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一次審査! (後編)
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二番目だけはダメだ!と全員が祈りを捧げる。雪村の後のパフォーマンスほど地獄な順番はないだろう。どうか自分ではありませんようにと、全員が神へ頼んだが、誰かひとりは当たってしまうのだ。そして社長の手に握られたナンバープレートが容赦無くエッグ達に突きつけられる。
「1番」
うげ、と声にならない声を上げ、一ノ瀬は立ち上がった。死んだ、と内心落ち込みながらも威勢よく返事する。
「はい、僕です! 一番、一ノ瀬一也。宜しくお願いします」
ぺこりと丁寧に頭を下げて、一ノ瀬は前に進み出た。
準備されているマイクを片手に、審査員へ背中を向ける。
横一列に並んでいるエッグ達と見つめ合ったが、一ノ瀬は肩幅に足を開くと、精神統一するように瞳を閉じて頭を垂れた。そんな一ノ瀬をじっと皆が見つめる。いつも飄々としている一ノ瀬でもさすがに緊張した面持ちだ。
「スタンバイ出来ました。宜しくお願いします!」
まだ声変わりしていない声でそう告げると、イントロがスタジオに流れ出し、一ノ瀬のスイッチが一気にオンへと変わった。
それは見るからに「可愛い」。可愛いを極めたような可愛さだ。歌もポップな上、歌詞も愛らしいため、女性アイドルをも彷彿とさせるようなパフォーマンス。また彼の高音ボイスもその愛くるしさに拍車をかけている。世のお姉様方が「可愛い!」と叫ぶに違いないと、太一は一ノ瀬の背中を見つめながらドキドキしてしまった。
ここまで狙ったかのような可愛さを堂々とやりきる一ノ瀬に、感心すら覚えたのだ。いつもは冗談ばかりを言いながらも、どこか冷めたような瞬間を見せる一ノ瀬が、自分の強みは “可愛い” なのだと主張する。
それはまるで雪村のようだと太一は思った。
他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。後輩から最も恐れられているそんな雪村が、アイドルとしては “爽やか路線” で売り込んでいるように、一ノ瀬も幼ながらに自分を演じているのだと思うと、プレッシャーを感じないわけは無かった。
自分の強みはなんだろうかと考える。
太一は自分自身のイメージ戦略が全く思いつかなかった。自分は世間にどのように受け止められているのか、何を求められているのか。そして自分自身はどんな風に売り込んで行きたいのか。
雪村の背中を追いかけてはいる。志藤の後をついて行くと決めてはいる。だけど、同じじゃダメなのだ。誰も “同じ” は求めていない。
一ノ瀬のパフォーマンスを見つめながら、太一はぐるぐるとそんなことを考え、彼の演技が終わっても尚、なかなか見つからないその答えを探していた。
三番手、四番手、五番手……、エッグ達の演技が順に済んでいく。
六番目。藤本芳樹が席を立った。
演技を終えた五人は、皆すべて創作ダンスを披露していたが、藤本は元々のオリジナルダンスで勝負をかけていた。
あ、オリジナルだ。と思った瞬間、太一はまたとんでもない不安に駆られた。
「1番」
うげ、と声にならない声を上げ、一ノ瀬は立ち上がった。死んだ、と内心落ち込みながらも威勢よく返事する。
「はい、僕です! 一番、一ノ瀬一也。宜しくお願いします」
ぺこりと丁寧に頭を下げて、一ノ瀬は前に進み出た。
準備されているマイクを片手に、審査員へ背中を向ける。
横一列に並んでいるエッグ達と見つめ合ったが、一ノ瀬は肩幅に足を開くと、精神統一するように瞳を閉じて頭を垂れた。そんな一ノ瀬をじっと皆が見つめる。いつも飄々としている一ノ瀬でもさすがに緊張した面持ちだ。
「スタンバイ出来ました。宜しくお願いします!」
まだ声変わりしていない声でそう告げると、イントロがスタジオに流れ出し、一ノ瀬のスイッチが一気にオンへと変わった。
それは見るからに「可愛い」。可愛いを極めたような可愛さだ。歌もポップな上、歌詞も愛らしいため、女性アイドルをも彷彿とさせるようなパフォーマンス。また彼の高音ボイスもその愛くるしさに拍車をかけている。世のお姉様方が「可愛い!」と叫ぶに違いないと、太一は一ノ瀬の背中を見つめながらドキドキしてしまった。
ここまで狙ったかのような可愛さを堂々とやりきる一ノ瀬に、感心すら覚えたのだ。いつもは冗談ばかりを言いながらも、どこか冷めたような瞬間を見せる一ノ瀬が、自分の強みは “可愛い” なのだと主張する。
それはまるで雪村のようだと太一は思った。
他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。後輩から最も恐れられているそんな雪村が、アイドルとしては “爽やか路線” で売り込んでいるように、一ノ瀬も幼ながらに自分を演じているのだと思うと、プレッシャーを感じないわけは無かった。
自分の強みはなんだろうかと考える。
太一は自分自身のイメージ戦略が全く思いつかなかった。自分は世間にどのように受け止められているのか、何を求められているのか。そして自分自身はどんな風に売り込んで行きたいのか。
雪村の背中を追いかけてはいる。志藤の後をついて行くと決めてはいる。だけど、同じじゃダメなのだ。誰も “同じ” は求めていない。
一ノ瀬のパフォーマンスを見つめながら、太一はぐるぐるとそんなことを考え、彼の演技が終わっても尚、なかなか見つからないその答えを探していた。
三番手、四番手、五番手……、エッグ達の演技が順に済んでいく。
六番目。藤本芳樹が席を立った。
演技を終えた五人は、皆すべて創作ダンスを披露していたが、藤本は元々のオリジナルダンスで勝負をかけていた。
あ、オリジナルだ。と思った瞬間、太一はまたとんでもない不安に駆られた。
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