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熱帯夜
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「最悪じゃん」
色目を使う男達から太一を守る一方で、黒野からも太一を庇うとなると、志藤の精神面もかなり疲労困憊、請け合いだ。堪らず大きなため息が出てしまう。
トイレを出てエレベーターで一階上まで戻ろうかと思ったのだがエレベーターまで歩くくらいなら先ほど使用した非常階段の方がよほど近い。志藤は少し迷った末に階段を使用することに決めた。
だが、非常階段の入り口付近で志藤は早速その歩みを止めた。踊り場付近で男が二人、何やら体を寄せ合っていたからだ。
ハッとして身を隠す。
再びそろりと覗き見すると、先ほどトイレにいた黒野と猫居がそこにいた。階段に座っている二人だが、猫居に肩を抱かれ、黒野は甘えるように彼の肩に体を預けていた。猫居は黒野の手を握り、今にもキスするんじゃないだろうかというほどの色気を漂わせている。
(ちょっ、ちょちょちょっと待って! これ……! これってまさか!)
顔を赤らめ、心臓をバクバク高鳴らせ、志藤は完全にこんがらがった。佐久間と菊池の会話さえ聞いていなかったら、志藤はきっと彼らをそういう目では見なかっただろう。二人が親友であることを知っているからだ。猫居が優しいことも、母のように寛大であることも知っている。だから慰めているだけだと、そう思うだけにとどまるはずなのだが、もはや志藤にはそんな普通の解釈すら出来なかった。
(やっべ、や……っべ! まさかの黒野くんが受け?)
少なくともそれはあり得ない。だけど幼い志藤の単純な思考回路では見たままの現状しか捉えられなかった。このままエレベーターへ向かうべきだと思うのだが、志藤は怖いもの見たさからか、再びそっと二人を覗き見た。
すると、猫居が黒野の頭にキスをするではないか。
(……っだぁぁぁぁああ! 見てしまったぁ!)
志藤はこれ以上はダメだと思い、スタートダッシュを決めてエレベーターまで駆け出した。
(キスしてた! 頭に、キスしてた!)
手をつなぎ、肩を抱き、頭にキス。志藤はぜーぜーと息をしながら楽屋に戻ると、みんなに怪しまれながら服を着替えた。太一が心配して声を掛けて来たが、志藤はもげるほどにぶんぶんと首を振った。
言えるわけがない。黒野と猫居がいちゃいちゃしていたなんて。しかも黒野が太一に目をつけてしまったなんて、絶対に言えない。口が裂けたとて言えない。
不思議そうに首を傾げて離れていく太一の後ろ姿を、志藤は一人、じっと見つめた。すでに私服に着替えている太一だが、華奢なボディラインが際立つような大きめTシャツを着ている。
(待て……。何かエロくないか……?)
バカな思考である。だが、それは十分な気合入れになった。
(……分かったよ、たいちゃん。俺が守る。俺しか守れない……! 俺が守ってあげるから!)
そんなこと本人には言えないけど、志藤はしっかりと自分にそう誓ったのだった。
色目を使う男達から太一を守る一方で、黒野からも太一を庇うとなると、志藤の精神面もかなり疲労困憊、請け合いだ。堪らず大きなため息が出てしまう。
トイレを出てエレベーターで一階上まで戻ろうかと思ったのだがエレベーターまで歩くくらいなら先ほど使用した非常階段の方がよほど近い。志藤は少し迷った末に階段を使用することに決めた。
だが、非常階段の入り口付近で志藤は早速その歩みを止めた。踊り場付近で男が二人、何やら体を寄せ合っていたからだ。
ハッとして身を隠す。
再びそろりと覗き見すると、先ほどトイレにいた黒野と猫居がそこにいた。階段に座っている二人だが、猫居に肩を抱かれ、黒野は甘えるように彼の肩に体を預けていた。猫居は黒野の手を握り、今にもキスするんじゃないだろうかというほどの色気を漂わせている。
(ちょっ、ちょちょちょっと待って! これ……! これってまさか!)
顔を赤らめ、心臓をバクバク高鳴らせ、志藤は完全にこんがらがった。佐久間と菊池の会話さえ聞いていなかったら、志藤はきっと彼らをそういう目では見なかっただろう。二人が親友であることを知っているからだ。猫居が優しいことも、母のように寛大であることも知っている。だから慰めているだけだと、そう思うだけにとどまるはずなのだが、もはや志藤にはそんな普通の解釈すら出来なかった。
(やっべ、や……っべ! まさかの黒野くんが受け?)
少なくともそれはあり得ない。だけど幼い志藤の単純な思考回路では見たままの現状しか捉えられなかった。このままエレベーターへ向かうべきだと思うのだが、志藤は怖いもの見たさからか、再びそっと二人を覗き見た。
すると、猫居が黒野の頭にキスをするではないか。
(……っだぁぁぁぁああ! 見てしまったぁ!)
志藤はこれ以上はダメだと思い、スタートダッシュを決めてエレベーターまで駆け出した。
(キスしてた! 頭に、キスしてた!)
手をつなぎ、肩を抱き、頭にキス。志藤はぜーぜーと息をしながら楽屋に戻ると、みんなに怪しまれながら服を着替えた。太一が心配して声を掛けて来たが、志藤はもげるほどにぶんぶんと首を振った。
言えるわけがない。黒野と猫居がいちゃいちゃしていたなんて。しかも黒野が太一に目をつけてしまったなんて、絶対に言えない。口が裂けたとて言えない。
不思議そうに首を傾げて離れていく太一の後ろ姿を、志藤は一人、じっと見つめた。すでに私服に着替えている太一だが、華奢なボディラインが際立つような大きめTシャツを着ている。
(待て……。何かエロくないか……?)
バカな思考である。だが、それは十分な気合入れになった。
(……分かったよ、たいちゃん。俺が守る。俺しか守れない……! 俺が守ってあげるから!)
そんなこと本人には言えないけど、志藤はしっかりと自分にそう誓ったのだった。
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