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沖太一は劣等感で出来ている

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「俺が根古に行くっつったら、あいつも真似した。ホント女々しいやつ」

 思いもよらない冷たい言葉。

「あれ? もしかして仲良くないの?」

 二人は三年間片時も離れたことがなく、廊下を闊歩する姿は学年の女子を魅了し続けた。それだというのに中原のその冷たい言葉。さすがの太一もビックリした。

「いんや、親友だけど。ただまぁあいつ、あんまり自己主張しないし、無難な道しか選ばないし、自分の意思がどこにあるのか分からない時がある」

 鞄の中から教科書を取り出して机の中に仕舞い込む中原は、どこか野瀬を諦めているようにも見え、太一は初めて二人の微妙な間柄を知ってしまった。

「けど、確かなことはあいつかなりの上がり症。一見堂々としてるように見えるのにビックリするくらい小心者だ。小学生の頃からホント変わんねぇのよ、そういう女みてぇなとこ」

 うんざり、というようにも取れる中原の態度に、太一はようやく自分の席に腰を下ろすと、体半分後ろを向いて、こそっと尋ねてみた。

「え、あのさ、上がり症……って、もしかしてオレにも上がってたり、する?」

 中原の視線がぐっと色を増し、それは一度だけ野瀬へと移ったが、すぐにまた太一へと戻ってきた。

「そうだっつったら、お前どうすんの?」

 そんなどうしようもない質問に太一は押し黙った。どうすると言われても、どうしようもない。けど万が一そうだとしたならば、自分は嫌われているわけではないことが確定する。それはある意味、十分な情報だ。

「嫌われて……ないってことだろ?」
「嫌われてると思ってたわけ?」
「そりゃ思うだろ。オレにだけいっつも喋ってくれないじゃん」

 中原は可笑しそうに笑うと、太一にとってあり得ない情報を寄越した。

「あいつお前のファンなんだよ」

 時間が止まったに等しいだろう。
 太一は人生で初めてそんなことを言われた。なんの冗談だと思ったのは、考えに整理がついてからだ。しばらくはその意味さえ理解不能だった。
 固まって動かなくなった太一の肩を、中原はまた可笑しそうに笑いながらバシっと叩く。

「内緒だぜ? あいつ隠してるからさ! 言ったのバレたら半殺しにされる」
「ちょ、ちょっと待てよ! 冗談よせって!」

 かっと顔が熱くなり堪らず声を上げたけど、ケラケラと笑う中原がいつものように「嘘だよ」と言わなかったから、それが本当なのだと確信し、赤面を隠すように机へ突っ伏した。

「なぁおい、だからさ。まじで夏休み、雅紀と一緒にカラオケ行ってやってくれよ。あいつ内心行きたくて仕方ねぇはずだか……」
「うるさい! 黙れ、中原!」

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