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本当の気持ち
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野瀬を挟んで、太一は泣きじゃくる志藤を見た。すっと立ち上がった野瀬は、繋いでいる手をするりと離し、二人の間から退いた。
絡み合う二人の視線。お互い見たことないほど泣いている。そんな相手を見て、また二人は泣いているようでもあった。
「趣味だなんて、ほんとは思ってないよ……? 逆だよ。真逆なんだよ、たいちゃん! たいちゃんのレベルが高過ぎるんだよ! それなのに全然仕事取ろうとしないから、俺も……事務所の皆も、片手間でアイドルしてんじゃないかって勘違いしたんだ!」
志藤の言葉は正直太一に伝わっておらず、なんならこの後に及んでまだヨイショするつもりか、なんて思っている。それでも太一が怒りの言葉を飲み込んだのは、志藤があまりに真剣な目で訴えてきたからだ。
志藤はゴシゴシと涙を拭い、小走りに太一へと駆け寄った。
「たいちゃん、知らないでしょ。新人エッグは必ずたいちゃんの後ろにつくんだ」
すとんと目の前に腰を下ろした志藤が、太一の手を取る。
「小形くんだけじゃない。いつだって、新人エッグはたいちゃんの背中を見て勉強してる。講師が必ずそう指定してるんだ。たいちゃんはさ、みんなのお手本なんだよ」
志藤の言葉に、太一は目を見開いた。もちろんだが、そんなの初耳だ。
でもそう言われれば自分より前方に後輩エッグが並ぶことはなかった。もちろん実力のある後輩エッグは別だが、新人と呼ばれるエッグ達は必ず自分の後方にいた気がした。
だが何故自分がお手本にされるのか、ここまで説明されても、太一はいまいち理解出来ず、意味が分からないと首を振った。
しかし、そんな太一の手を強く握り、志藤は力強く言い切る。
「なんでいっつもそうなんだよ! 自信持てよ! たいちゃんは事務所じゃ1、2を争う実力者なんだよ!」
今までそんな風に荒々しく話す志藤を、太一は見たことがなかった。いつも下手に出て、控えめで、こんな乱暴に声を上げることなんてなかったから。
「そんなんだからいつまで経っても外野なんだよ! たいちゃんならすぐこっちに来れるから! 早く俺んとこ来いよ! ずっと待ってんだよ、俺!」
我慢出来ず、志藤の瞳からはまた涙が溢れ出た。こんな風に自分の思いをありったけぶつけたのは、いつぶりだろうか。
「俺……、たいちゃんと一緒にデビューしたい……! 俺と一緒にそこ目指して欲しいんだ!」
握り合った手。自分のものより小さい志藤の手だったけど、太一はその手を、懐かしいくらいに大きいと感じた。
そうだ、出会った時。この手を信じたんだ。
『案内するよ!』
太一の手を引き、あの可愛らしい笑顔で、志藤は太一の入所日に明るく賑やかな花を添えた。一瞬で志藤を好きになった。なんて明るくて元気でいい子なんだと、太一は志藤の本質を、ちゃんと一瞬で見抜いていた。
けど、それはいつしか周りの悪質な噂話に汚され、またこの学校という小さな世界の中で、志藤に対する気持ちはどんよりと影を落としてしまっていた。
それでも友達を続けていたのは、この手をどこかでずっと覚えていたからだ。この手が、緊張した太一の気持ちを解きほぐしてくれたから。
「不安なら、俺が手を引く。たいちゃんが望むなら……俺を頼ってくれるのなら、いくらでも前を歩くから……っ! だから、だから……っ」
顔を上げ、涙も拭わず、志藤は太一をまっすぐに見つめた。
「俺について来て……っ!」
絡み合う二人の視線。お互い見たことないほど泣いている。そんな相手を見て、また二人は泣いているようでもあった。
「趣味だなんて、ほんとは思ってないよ……? 逆だよ。真逆なんだよ、たいちゃん! たいちゃんのレベルが高過ぎるんだよ! それなのに全然仕事取ろうとしないから、俺も……事務所の皆も、片手間でアイドルしてんじゃないかって勘違いしたんだ!」
志藤の言葉は正直太一に伝わっておらず、なんならこの後に及んでまだヨイショするつもりか、なんて思っている。それでも太一が怒りの言葉を飲み込んだのは、志藤があまりに真剣な目で訴えてきたからだ。
志藤はゴシゴシと涙を拭い、小走りに太一へと駆け寄った。
「たいちゃん、知らないでしょ。新人エッグは必ずたいちゃんの後ろにつくんだ」
すとんと目の前に腰を下ろした志藤が、太一の手を取る。
「小形くんだけじゃない。いつだって、新人エッグはたいちゃんの背中を見て勉強してる。講師が必ずそう指定してるんだ。たいちゃんはさ、みんなのお手本なんだよ」
志藤の言葉に、太一は目を見開いた。もちろんだが、そんなの初耳だ。
でもそう言われれば自分より前方に後輩エッグが並ぶことはなかった。もちろん実力のある後輩エッグは別だが、新人と呼ばれるエッグ達は必ず自分の後方にいた気がした。
だが何故自分がお手本にされるのか、ここまで説明されても、太一はいまいち理解出来ず、意味が分からないと首を振った。
しかし、そんな太一の手を強く握り、志藤は力強く言い切る。
「なんでいっつもそうなんだよ! 自信持てよ! たいちゃんは事務所じゃ1、2を争う実力者なんだよ!」
今までそんな風に荒々しく話す志藤を、太一は見たことがなかった。いつも下手に出て、控えめで、こんな乱暴に声を上げることなんてなかったから。
「そんなんだからいつまで経っても外野なんだよ! たいちゃんならすぐこっちに来れるから! 早く俺んとこ来いよ! ずっと待ってんだよ、俺!」
我慢出来ず、志藤の瞳からはまた涙が溢れ出た。こんな風に自分の思いをありったけぶつけたのは、いつぶりだろうか。
「俺……、たいちゃんと一緒にデビューしたい……! 俺と一緒にそこ目指して欲しいんだ!」
握り合った手。自分のものより小さい志藤の手だったけど、太一はその手を、懐かしいくらいに大きいと感じた。
そうだ、出会った時。この手を信じたんだ。
『案内するよ!』
太一の手を引き、あの可愛らしい笑顔で、志藤は太一の入所日に明るく賑やかな花を添えた。一瞬で志藤を好きになった。なんて明るくて元気でいい子なんだと、太一は志藤の本質を、ちゃんと一瞬で見抜いていた。
けど、それはいつしか周りの悪質な噂話に汚され、またこの学校という小さな世界の中で、志藤に対する気持ちはどんよりと影を落としてしまっていた。
それでも友達を続けていたのは、この手をどこかでずっと覚えていたからだ。この手が、緊張した太一の気持ちを解きほぐしてくれたから。
「不安なら、俺が手を引く。たいちゃんが望むなら……俺を頼ってくれるのなら、いくらでも前を歩くから……っ! だから、だから……っ」
顔を上げ、涙も拭わず、志藤は太一をまっすぐに見つめた。
「俺について来て……っ!」
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