忍の恋は死んでから。

朝凪

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第6章

二度目

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佐助達は職員専用の駐車場で、一際異彩を放つ伊達の高級車に乗り込んだ。

相変わらず汚れ一つない革張りのシートは、佐助にとって居心地が悪く、落ち着かない。ほうと息を吐くと、白濁とした呼気がゆっくりと霧散していった。

運転席のドアを閉め、伊達は重低音のエンジンをふかせて暖房を付ける。慣れた手つきで車をバックさせ、混み合ってきた病院を後にした。

「先ずは佐助の家に行くぞ。必要な物だけ取って来い。」

「わかった。」

端的に返事をして窓の外へと眼を向ける。

まさか伊達との二度目の出会いで、一緒に暮らす事になるとは思わなかった。

これも仕組まれた運命なのか。

そんな陳腐な考えが浮かぶも、馬鹿馬鹿しいと一蹴する。

段々と暖まってきた車内の中で、伊達はシガーライターを取り出して煙草に火をつけた。

ゆらゆらと揺れる紫煙の独特な匂いが鼻につく。

『早く他人の匂いになれないとな…。』

そんな事をぼんやりと考えていると、車は緩やかに停止した。

「着いたぞ。早く行って来い。」

「え?もう着いたのか。」

ほんの数分車を走らせただけのように感じ、窓の外を見やると見慣れたアパートが目に入る。

「ん?そういえばなんでお前、俺のアパートの場所知ってんだよ。」

素朴な疑問を抱き、伊達に問い質す。

「…ああ、悠希から聞いたんだよ。」

伊達は煙草を灰皿に押し込み、一瞬佐助から眼を逸らす。

「そうか。」

一体何処まで真田は手を回しているのだろう。
佐助は、それ以上聞くのを止めた。

「ほら、鍵。お前が俺の家に忘れてったスーツの内ポケットに入ってたぞ。」

「…忘れてた。さんきゅ。」

伊達から鍵を受け取り、車のドアを開けて降りれば、底冷えした朝の冷気が全身を刺す。

そういえば商売道具、伊達の家に置いたまま帰ったんだっけ。

『じゃあ俺はあの時、どうやって自分の部屋に入ったんだ?』

錆び付いた階段を昇り、辿り着いたドアノブに鍵を差し込もうした時、ある事に気付いた。

『鍵穴が壊れされてる…。』

いや、自分が壊したのか。

『大家にバレる前に修理しとかないとな。』

苦笑いを浮かべて部屋の中に入れば、相変わらず薄暗くて外と変わらない室温に身震いする。

佐助は一先ず、箪笥から適当に衣類を選び、台所に置いてあった洗面道具とコンセントに挿しっ放しにしていた携帯の充電器を抜いてボストンバッグに放り込む。

『えーと、後は携帯…。』

辺りを見渡し、布団のすぐ近くに落ちていた携帯を拾い上げた。

『…一応、親には言っといた方がいいよな。』

海外出張している両親にも、きっと自分が倒れた事は伝えられている筈だ。安心させるためにも一報を入れておいた方がいいだろう。

佐助は連絡先が登録されているアプリを開き、国際電話をかける。

待つ事数秒、

「ん……、はい、遊馬ですけど…。」

眠たそうな母親の声が聞こえた。

『やべ、時差あるの忘れてた…。』

両親の出張先との時差は約七時間程あるため、今向こうは夜中だ。

悪い事したと思いながら手短に話そうとした途端、

「さ、佐助っ!具合はどう?身体は大丈夫なの!?」

母親に矢継ぎ早に質問され、佐助は困惑しながら心配ないとだけ伝えた。

「母さん、言っておかなきゃならない事があるんだが…。」

暫く知り合いの医者の元で厄介になる。

そう続けようとした時、

「あ、真田先生と知り合いのお医者さんの所でお世話になるんでしょ?私も佐助の体調が心配だし、何よりすぐ近くに医者がいるってだけで安心だわ。」

母親の安堵した声が電話越しに聞こえ、佐助は驚いて口を噤む。

「…真田…先生がそう言ってたのか?」

「そうよ。あなたがもしそのお医者さんの所に行くのを断わっていたら、真田先生が佐助の面倒を見て下さる事になっていたみたい。佐助は独り暮らしだから、また体調が悪くなったらすぐに対処できるようにってね。」

「…!」

佐助は無意識に持っていた携帯を握り締める。

恐らく真田は、絶対に自分の元へは来ないと見込んで、わざわざそんな提案をしたのだろう。

どちらに転んでも、結局自分は独りにならない。

こういう所ばかり知恵の回る奴だと、佐助はため息を押し殺す。だがそれと同時に、何か言いようの無い違和感を覚えた。

「とりあえず生活費と食費は口座に振り込んでおいたから、身の回りの事は自分でやるのよ。じゃあ、真田先生とお医者さんによろしく伝えてね。」

「ああ、わかった。」

とにかくこれ以上両親に迷惑をかけるわけにもいかない。

佐助は妙な蟠りが晴れないまま電話を切った。
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