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告白
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静まり返るスタジオ。
そして、ゆっくりと志藤を振り返った太一は、昨日から泣き腫らした真っ赤な目で彼を見上げ、まるで吸い寄せられるように志藤の元へふらふらと近づいていった。
近づいてくる太一を真正面から待ち構え、志藤は涙目のその瞳を、まるで睨むような強い眼差しで見つめた。だがそんな志藤を太一は大事そうに引き寄せると、その肩口に顔を埋めて泣いた。
「ごめんね……ごめん。ごめん、歩くん」
太一の気持ちも考えずに強引にキスしたのは志藤の方だ。謝るべきは志藤の方。はらいせだなんて酷いことまで言っている。なのに太一が謝った。
「歩くんの言う通りだ。何も知らなければ、上手く……いってた。歩くんがそれを望むなら……、もう何も追求しないし、詮索も弁解もしない」
震える声は、許しを請うような縋る声で、太一の口にした弁解の意味を志藤は考える。本当に野瀬とは何もないのかもしれない、と。だけど何もなかったとしても、野瀬のことを好きならそれは同じことだ。
「傷つけ合うくらいなら、知らないふり……するよ」
野瀬とはもう会わない。
そう付け加えようかどうか迷って……、だけど太一はその約束ばかりはどうしても出来なかった。
朝、起きたらもう家に野瀬はいなかった。母親から教えてもらったのは、野瀬が「また会いに来る」と言っていたこと。母は、優しい友達ね、大事にしなさい、と微笑んだ。本当にそうだと思うから、やっぱり太一は野瀬を切り捨てることなんて出来なかった。ずっと友達でいたいと、そう思うのだ。
「……許して、くれるの?」
なのに、こんな自分勝手な思いを抱いているのに、そう聞いてきたのは志藤の方だった。
「……え?」
聞き返すと、志藤はさっきとは違う頼りない瞳で俯き、ぽつり、ごめんと謝った。
「……あんなことして、ホントごめん……」
それはキスのことだろう。
ぬか喜びだったキス。だけどそれは、逆にあり得なかった行為を可能にしてくれたラッキーキスだったと前向きに捉えることも……出来なくもない。
太一はまだ覚えている志藤の唇の感触を思い出して、ふと唇に触れ……ほんのりと頬を赤らめた。
「……いいよ」
志藤のことが好きだから、むしろラッキーだった。そう思うようにして微笑みかける。その笑顔が志藤には堪らなく切なく見えた。胸は痛み、はらいせなんて……嘘だと心が叫びあげる。
言うべきじゃない。言うべきじゃない。そう思うのに、もう……我慢できなかった。
「たいちゃん……。もう、知ってると思うけど……、ごめん。好きなんだ」
キスまでしてしまったのだ。志藤から言わせれば、これ以上分かりやすい感情表現はない。それでも、なんであんなことしたんだと聞いてくるど天然の太一に、はっきりと思いを伝える。
はらいせなんかじゃないんだと。
だけど、やはり太一は困ったような……悲しい瞳を浮かべ、「うん」と頷くだけで、ごめんもありがとうも、なにも言ってはくれなかった。
そして、ゆっくりと志藤を振り返った太一は、昨日から泣き腫らした真っ赤な目で彼を見上げ、まるで吸い寄せられるように志藤の元へふらふらと近づいていった。
近づいてくる太一を真正面から待ち構え、志藤は涙目のその瞳を、まるで睨むような強い眼差しで見つめた。だがそんな志藤を太一は大事そうに引き寄せると、その肩口に顔を埋めて泣いた。
「ごめんね……ごめん。ごめん、歩くん」
太一の気持ちも考えずに強引にキスしたのは志藤の方だ。謝るべきは志藤の方。はらいせだなんて酷いことまで言っている。なのに太一が謝った。
「歩くんの言う通りだ。何も知らなければ、上手く……いってた。歩くんがそれを望むなら……、もう何も追求しないし、詮索も弁解もしない」
震える声は、許しを請うような縋る声で、太一の口にした弁解の意味を志藤は考える。本当に野瀬とは何もないのかもしれない、と。だけど何もなかったとしても、野瀬のことを好きならそれは同じことだ。
「傷つけ合うくらいなら、知らないふり……するよ」
野瀬とはもう会わない。
そう付け加えようかどうか迷って……、だけど太一はその約束ばかりはどうしても出来なかった。
朝、起きたらもう家に野瀬はいなかった。母親から教えてもらったのは、野瀬が「また会いに来る」と言っていたこと。母は、優しい友達ね、大事にしなさい、と微笑んだ。本当にそうだと思うから、やっぱり太一は野瀬を切り捨てることなんて出来なかった。ずっと友達でいたいと、そう思うのだ。
「……許して、くれるの?」
なのに、こんな自分勝手な思いを抱いているのに、そう聞いてきたのは志藤の方だった。
「……え?」
聞き返すと、志藤はさっきとは違う頼りない瞳で俯き、ぽつり、ごめんと謝った。
「……あんなことして、ホントごめん……」
それはキスのことだろう。
ぬか喜びだったキス。だけどそれは、逆にあり得なかった行為を可能にしてくれたラッキーキスだったと前向きに捉えることも……出来なくもない。
太一はまだ覚えている志藤の唇の感触を思い出して、ふと唇に触れ……ほんのりと頬を赤らめた。
「……いいよ」
志藤のことが好きだから、むしろラッキーだった。そう思うようにして微笑みかける。その笑顔が志藤には堪らなく切なく見えた。胸は痛み、はらいせなんて……嘘だと心が叫びあげる。
言うべきじゃない。言うべきじゃない。そう思うのに、もう……我慢できなかった。
「たいちゃん……。もう、知ってると思うけど……、ごめん。好きなんだ」
キスまでしてしまったのだ。志藤から言わせれば、これ以上分かりやすい感情表現はない。それでも、なんであんなことしたんだと聞いてくるど天然の太一に、はっきりと思いを伝える。
はらいせなんかじゃないんだと。
だけど、やはり太一は困ったような……悲しい瞳を浮かべ、「うん」と頷くだけで、ごめんもありがとうも、なにも言ってはくれなかった。
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