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なけなしザッハトルテ8

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 グラスを手に持ち、竹内さんを見つめる。

「士浪さん。お誕生日おめでとうございます」
「うん、ありがとうございます。一誠さんも、離婚、……おめでとうございます……、であってる?」

 言ったはいいが不安になって尋ねると、彼はクスクス笑って頷いた。

「合ってますよ。ありがとうございます」
「良かった。じゃあ、今日は、俺の誕生日と、一誠さんの離婚祝いと、それから……」
「私たちの、恋人記念日です」

 言おうと思ってたこと、横取りされた。
 でも、そう言って貰えることが、やっぱり一番嬉しい!

 いい年こいて、こんなことが嬉し恥ずかしくて赤面する。自分で言おうと思ってたくせに、いざそれを相手に言われてしまうと、恥ずかしいもんだ。

「はは。何をもじもじしてるんですか?」

 乾杯を待つグラスを持ったまま、木崎さんは俺を覗きこんでくる。だってそりゃ、もじもじもするだろ。

「あの、その、ごめんなさい。俺、少し、不器用だと思う」

 真面目に恋愛なんてしたことないから、たくさんあると思うんだ。そう伝えようと思ったのに、彼は間髪入れずに言った。

「私の方が不器用だと思いますよ」
「いや、そんなこと」

 今のところ、完璧にスパダリ発動してるだろ!
 だけど、彼は続けた。

「私、ほんと、今、人生でこれ以上ないってくらい、めちゃくちゃ浮かれているので、器用になんて出来そうにないですよ」

 人生で……。
 いや、それを言うなら。

「俺だって一緒ですよ! 俺だって人生で一番浮かれてる! 今、すごく幸せ! こんなの経験したことない! すごく……、すごく好きです、一誠さん」

 真っ赤な顔のまま一気に言うと、彼は優しいキスをくれて、こつんとおでこをくっつけて瞼を閉じた。

「ほんと言うと……、初めてあなたを夜の街で見かけた時から……、一晩でいいから俺の相手もしてくれないかなって、ずっとそんなこと事ばかり考えていて……。まさかこんなに……可愛い方だとは思ってなかった。これだけ可愛ければ、そりゃあ……色んな男が狙いにくるわけですよね」

 色んな男?

「いや、え? 楓の事言ってる? それともミクの事? ミクはそんなんじゃないよ。ただかっちゃんと張り合いたいだけだから」
「違いますよ。彼らだけじゃない。かわるがわる違う男と寝ていたでしょう?」

 寝て……たけど。だからそれは、相手も一夜だけと割り切ってのエッチなんだってば。

「可愛くなければ、誰も相手になんかしませんよ。士浪さんには、やっぱり魅力があるんです」

 えらくポジティブな捉え方だ。いや、ここではネガティブと言うべきか?
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