上 下
106 / 312
一次審査! (後編)

しおりを挟む
 二番目だけはダメだ!と全員が祈りを捧げる。雪村の後のパフォーマンスほど地獄な順番はないだろう。どうか自分ではありませんようにと、全員が神へ頼んだが、誰かひとりは当たってしまうのだ。そして社長の手に握られたナンバープレートが容赦無くエッグ達に突きつけられる。

「1番」

 うげ、と声にならない声を上げ、一ノ瀬は立ち上がった。死んだ、と内心落ち込みながらも威勢よく返事する。

「はい、僕です! 一番、一ノ瀬一也。宜しくお願いします」

 ぺこりと丁寧に頭を下げて、一ノ瀬は前に進み出た。
 準備されているマイクを片手に、審査員へ背中を向ける。

 横一列に並んでいるエッグ達と見つめ合ったが、一ノ瀬は肩幅に足を開くと、精神統一するように瞳を閉じて頭を垂れた。そんな一ノ瀬をじっと皆が見つめる。いつも飄々としている一ノ瀬でもさすがに緊張した面持ちだ。

「スタンバイ出来ました。宜しくお願いします!」

 まだ声変わりしていない声でそう告げると、イントロがスタジオに流れ出し、一ノ瀬のスイッチが一気にオンへと変わった。

 それは見るからに「可愛い」。可愛いを極めたような可愛さだ。歌もポップな上、歌詞も愛らしいため、女性アイドルをも彷彿とさせるようなパフォーマンス。また彼の高音ボイスもその愛くるしさに拍車をかけている。世のお姉様方が「可愛い!」と叫ぶに違いないと、太一は一ノ瀬の背中を見つめながらドキドキしてしまった。
 ここまで狙ったかのような可愛さを堂々とやりきる一ノ瀬に、感心すら覚えたのだ。いつもは冗談ばかりを言いながらも、どこか冷めたような瞬間を見せる一ノ瀬が、自分の強みは “可愛い” なのだと主張する。

 それはまるで雪村のようだと太一は思った。

 他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。後輩から最も恐れられているそんな雪村が、アイドルとしては “爽やか路線” で売り込んでいるように、一ノ瀬も幼ながらに自分を演じているのだと思うと、プレッシャーを感じないわけは無かった。

 自分の強みはなんだろうかと考える。
 太一は自分自身のイメージ戦略が全く思いつかなかった。自分は世間にどのように受け止められているのか、何を求められているのか。そして自分自身はどんな風に売り込んで行きたいのか。

 雪村の背中を追いかけてはいる。志藤の後をついて行くと決めてはいる。だけど、同じじゃダメなのだ。誰も “同じ” は求めていない。

 一ノ瀬のパフォーマンスを見つめながら、太一はぐるぐるとそんなことを考え、彼の演技が終わっても尚、なかなか見つからないその答えを探していた。

 三番手、四番手、五番手……、エッグ達の演技が順に済んでいく。

 六番目。藤本芳樹が席を立った。
 演技を終えた五人は、皆すべて創作ダンスを披露していたが、藤本は元々のオリジナルダンスで勝負をかけていた。

 あ、オリジナルだ。と思った瞬間、太一はまたとんでもない不安に駆られた。

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

二人の王子様はどっちが私の王様?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

いつまでアイドルを続けられますか?

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

学園のアイドルと同居することになりましたが・・・

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

ナツキ

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

目が覚めたらαのアイドルだった

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:163

処理中です...