忍の恋は死んでから。

朝凪

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第6章

甘言

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頬から伝わる鼓動は力強く、温かかった。

佐助は抵抗する事も振り払う事も出来ず、ただ伊達の腕の中で立ち竦んでいた。


誰かのために生きられないのなら、俺のためにそばにいろ。


伊達に言われた言葉を、何度も頭の中で反芻する。刹那、視界がぼやけて何も見えなくなった。


「…っ!」


目尻から大粒の涙が溢れ落ちていく。

まただーーー。

哀しくなんかないのに、次々と流れる雫は堰を切ったように止まらない。

どうして伊達の前では感情を抑える事が出来ないのだろう。

佐助は胸の中に顔を埋めて息を殺す。

「佐助…」

「っ!」

耳元に響く心地良い声に、佐助はびくりとする。

「悪い…。困るよな、いきなりこんな事言われても。」

酷く優しい声音を紡ぐ伊達に、佐助はどうしたらよいかわからずたじろいだ。

すると少しだけ伊達の腕の力が緩み、佐助はそっと胸を押し返す。

「伊達、俺は…。」

至近距離に伊達の端正な顔があり、佐助は思わず顔を背けた。

これ以上、情けない姿を見られたくない。

佐助は俯いて、唇を噛み締める。

すると伊達は、佐助の目尻に溜まった雫を掬いとるように、そのまま顎を捉えて上を向かせた。

「佐助、我慢するな。今ここには俺しかいないんだ。」

目を逸らす事さえ許さないような、真っ直ぐ澄んだ瞳が誰かと重なって見えた。



「…ゆ、きむら…っ!」



無意識にあの人の名を口にした瞬間、伊達は吸い寄せられるように佐助に口付けた。

佐助は突然の出来事に頭がついて行かず、思考回路がショートする。その間も伊達は更に口付けを深くしていき、クチュクチュと鳴る艶かしい水音が響く。

「…んんっ…ぅ、!」

佐助は漸く正気を取り戻し、慌てて伊達の腕の中から逃れようとするも、後頭部に押し当てられた掌のせいで上手く身動きが取れない。

そのうちに伊達の熱い舌が歯列を割って侵入し、佐助の舌を絡め取っていく。

『くそっ、頭が回らねぇ…っ』

まだ本調子じゃない身体は、酸素不足も相まって言う事を利かない。

苦しげに呻いていると、伊達が唇を離した。

「げほっ!…はぁ、はぁ…っ」

咳き込みながら伊達を睨み付け、どういう了見だと視線で問う。

伊達の真意がわからない。

抱き締めた理由もーーー。
口付けた意味もーーー。

すると伊達はふらつく佐助の手を掴んで引き寄せ、そっと囁いた。

「俺の所へ来い佐助。何もかも忘れさせてやる。」

「…!」

佐助は拒みかけた手を止めた。







忘れさせてくれる?
あいつを?








まるで強烈な媚薬のように、伊達の甘言は佐助の脳髄までも痺れさせていく。

もう、何も考えたくないーーー。

身も心も限界に近かった佐助は、無情にも縋ってしまったのだ。



この、冷たい冷たい掌に。

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