いです」
「こっちの方が、美形じゃないの」
アバターの容姿は普段の鈴よりも整っている。
であれば、わざわざ鈴の姿に戻す必要もないのではないか。
「先輩の方が、可愛いですよ」
梶川の言葉に、鈴の心臓が跳ねた。
こんなのは、サービストークに決まっている。彼は口が回るのだ。
「……物好きね」
だけれども、梶川の言葉に逆らう気にもなれず、鈴は一度ログアウトして、アバターに自分の姿を反映させた。
「よかった。ちゃんと先輩の姿に戻してきてくれたんですね」
鈴がもう一度ルームに戻ると、前と同じホテルに設定されていた。
梶川は寛いだ様子でベッドに座っている。
「それで、また呼び出して、何をするつもり?」
「何って、分かりませんか?」
問い返されて、鈴は苦い顔をした。
彼が鈴を呼び出す理由など、ひとつしかないだろう。
「今朝の続きをしようってこと?」
「そうですよ。先輩は俺のセフレなんですよね? だったら、することは決まってます」
――俺に抱かれてください。
直接的に言われて、鈴は首を縦に振った。
弱みを握られている立場で、彼を拒絶できるはずがなかった。
「煮るなり焼くなり、好きにすれば」
「先輩、マゾですもんね。むしろ、そういうのはご褒美なのでは?」
「う、うるさい」
「まあ、言われなくても好きにさせてもらいますよ。こっち来て、ベッドに座って下さい」
言われた通りに鈴が梶川の隣に座ると、彼は鈴を抱き寄せて、彼女の顎を持ち上げた。
「んっ……」
ゆっくりと、彼の唇が鈴に重なる。
今朝の強引な行為をしたのと同じ人間だとは思えないほど、丁寧で優しい口づけだった。
梶川は何度も優しく鈴の唇を啄む。
それはまるで恋人同士のキスのようで、鈴はなんだか居心地が悪くなってきてしまった。
「梶川くん、まって。んっ……ねぇ、エッチするんじゃないの?」
「そうですよ。だから、してるじゃないですか。前戯」
「前戯って、こんなの……んっ……ふぅ……」
羞恥を煽られながら、無理やり身体を暴かれるのとは違う。
鈴の後頭部を撫でながら、優しくキスを繰り返す行為は、セックスというよりは愛の確認だ。
「キスもセックスのうちですよ。先輩からもしてください」
「……こう?」
鈴がぎこちなく梶川に唇を押しつけると、彼は満足そうに笑う。
「上手ですよ。ほら、もっと」
「んっ」
強請られて何度も彼にキスをすると、鼓動が早くなって頭の奥がぼうっとする。
キスなんかよりも、もっとすごいことをしているはずなのに、それとはまた違った恥ずかしさがあった。
「先輩、可愛い」
梶川は蕩けるような甘い笑みを浮かべて、鈴をベッドに押し倒した。
そのまま脱がられるのかと思いきや、首筋や鎖骨といった、肌の出ている部分に何度もキスを落とされる。
「っ……」
梶川が鈴に触れる手は壊れ物を扱うかのように優しかった。
彼の唇が触れた部分が熱を持って、心の奥まで染みこんでくる。
「か、梶川くん、それ、やめてっ!」
たまらなくなって、鈴は思わず彼を制止した。
「それってなんですか? 酷いことは何もしていませんが」
梶川の言う通り、鈴は何ひとつ酷いことはされていない。
それどころか、この上なく丁寧に扱われている。
そんな状態で文句を言うのはおかしいと思ったが、鈴はこれ以上続けられてはたまらないと声をあげた。
鈴が言われた通りに昨日と同じルームに向かうと、開口一番、梶川はそんな言葉を投げつけてきた。
まさかそんなことを言われると思わず、鈴は目を丸くする。
「やりなおしって、どういう意味」
「だって先輩、なんで昨日と同じアバターなんですか。もうお互い正体は分かってるんですから。ちゃんといつもの先輩の姿でログインしてください」
そういう梶川は、昨日のアバターではなく普段通りの彼の姿をしていた。
なるほど、梶川の言いたいことは分かった。
だけども、素直に彼の言うことを聞くのは癪だ。
「このアバターでも問題ないでしょ?」
「駄目ですよ、普段の先輩の姿が良いです」
「こっちの方が、美形じゃないの」
アバターの容姿は普段の鈴よりも整っている。
であれば、わざわざ鈴の姿に戻す必要もないのではないか。
「先輩の方が、可愛いですよ」
梶川の言葉に、鈴の心臓が跳ねた。
こんなのは、サービストークに決まっている。彼は口が回るのだ。
「……物好きね」
だけれども、梶川の言葉に逆らう気にもなれず、鈴は一度ログアウトして、アバターに自分の姿を反映させた。
「よかった。ちゃんと先輩の姿に戻してきてくれたんですね」
鈴がもう一度ルームに戻ると、前と同じホテルに設定されていた。
梶川は寛いだ様子でベッドに座っている。
「それで、また呼び出して、何をするつもり?」
「何って、分かりませんか?」
問い返されて、鈴は苦い顔をした。
彼が鈴を呼び出す理由など、ひとつしかないだろう。
「今朝の続きをしようってこと?」
「そうですよ。先輩は俺のセフレなんですよね? だったら、することは決まってます」
――俺に抱かれてください。
直接的に言われて、鈴は首を縦に振った。
弱みを握られている立場で、彼を拒絶できるはずがなかった。
「煮るなり焼くなり、好きにすれば」
「先輩、マゾですもんね。むしろ、そういうのはご褒美なのでは?」
「う、うるさい」
「まあ、言われなくても好きにさせてもらいますよ。こっち来て、ベッドに座って下さい」
言われた通りに鈴が梶川の隣に座ると、彼は鈴を抱き寄せて、彼女の顎を持ち上げた。
「んっ……」
ゆっくりと、彼の唇が鈴に重なる。
今朝の強引な行為をしたのと同じ人間だとは思えないほど、丁寧で優しい口づけだった。
梶川は何度も優しく鈴の唇を啄む。
それはまるで恋人同士のキスのようで、鈴はなんだか居心地が悪くなってきてしまった。
「梶川くん、まって。んっ……ねぇ、エッチするんじゃないの?」
「そうですよ。だから、してるじゃないですか。前戯」
「前戯って、こんなの……んっ……ふぅ……」
羞恥を煽られながら、無理やり身体を暴かれるのとは違う。
鈴の後頭部を撫でながら、優しくキスを繰り返す行為は、セックスというよりは愛の確認だ。
「キスもセックスのうちですよ。先輩からもしてください」
「……こう?」
鈴がぎこちなく梶川に唇を押しつけると、彼は満足そうに笑う。
「上手ですよ。ほら、もっと」
「んっ」
強請られて何度も彼にキスをすると、鼓動が早くなって頭の奥がぼうっとする。
キスなんかよりも、もっとすごいことをしているはずなのに、それとはまた違った恥ずかしさがあった。
「先輩、可愛い」
梶川は蕩けるような甘い笑みを浮かべて、鈴をベッドに押し倒した。
そのまま脱がられるのかと思いきや、首筋や鎖骨といった、肌の出ている部分に何度もキスを落とされる。
「っ……」
梶川が鈴に触れる手は壊れ物を扱うかのように優しかった。
彼の唇が触れた部分が熱を持って、心の奥まで染みこんでくる。
「か、梶川くん、それ、やめてっ!」
たまらなくなって、鈴は思わず彼を制止した。
「それってなんですか? 酷いことは何もしていませんが」
梶川の言う通り、鈴は何ひとつ酷いことはされていない。
それどころか、この上なく丁寧に扱われている。
そんな状態で文句を言うのはおかしいと思ったが、鈴はこれ以上続けられてはたまらないと声をあげた。
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