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卒業式

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「なんだよ……それ。俺に、告白してんの?」

 口から心臓が出てきたって、今はきっと驚かない。だってそれくらいドキドキしてるから。

 もう少し……もう少しこのままで。

 そうやって暫く返事を引き延ばす。本当は、擦り寄って抱きしめ返して、「そうです、これは愛の告白なんです」と言ってしまいたかった。

 けどそんなこと許されない。傷つくのが怖いというのもあるけど、それよりも今は、余計な悩みを志藤に与えたくないということの方が大きかった。

 例えばエッグバトルに勝ち残り、デビューすることが決まれば、二人は先の長い付き合いになるのだ。告白なんかして気まずくなりでもしたら、仕事に何かしらの迷惑が掛かるだろう。そんなこと絶対に嫌だった。
 自分はいい。例えばそれで仕事が減ったとしても己のせいだから。けど、志藤に迷惑をかけることになるなら、それだけは違う。そんなことを望んで告白するほどバカじゃないから。

 志藤の腕の強さを覚えるように深呼吸をし、太一はそっと彼の腕から離れた。

「まさか。冗談よしてよ。変な意味じゃないって言ったでしょ?」

 にこりと無理矢理笑う。
 ぎこちなかっただろうかと不安を抱くが、志藤が困ったように笑ったから、ちゃんと笑えてると思った。それでも太一の手は少し震えている。言うことを聞いてくれない震える手で、転がった椅子を立たせ、机に座ったままの志藤を振り返る。

「黒野くんの代役に抜擢された時。不安で、怖くて……ユキにも怒られてさ。けど、やっぱり歩くんはオレの手を引いてくれた。宣言通り、前歩いてくれたよね。それがどれだけ心強かったか。感謝してるんだ」
「やっぱ愛の告白でしょ、それ?」

 半分本気。半分冗談。そんな風に聞こえた。

 そこの冗談が通用するなら……と、太一は苦笑いを零して、にやにやと笑っている志藤に目配せする。

「……じゃ、もうそういうことにしといてよ」
「あはは! 投げやりなの!?」

 第二ボタンを引きちぎった時に見せた志藤の緊張はもう見受けられず、太一も意識せずに笑顔をこぼした。

 しかし。


「ほんとはどっち?」


 笑った瞬間、すっと真面目な顔で低く問われ、太一は息すら忘れた。

 その真面目な表情は少し怖かった。見たことないくらい強い瞳だと感じたのだ。けど、まさか太一は知る由もない。その瞳こそが志藤の”雄の部分”なのだということを。
 あまりにその瞳の色が強くて怒らせたと勘違いした太一は、別の意味でバクバクと心臓をうねらせ、今すぐ訂正しなければと焦った。


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