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優越の対象

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「じゃ、イチは?」
「……イチ?」

 野瀬がかくんと首を傾げる。

「一ノ瀬一也。知ってるだろ?」

 そこでようやく野瀬は全てを勘付いた。

「一ノ瀬くん、月曜メンバーに生き残ってるの!?」

 思ってもいないエッグだった。流石の野瀬も太一を振り返ったが、思いのほか大きな声を出してしまった為に、しっと人差し指を立てられた。

「じゃ、じゃあ藤本くんは?」

 声のボリュームをなるべく抑え、「いるよね?」とその瞳を輝かせる。そこには何の悪意もない。
 だけど太一は首を振った。

 真顔で首を振る太一に野瀬は愕然とし、我慢出来ずに聞いてしまった。

「なんで……?」

 ……なんて。

 そんなこと太一にも分からない。緩やかに首を振り、絡み合っていた視線を太一が先に外した。

「だからこそ中途半端なこと出来ない。妥協出来ないんだ」

 バラバラの四人をちゃんと纏めて、絶対的な答えをちゃんと見つけなければいけない。分かんないしコレでいっか、なんておざなりなことは出来ない。

 デビューする為だけじゃない。
 落選した月曜メンバー全員の為にも、そんなこと絶対にしちゃいけない。このプレッシャーにちゃんと打ち勝ち、尚、グループとしての仕上がりも磨かなければいけない。

 簡単なことじゃない。しかもいきなり躓いているから尚更のことだ。

「そう……なんだ。メンバーはその四人なの?」
「うん、そう」

 廊下を見つめながら太一が返事する。
 プレッシャーを感じているのだろうと野瀬でも分かった。だけど、アイドル好きとしてはどうしても我慢出来なかった。

「ほ、他の曜日は、どうなったの?」

 知りたい。当然の欲だ。しかし太一からそれは教えてもらえなかった。

「オレの出す課題に真剣に向き合ってくれたら、教えてあげる」

 なんだソレ、と思ったが、それ以上に野瀬は逆上せ上がった。太一が自分を信用してくれている証じゃないかと思えたからだ。だけどこの課題はそう易々と答えの出るものではない。

「月曜はこの四人。グループ名はMonday Monster。早くも躓いてる。オレ達の共通点って何か……わかる?」

 のちのち、野瀬はこの時の事を振り返り、思う。
 この時太一がこの難題を突きつけなければ自分の将来は少し違っていたかもしれないと。
 それほどまでにこの問題は野瀬にとっても大きかった。人生を導かれるほどの難題。

 興味を持ってしまったんだ。アイドルというそのすべてに。
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