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少年達の冬

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 家に上がるかと言われ、志藤は大慌てで首を振った。未だキスすらしていない。手だってつないでいない。それはもちろん、志藤にそんなつもりがないからだ。それに勘付かれるのを阻止したいという思いも少なからずあった。せめて太一が中学を卒業するまで、この仮面のお付き合いを続けなければいけないのだと。

 しかし、首を振った志藤に美月は平然と言葉を続けた。

「みんな来てるよ? ケンくんも、沖先輩も」

 初耳だった。

 美月の恋人にこだわるつもりはないが、何故恋人である自分がその事実を知らされていないのか、ぐらっと腸が煮えくり立つ。同時に思う。この女、俺を飾りだと思ってやがる、と。だが、志藤に美月を怒る資格はない。どっちもどっちなのだから。

 なんで教えてくれなかったんだと怒りたい気持ちを堪え、志藤は「だったら」と初めて野瀬家に足を踏み入れた。

 リビングに通されると、そこには美月にも負けずとも劣らない美女が一人と、ご両親、そしていつものトリオがいて、テーブルにはいっぱいの料理とシャンメリーが所狭しと置かれていた。

「ぎゃ……、ぎゃーー! 志藤歩ぅ!?」

 志藤の姿を見るや否や、姉と母は失神するほど騒ぎ立て、「お邪魔します」と挨拶する隙さえ与えてはもらえなかった。

 太一がニコニコと笑いながら、「あれ? 美月ちゃんが歩くん誘ったの?」と案の定ど天然な質問をしてくる。二人が付き合っているという発想はどう転んでも太一にはないらしい。そしてその質問に、美月もまた「そうなの」と平然と返事した。

 ちらりと美月を見たが、美月は志藤の視線に気付かぬまま太一の隣に腰を下ろす。ダメだこりゃ……と志藤は肩を落とした。美月は志藤と付き合いながら、虎視眈々と太一の彼女の座を狙っていた。それは誰がどう見ても分かるほどだった。これに気付かない馬鹿がいるなら、それは太一くらいだろう。もしかすると志藤にその気がないことを、美月は知っていたのかもしれない。
 まさに仮面だなと志藤はため息をついた。

 野瀬兄妹きょうだいに挟まれた太一を、野瀬親子に挟まれながら見つめる。楽しそうに笑う太一、チキンにかぶりつく太一、中原と他愛ない話で盛り上がっている太一。そんな太一を愛おしそうに見つめているのが自分だけでないことに、志藤は心底落胆した。

 高い金をはたいて準備したプレゼントをもってしても、美月を太一から遠ざけることはきっと出来ないだろう。これではもう付き合っている意味はない。
 その上、太一の一番近くに寄り添うように座る野瀬雅紀の存在だってこの上なく鬱陶しい。どう足掻いても志藤が太一を独り占めすることは出来ないようだ。
 だからこそ胸が苦しくなって、この“好き"という感情も熱を増していく。誰よりも大事で大切なんだと囲っておきたくなる。そして俺が守るんだと激しく感情が高ぶってしまうのだ。

 その夜、志藤はサマンサの財布を美月の目の前でゴミ箱に捨てた。

「君はたいちゃんが好きなんだね」と。「そんな事ない」とこの後に及んで白を切る彼女に、志藤ははっきり宣戦布告した。

「悪いけどたいちゃんだけは渡せない。君だけには、決してね」

 美月は強ばった顔で志藤を見つめ、自分への信頼がクリスマスプレゼントと共に無くなってしまった事実を知った。まさか志藤がライバル宣言しているとは露知らず、浮気のような真似をしてしまった自分だけは太一に相応しくないのだと牙を向かれたと勘違いしている。
 優しい志藤の鋭い眼差し。二度と太一に近付くなと威嚇するような瞳にさえ見えた。

 その夜、野瀬ママが「夜も遅いから泊まって行きなさい」と提案してくれたが、志藤はほぼ強引に太一を連れ帰った。明日も仕事だし、息抜きは今夜だけだと言い聞かせる。美月がそんな志藤を恨めしげに見つめ、野瀬も残念そうに眉を垂れた。

 中原だけは泊まって行くつもりをしているらしい。そんな中原にいいなぁと指を咥える太一だったが、大人しく志藤の言葉に従った。
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