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第一雪【出逢い】
しおりを挟む僕と彼女が出会ったのは、雪が降り積もっている冬真っ只中。いや、正確には再会なのだけれど。
高二の冬。
そろそろ進路を考えなければと、バイト終わりの夜九時頃、家の近所の公園に立ち寄った。ブランコ、滑り台などの定番遊具の他、公園の中心部には噴水が置かれている。今の時期、誰も立ち寄らないだろうと人がいないことを前提で赴いたため、そこで僕は目を見開いた。
冬の寒さで凍ってしまった円状の噴水の中を、いとも平然と背筋を伸ばし綺麗に歩いているヒトがいた。
茶色の膝まで覆ったコートにマフラーで顔を埋めているため、ここからだとよく見えないが、黒のタイツを纏っている華奢な足元を見る限り女の子だろうと僕は思った。
普段の僕であれば先客かと踵を返すところだけれど、こんな寒い中何をやっているのかと、顔も見たさでついとっさに声をかけてしまった。
「……あの、そこで何してるんですか?」
急に話しかけられたからか、一瞬体をビクッとさせた後、ゆっくりと声がした方、僕の方へと顔を振り向かせた。そして、彼女の口元がゆっくりと言葉を紡いだ。
「……篠宮くん?」
「えっ……」
思わぬところで自分の名前を呼ばれたため、驚いた。しかし、よくよく月明かりに照らさせたその女の子の顔を見ると、彼女は、中学が一緒だった女子生徒に似ていた。
「……もしかして赤月?」
中学時代の同学年の人と会うことも今の今までなかったため、よく名前を覚えていたと自分で自分を褒めたいと思った。
それに、彼女、赤月はクラスが違ったというのもあるが、あまり目立つタイプではなく、至って地味な、しいて言えばどこにでもいそうな女子生徒だったのだ。
「そう。よく名前覚えてたね。一度も話したことないからてっきり誰?って言われるかと思ったのに。」
「いや、それは正直自分でも思ったけど、まだ中学卒業して二年ぐらいだし覚えてたっぽい。てか、そこで何してんの?」
一度も、彼女と話したことはなかったが、滑り出しとしては順調なのではないか。話しかけづらいとよく耳にしていたが、やはりそんなものは噂でしかなかったのだろう。
僕が質問すると彼女はまたゆっくりと噴水の中を歩き始めた。ゆっくり、慎重に、薄い氷の膜が壊れないように。
「別に何も。ただ歩いてるだけ。暇つぶし。」
「……そうなんだ。それは邪魔したね。じゃっ」
と、若干近づかないほうが良いタイプだと瞬時に思ったため、僕はすぐ彼女に背を向けようとした。しかし、それは叶わなかった。
「っうわ!」
彼女は僕の右腕を掴み、噴水の中へと持ち上げた。
どこにそんな力があるのか驚いたが、それ以上に自分の足元が急に不安定になったことへの恐怖が僕の中を支配した。
「ちょ、ちょっと待って赤月!割れる割れる!」
「ねぇ、これ楽しくない?」
僕がビクビクと怯えているのにも関わらず、彼女は僕の両腕を引いて、ゆっくりとまた氷の上を歩き始めた。一歩、また一歩、足を進めるたび、氷の膜にミシッミシッと小さなヒビが刻まれていく。
「楽しくない!むしろ怖い!氷の下に、水溜まってるじゃん!よく見て赤月!」
「知ってる。それが楽しいんだよ。スリルがあって。ってもう流石に壊れるかも。」
「っえ」
何も抵抗せず、いや、一応はしていたのだが、彼女の力がとても強く、降り解けなかった。そして、彼女の予測通りーーー
ミシッバリバリッ
その音と共に足元に冷たさが帯びていった。それは衣服を伝い、膝から上へと増していく。
「「冷たっ!!」」
僕と彼女の声がハモり、思わず顔を濡れてきた足元から彼女へとうつした。すると、彼女も同様に華奢な足元から、僕の方へと顔を向ける。
僕は少しの苛立ちと困惑と共に彼女に向き直ったのだが、次の彼女の言動でそれはすぐに溶けて消えていった。
「ふふっ!落ちちゃったね!篠宮くん!楽しいね!」
「……はい?」
それはもう眩しいくらいの笑顔で、僕にそう言う彼女はとても可愛かった。僕は自分でもどうかと思ったが、呆れていたはずなのに、本当に落ちてしまったのだ。
彼女に。
月明かりに照らされた彼女の艶のあるこげ茶の髪は綺麗に輝き、マフラーに少し隠れているとはいえ、より彼女の笑顔を眩しくさせた。
それが、彼女と僕の出会いだった。
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