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第二章
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「いや仕方ないって。お前転校してきたばっかだし。俺、昨日あんなことしたし……」
「あれは本当に気にしてないからいいよ」
「うん。ありがと」
園山が優しい奴でよかった。そう思わずにはいられない。その嬉しさと共にクレープを口いっぱいに詰め込む。
すると、不意に園山の手がこちらに伸びてくるのが目に入った。
「な、なに――」
そちらの方を向かされたかと思うと、祥の唇の端を園山の指がそっと拭う。
「クリーム、付いてたよ」
「ああああありがと! ほら、ティッシュ使えよ!」
祥は慌てて鞄からテッィッシュを引っ張り出した。その隙に目を逸らすが、園山の瞳に見つめられた瞬間顔が熱くなって、心拍数が一気に上がるのが自分でも分かった。
(な、何こんなことで動揺してんだ俺は)
これはクリームを取ってくれただけで、園山にとっては特別な意味など無いのだろう。だが落ち着こうとすればするほど心臓の音は大きくなる一方だ。
それを悟られまいと、無理やり話の話題を変えることにした。
「そういえば園山、お前昼休みどこにいた? 教室にいなかったよな」
「ああ……それは、屋上に行ってて」
「屋上? あそこ鍵開いてんのか」
「うん。お昼はいつもそこで食べてる」
「へー、俺も一緒に食べていい?」
今日は一緒に食べられなかったため、明日は昼食を共にしたい。園山と一緒にいる時間を増やしたかった。
「じゃあ、明日は一緒に食べようか」
「おう!」
一つの約束を交わした。二人にとって初めての約束だ。
だんだんと距離が近づいていく。祥はもはや当初の目的を忘れ、ただ園山と仲良くなりたいと願うばかりだった。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな、今日は宿題も多いし。園山の家ってどっち?」
「ここから少し離れてるんだ」
そう言って園山は駅の方を指す。
「電車で来てんのか?」
「いや、バスで通ってるんだ」
どうやら園山が示したのは駅ではなく、駅前のバス停だったようだ。
「ふーん……結構遠いの?」
「家はy町だから、一時間くらいかな」
「すごいな。俺は家から近いってだけでこの学校選んだから、十五分くらいで着くけど」
y町といえば、祥たちの高校があるx町の隣町だ。だが転校してもそんなに遠くから通っているということは、この学校でないといけない理由があるのだろうか。
それを聞こうとした祥は、開きかけた口を再び閉じた。
(これって、聞いてもいいのかな……)
もし話したくない理由があったらどうしよう。それはヘッドホンのことも同じだ。
変に聞き出してしまうより、園山から話してくれるのを待ったほうが良いのではないだろうか。
「井瀬塚、どうかした?」
「何でもない。それじゃ、また明日な!」
「うん、また明日」
こうして二人は別れ、それぞれの帰途についたのだった。
「あれは本当に気にしてないからいいよ」
「うん。ありがと」
園山が優しい奴でよかった。そう思わずにはいられない。その嬉しさと共にクレープを口いっぱいに詰め込む。
すると、不意に園山の手がこちらに伸びてくるのが目に入った。
「な、なに――」
そちらの方を向かされたかと思うと、祥の唇の端を園山の指がそっと拭う。
「クリーム、付いてたよ」
「ああああありがと! ほら、ティッシュ使えよ!」
祥は慌てて鞄からテッィッシュを引っ張り出した。その隙に目を逸らすが、園山の瞳に見つめられた瞬間顔が熱くなって、心拍数が一気に上がるのが自分でも分かった。
(な、何こんなことで動揺してんだ俺は)
これはクリームを取ってくれただけで、園山にとっては特別な意味など無いのだろう。だが落ち着こうとすればするほど心臓の音は大きくなる一方だ。
それを悟られまいと、無理やり話の話題を変えることにした。
「そういえば園山、お前昼休みどこにいた? 教室にいなかったよな」
「ああ……それは、屋上に行ってて」
「屋上? あそこ鍵開いてんのか」
「うん。お昼はいつもそこで食べてる」
「へー、俺も一緒に食べていい?」
今日は一緒に食べられなかったため、明日は昼食を共にしたい。園山と一緒にいる時間を増やしたかった。
「じゃあ、明日は一緒に食べようか」
「おう!」
一つの約束を交わした。二人にとって初めての約束だ。
だんだんと距離が近づいていく。祥はもはや当初の目的を忘れ、ただ園山と仲良くなりたいと願うばかりだった。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな、今日は宿題も多いし。園山の家ってどっち?」
「ここから少し離れてるんだ」
そう言って園山は駅の方を指す。
「電車で来てんのか?」
「いや、バスで通ってるんだ」
どうやら園山が示したのは駅ではなく、駅前のバス停だったようだ。
「ふーん……結構遠いの?」
「家はy町だから、一時間くらいかな」
「すごいな。俺は家から近いってだけでこの学校選んだから、十五分くらいで着くけど」
y町といえば、祥たちの高校があるx町の隣町だ。だが転校してもそんなに遠くから通っているということは、この学校でないといけない理由があるのだろうか。
それを聞こうとした祥は、開きかけた口を再び閉じた。
(これって、聞いてもいいのかな……)
もし話したくない理由があったらどうしよう。それはヘッドホンのことも同じだ。
変に聞き出してしまうより、園山から話してくれるのを待ったほうが良いのではないだろうか。
「井瀬塚、どうかした?」
「何でもない。それじゃ、また明日な!」
「うん、また明日」
こうして二人は別れ、それぞれの帰途についたのだった。
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