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一次審査! (後編)
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そういえば皆ダンスを共に披露していたからだ。太一の選択曲はバラード中のバラード。 ダンスをしなくてもいいんじゃないか、という陽一のアドバイスを信じ、手振りひとつ考えずに歌のみを猛特訓したが、ここに来てそれがやはり不安要素へと姿を変えた。
与えられた時間は皆同じ。その限られた時間の中で、それぞれしっかりと仕上げて来ている。それだというのに、太一はダンスを踊らないという選択をし、歌のみで勝負をかける。
本当に一か八かの大勝負。
そんなこと最初からわかっていたが、ここに来てそれはやはり足が竦むほどの不安になった。
それだというのに、太一はなかなか呼ばれない。早く終わらせたいのに。七番手が歌い終わり、八番手。次こそはと思うが、八番目は志藤だった。
クール系で攻めると言っていた志藤は、確かに今までの印象からかけ離れたパフォーマンスを見せた。その表情もいつもの満点笑顔ではない。獲物を狩るような怪しげで強い瞳。夏のボイストレーニングも伊達ではなく、確実に伸びの良くなった歌声と声量。ドキっとするほどカッコ良かった。
印象を覆すような攻めた演技はあっという間に終わり、残すところは太一ともう一人のみとなった。オオトリだけは嫌だと祈る。だが、くじが引かれるほんの一瞬の内に太一は色んなことを考えた。
オオトリの方が審査員に印象付けられるからいいのではないか、でもダンスを踊らない自分がオオトリでは逆効果ではないか、アドリブでどうにか手振りくらい出来ないだろうか、と。
だが結局、太一はオオトリを飾ることになった。
準備されているマイクとスタンドを運び、フロアの中心にそれを置く。
審査員だけじゃない。多くのスタッフやエッグ達からの注目を一身に受け止め、太一は深く深く深呼吸をした。
マイクをスタンドに差し込み、雪村の赤いリストバンドを見つめる。こんなところで躓く訳にはいかない。リストバンドはまるでそう言っているようだった。この先の先。夢は果てしなく遠かったが、その舞台は目と鼻の先にある。手を伸ばせば届く場所にある。それなら精一杯手を伸ばすんだ。伸ばさないなんて、それじゃ男が廃るだろう。
太一はぎゅっとリストバンドを握りしめ、最後の深呼吸で決心した。
「準備できました。お願いします」
静かに流れ出すイントロ。誰もが息を飲んだ。
パフォーマンスを終えている9名のエッグ達は、太一の透き通るような、蕩けるような甘い歌声に、時が過ぎるのも忘れる。若干15歳にして完成されたその歌声は、到底誰にも真似出来ず、アイドルとして勿体無いくらいの歌唱力を見せつけてきた。
ダンスをしているわけじゃない。それなのに、誰もが彼から目を離せなかった。
太一の武器。それは本人が思っているよりもずっとずっと強力である。その歌声も、目を見張るようなダンスも、誰がどう見たって緊張していないその堂々とした姿も。
彼はそう、雪村や及川よりも、本当は実力が上なのかもしれない。
しかし誰にも気付かれないところで、自分はどういうアイドルになりたいのだろうと太一は考えていた。結局その答えは見つからないまま、自由曲の発表は終わった。
与えられた時間は皆同じ。その限られた時間の中で、それぞれしっかりと仕上げて来ている。それだというのに、太一はダンスを踊らないという選択をし、歌のみで勝負をかける。
本当に一か八かの大勝負。
そんなこと最初からわかっていたが、ここに来てそれはやはり足が竦むほどの不安になった。
それだというのに、太一はなかなか呼ばれない。早く終わらせたいのに。七番手が歌い終わり、八番手。次こそはと思うが、八番目は志藤だった。
クール系で攻めると言っていた志藤は、確かに今までの印象からかけ離れたパフォーマンスを見せた。その表情もいつもの満点笑顔ではない。獲物を狩るような怪しげで強い瞳。夏のボイストレーニングも伊達ではなく、確実に伸びの良くなった歌声と声量。ドキっとするほどカッコ良かった。
印象を覆すような攻めた演技はあっという間に終わり、残すところは太一ともう一人のみとなった。オオトリだけは嫌だと祈る。だが、くじが引かれるほんの一瞬の内に太一は色んなことを考えた。
オオトリの方が審査員に印象付けられるからいいのではないか、でもダンスを踊らない自分がオオトリでは逆効果ではないか、アドリブでどうにか手振りくらい出来ないだろうか、と。
だが結局、太一はオオトリを飾ることになった。
準備されているマイクとスタンドを運び、フロアの中心にそれを置く。
審査員だけじゃない。多くのスタッフやエッグ達からの注目を一身に受け止め、太一は深く深く深呼吸をした。
マイクをスタンドに差し込み、雪村の赤いリストバンドを見つめる。こんなところで躓く訳にはいかない。リストバンドはまるでそう言っているようだった。この先の先。夢は果てしなく遠かったが、その舞台は目と鼻の先にある。手を伸ばせば届く場所にある。それなら精一杯手を伸ばすんだ。伸ばさないなんて、それじゃ男が廃るだろう。
太一はぎゅっとリストバンドを握りしめ、最後の深呼吸で決心した。
「準備できました。お願いします」
静かに流れ出すイントロ。誰もが息を飲んだ。
パフォーマンスを終えている9名のエッグ達は、太一の透き通るような、蕩けるような甘い歌声に、時が過ぎるのも忘れる。若干15歳にして完成されたその歌声は、到底誰にも真似出来ず、アイドルとして勿体無いくらいの歌唱力を見せつけてきた。
ダンスをしているわけじゃない。それなのに、誰もが彼から目を離せなかった。
太一の武器。それは本人が思っているよりもずっとずっと強力である。その歌声も、目を見張るようなダンスも、誰がどう見たって緊張していないその堂々とした姿も。
彼はそう、雪村や及川よりも、本当は実力が上なのかもしれない。
しかし誰にも気付かれないところで、自分はどういうアイドルになりたいのだろうと太一は考えていた。結局その答えは見つからないまま、自由曲の発表は終わった。
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