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“チームメイト”
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志藤は強い。その強さに、周りも雪村でさえも、いつしか慣れてしまっていた。けど、きっとそれだけじゃない。雪村は、少し志藤に嫉妬していたんだ。太一と、仲がいいことに。
太一は優しい。太一は正しい。
だって、周りに流されたりなんかしないから。自分をしっかり持っていて、雪村もそれを隣で見て感じて、志藤と一度ちゃんと話してみるべきだと何度も思わされた。
けど叶わなかった。それは弱さだ。理由をつけて逃げ回った。それを一番よく分かっているのは誰でもない自分自身。そして、太一という親友を奪われたくないという……浅ましい感情。
楽しそうに自分以外の友達と笑う太一なんか、たくさん見てきている。けど志藤に対して見せる笑顔は、何故か他よりずっと特別に見えていた。他のエッグ達より、志藤に振る舞う態度や言葉や笑顔……そのすべて、何処とは言いにくいけど、すごく特別に見えた。
そして、その太一に向ける志藤の笑顔だって、ずっとずっと特別だった。ステージで見せてくれる、あの「大丈夫」と笑う優しい笑顔によく似ていたのだ。
「………キ……、ユキくん、ユキくん!」
突然大きな呼び声がして、雪村はハッとして隣の一ノ瀬を見下ろした。
「な、なに?」
「ケータイ鳴ってたよ。メールかな」
一ノ瀬の言葉に鞄の中から携帯電話を取り出すと、確かにメールが1件入っていた。相手はクラスメイト。レッスン頑張ってる~?なんていう呑気なメールだ。
ぼちぼち、と打ち返しながら、雪村はメールを打つ手を止めた。そしてやっぱりその文を全部消すと、「頑張るよ」とだけ打ち返した。
そして何も言わずに隣を歩く一ノ瀬を振り返る。
「すまん、イチ。母親から……買い出し頼まれてるから、俺はここで。また明日な」
そう言って今まさに真隣にあるスーパーを指差す雪村に、一ノ瀬は小さく頷き「じゃあ、また明日ね」と地下鉄の入り口を目指した。
目指したけど、ふと振り返った先に見えた雪村がスーパーに入らず、走ってスタジオに引き戻したのを見てしまった。
だから思わずそれを追いかけ、駆け出す。
雪村と一ノ瀬じゃリーチも違う。しかも雪村は足も早い。
体力に大きな差などないと思ってはいたが、雪村はペースを崩さないまま走り続けた。ゼーゼーと息をしながら、一ノ瀬がようやくスタジオにたどり着いた時、すでに雪村は志藤のいるレッスンスタジオの前で上がった息を静かに落ち着かせ、クールダウンを終わらせるところだった。
「足……はっや」
口の中は血の味がする。
額にはじんわりと汗が噴き出してきて、とりあえず水!と一ノ瀬は自販機で飲み物を購入すると、志藤のもとに行ってしまった雪村の後を追ってさっきまで使っていたレッスンスタジオの前に立った。
そーっと扉を開き、わずかな隙間から中を覗く。
雪村と志藤は向かい合っている。
さすがに声は聞こえないか……と諦めそうだったが、
「あゆむ」
そう呼んだ雪村の声がうっすらと聞こえ、一ノ瀬はその場に座り込んで水を一口喉に流し入れた。
(やべ。聞き耳立てて盗み見して……、ちょっと興奮すんな、コレ!)
一ノ瀬は廊下を歩く人達に少し怪しがられながらも、声を掛けられそうになるたび、しーっと人差し指を立てた。
そして、二人の会話をじっと静かに聞く。
そんな事も露知らず、雪村は志藤と浮かない顔をしたまま向き合っていた。
太一は優しい。太一は正しい。
だって、周りに流されたりなんかしないから。自分をしっかり持っていて、雪村もそれを隣で見て感じて、志藤と一度ちゃんと話してみるべきだと何度も思わされた。
けど叶わなかった。それは弱さだ。理由をつけて逃げ回った。それを一番よく分かっているのは誰でもない自分自身。そして、太一という親友を奪われたくないという……浅ましい感情。
楽しそうに自分以外の友達と笑う太一なんか、たくさん見てきている。けど志藤に対して見せる笑顔は、何故か他よりずっと特別に見えていた。他のエッグ達より、志藤に振る舞う態度や言葉や笑顔……そのすべて、何処とは言いにくいけど、すごく特別に見えた。
そして、その太一に向ける志藤の笑顔だって、ずっとずっと特別だった。ステージで見せてくれる、あの「大丈夫」と笑う優しい笑顔によく似ていたのだ。
「………キ……、ユキくん、ユキくん!」
突然大きな呼び声がして、雪村はハッとして隣の一ノ瀬を見下ろした。
「な、なに?」
「ケータイ鳴ってたよ。メールかな」
一ノ瀬の言葉に鞄の中から携帯電話を取り出すと、確かにメールが1件入っていた。相手はクラスメイト。レッスン頑張ってる~?なんていう呑気なメールだ。
ぼちぼち、と打ち返しながら、雪村はメールを打つ手を止めた。そしてやっぱりその文を全部消すと、「頑張るよ」とだけ打ち返した。
そして何も言わずに隣を歩く一ノ瀬を振り返る。
「すまん、イチ。母親から……買い出し頼まれてるから、俺はここで。また明日な」
そう言って今まさに真隣にあるスーパーを指差す雪村に、一ノ瀬は小さく頷き「じゃあ、また明日ね」と地下鉄の入り口を目指した。
目指したけど、ふと振り返った先に見えた雪村がスーパーに入らず、走ってスタジオに引き戻したのを見てしまった。
だから思わずそれを追いかけ、駆け出す。
雪村と一ノ瀬じゃリーチも違う。しかも雪村は足も早い。
体力に大きな差などないと思ってはいたが、雪村はペースを崩さないまま走り続けた。ゼーゼーと息をしながら、一ノ瀬がようやくスタジオにたどり着いた時、すでに雪村は志藤のいるレッスンスタジオの前で上がった息を静かに落ち着かせ、クールダウンを終わらせるところだった。
「足……はっや」
口の中は血の味がする。
額にはじんわりと汗が噴き出してきて、とりあえず水!と一ノ瀬は自販機で飲み物を購入すると、志藤のもとに行ってしまった雪村の後を追ってさっきまで使っていたレッスンスタジオの前に立った。
そーっと扉を開き、わずかな隙間から中を覗く。
雪村と志藤は向かい合っている。
さすがに声は聞こえないか……と諦めそうだったが、
「あゆむ」
そう呼んだ雪村の声がうっすらと聞こえ、一ノ瀬はその場に座り込んで水を一口喉に流し入れた。
(やべ。聞き耳立てて盗み見して……、ちょっと興奮すんな、コレ!)
一ノ瀬は廊下を歩く人達に少し怪しがられながらも、声を掛けられそうになるたび、しーっと人差し指を立てた。
そして、二人の会話をじっと静かに聞く。
そんな事も露知らず、雪村は志藤と浮かない顔をしたまま向き合っていた。
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