耳を塞いで、声聴いて。

久寺森うみ

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第二章

2-3-6

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「いや仕方ないって。お前転校してきたばっかだし。俺、昨日あんなことしたし……」

「あれは本当に気にしてないからいいよ」

「うん。ありがと」


 園山が優しい奴でよかった。そう思わずにはいられない。その嬉しさと共にクレープを口いっぱいに詰め込む。


 すると、不意に園山の手がこちらに伸びてくるのが目に入った。


「な、なに――」


 そちらの方を向かされたかと思うと、祥の唇の端を園山の指がそっと拭う。


「クリーム、付いてたよ」

「ああああありがと! ほら、ティッシュ使えよ!」


 祥は慌てて鞄からテッィッシュを引っ張り出した。その隙に目を逸らすが、園山の瞳に見つめられた瞬間顔が熱くなって、心拍数が一気に上がるのが自分でも分かった。


(な、何こんなことで動揺してんだ俺は)


 これはクリームを取ってくれただけで、園山にとっては特別な意味など無いのだろう。だが落ち着こうとすればするほど心臓の音は大きくなる一方だ。

 それを悟られまいと、無理やり話の話題を変えることにした。


「そういえば園山、お前昼休みどこにいた? 教室にいなかったよな」

「ああ……それは、屋上に行ってて」

「屋上? あそこ鍵開いてんのか」

「うん。お昼はいつもそこで食べてる」

「へー、俺も一緒に食べていい?」


 今日は一緒に食べられなかったため、明日は昼食を共にしたい。園山と一緒にいる時間を増やしたかった。


「じゃあ、明日は一緒に食べようか」

「おう!」



 一つの約束を交わした。二人にとって初めての約束だ。

 だんだんと距離が近づいていく。祥はもはや当初の目的を忘れ、ただ園山と仲良くなりたいと願うばかりだった。

「そろそろ帰ろうか」

「そうだな、今日は宿題も多いし。園山の家ってどっち?」

「ここから少し離れてるんだ」


 そう言って園山は駅の方を指す。


「電車で来てんのか?」

「いや、バスで通ってるんだ」

 どうやら園山が示したのは駅ではなく、駅前のバス停だったようだ。

「ふーん……結構遠いの?」

「家はy町だから、一時間くらいかな」

「すごいな。俺は家から近いってだけでこの学校選んだから、十五分くらいで着くけど」


 y町といえば、祥たちの高校があるx町の隣町だ。だが転校してもそんなに遠くから通っているということは、この学校でないといけない理由があるのだろうか。

 それを聞こうとした祥は、開きかけた口を再び閉じた。


(これって、聞いてもいいのかな……)


 もし話したくない理由があったらどうしよう。それはヘッドホンのことも同じだ。

 変に聞き出してしまうより、園山から話してくれるのを待ったほうが良いのではないだろうか。


「井瀬塚、どうかした?」

「何でもない。それじゃ、また明日な!」

「うん、また明日」



 こうして二人は別れ、それぞれの帰途についたのだった。

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