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一次審査! (後編)

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 やはりトップナインは外せないのかと、志藤のアンチ達は眉を寄せた。正直拍手はまばらだ。だがそんなこと慣れっこだ。いちいち凹んでいられない。祝福されないことくらいすでに承知しているから。テレビで放映される時には拍手のSEが足されているのだろうと、嘲笑を浮かべられるくらいの余裕を持っている。嫌われ者の精神力を舐めてはいけない。

 志藤は前方の雪村と見つめ合い、そして太一を振り返った。

 共に誓った夢。『一緒にデビューすること』。

 志藤は舞台に上がった。あとは太一の名前を呼ばれるのを待つのみ。
 すぐに行くよと目で訴える太一に、志藤は雪村の隣へ静かに並んだ。

「三人目」

 次こそは!と祈る思いで講師の言葉を待ったが、呼ばれたのは一ノ瀬一也だった。

「やったーーー!!」

 スタジオ内に明るい声が響き渡る。
 売れないアイドルとして埋れていた一ノ瀬の抜擢に、エッグ達は湧き立った。トップナイン達の当選時とは明らかに違う歓声。トップナインと他のエッグ達とにある格差はそれほどまでに大きいのだ。どれだけ今ドリームキャッチが人気で、エッグバトルが注目を集め始めていると言っても、その格差は簡単に縮まったりしない。どう足掻いたって元々持っているファンの数が違うのだから。

 一ノ瀬の歩く順路にいるエッグ達が手をかざし、彼とハイタッチを交わして行く。

「どもども~」

 まだわずか十二歳。小学六年生で掴み取った曜日代表だ。快挙と言えるだろう。志藤の隣までやってきた一ノ瀬は、彼ともまた同じようにハイタッチを交わし笑い合った。

 残るは三人。
 講師の口が開かれる。

「四人目」

 まだ選ばれる余地がある。カメラが太一と藤本と和田をしっかりと捉え、その緊張した表情をしっかりと記録し続けた。


 そして──。


「沖太一」


 本人ではなく、周りのエッグがワァッと声を上げた。隣に座るエッグ達が「立て立て」と太一を煽り「やったな」と祝福の声をかけてくれる。講師の隣で待つ志藤達も拍手をくれている。

 信じられなかった。だけど、何よりも望んだ結果だ。努力して努力して、今ようやく胸を張って弟に誇れるところまで上り詰めた。
 曜日代表だ。21人いるうちの4人目。

(やったぞ、やったぞっ……、やったぞ!)

 弟の喜ぶ笑顔が最初に浮かび、太一はたまらず、力いっぱいのガッツポーズを取った。握りしめた拳は震えて、「陽一……っ!」と誰にも聞こえない声で名を呼んだ。共にデビューを誓った志藤との約束に身震いするのはその後だ。だって太一の原動力はいつだって弟の陽一だから。

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