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第5章
勝手
しおりを挟む「…ん…。」
ぼんやりと佐助は瞼を開いた。
何だか身体が軽く感じる。
ふと右腕に違和感を感じて目をやると、何本かの点滴の管が繋がれており、ベッド脇に置いてあった小さなデジタル時計にはAM6:30と表示されていた。
俺は、一体どうなったのだろう?
昨日からの記憶が全くない。
見覚えのない天井を見上げていた時、ガラリと扉が開いた。
「起きたか。気分はどうだ?」
「…伊達…?」
白衣を纏った伊達を見て、佐助は漸く自分が病院にいると何となく理解した。額に手を当てながら、ゆっくりと半身を起こす。
「あまり無理するなよ。ほら、体温計挟め。ついでに血圧も測っちまうから。」
そう言って、伊達は手際よくカフを上腕に巻き、間に聴診器を当てがう。
血圧を測り終える頃には、体温計も測定終了のアラームが鳴った。
「少し血圧は高いが問題ないな。熱もだいぶ下がったみたいだし。これも指に付けろ。」
俺の指先にクリップのようなものを挟めると、一瞬で数値が表示された。
「サチュレーションも脈拍もだいぶ安定してるし、もう大丈夫だろう。」
「…こういうのって、看護師がやるんじゃないのか?」
佐助は物珍しげに伊達に問い掛ける。
「無駄口を叩ける余裕もあるみたいだな。これなら点滴が終わり次第、帰ってもいいぞ。」
検査器具を片付けながら、伊達は飄々と笑う。
「なあ…何で、俺は此処にいるんだ…?」
「何も覚えてないのか?」
佐助はコクリと頷いた。
伊達はベッドの脇に置かれていた椅子に座り、簡単な問診をしていく。
「自分の名前や生年月日はわかるか?このペンの芯の出し方は?昨日より前の記憶はあるか?」
佐助は質問された事に素直に答えていく。
どうやら覚えていないのは、昨日の記憶だけのようだった。伊達はため息を吐きながら頬杖をつく。
「お前、高熱のショックで意識を失って自宅で倒れていたみたいだぞ。ま、俺が貸したあんな薄着で真冬の外に飛び出した挙句、どうせ雨に濡れたまま寝たんだろう?」
佐助は図星を突かれて押し黙る。
「たまたま俺が病院に書類を取りに来ている時に、悠希が血相を変えてお前をこの病院まで運んで来たのには驚いたがな。」
「…え?」
佐助が瞠目していると、伊達も意外そうな表情を浮かべる。
「なんだお前達、一緒にいた訳じゃないのか?」
「当たり前…だろう…。」
佐助は俯いて唇を噛み締めた。
何故、真田は俺の家に来たのだろう?
一日無断欠席したぐらいでは、何もそこまで行動を起こす必要はない筈だ。
それとも、何か別の理由があったのか?
佐助が思考を巡らせていた時、伊達が徐ろにガサリと紙袋をベッドの上に置いた。
「?なんだよこれ。」
訝しげに中身を覗くと、佐助の私服と財布が入っていた。
「今朝方、悠希がお前の家からこれを持ってきて、渡してほしいと頼まれた。勝手に上がり込んですまないと謝ってたぞ。」
「…真田が?」
「あともう一つ。今週いっぱいは体調を見て休んでもいいと伝えてくれと言われた。」
佐助は黙って紙袋を見つめる。
何で真田は、直接これを自分に渡しに来なかったのだろう。
今までの真田だったら、佐助が嫌だと言ってもお節介を焼いて来たと言うのに。
『いや…自分で突き放して置いて、俺は今更何言ってんだ。』
虫が良すぎると佐助は自嘲気味に笑う。
「ま、とりあえず点滴が終わるまであと一時間って所だ。それまでは大人しく寝ていろ。また後で様子を見に来る。」
伊達は腰を上げて点滴の滴下量を調整した後、白衣を翻して病室を出て行った。
佐助は再びベッドに倒れ込んで眼を伏せる。
これで暫く真田と顔を合わせない口実ができたと思うも、胸に閊えた蟠りが晴れる事はなかった。
「ほんと、勝手だな俺は。」
昔から何度そう言われたことかーーー。
なあ幸村ーーー。
俺は最期まで勝手な事ばかりしていたな。
お前と、最後に逢ったあの時も。
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