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決勝戦開幕!

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 ついに来てしまったこの瞬間。太一が日本に残るか否かのジャッジが今始まる。

 まだ先だ
 まだ先の話だ

 そう思いながらもう二ヶ月も経っていた。
 あっという間の二ヶ月。いや、正確には二ヶ月も経っていない。この時が想像以上に早く来るだろうと覚悟はしていたけど、やっぱり想像通りだった。

 太一とマメに連絡を取り合っていたのは、もしも太一が渡米してしまったらと考えると、あまりに寂しかったからだ。何もしないまま見送るだけなんて絶対に嫌だったから。だから、毎日のように連絡した。レッスンの邪魔になっているんじゃないかと思い、何度も聞いた。ちゃんと寝れてるか?とか、明日も早いのか?とか。

 太一からの返事は「大丈夫だよ」とあの柔らかい微笑みが見えるような優しい返事ばかりだった。「すごくいい息抜きになってる」と言ってくれた。
 そう言ってくれたから、余計にメールをやめるタイミングも逃し、彼女かよ!と突っ込みたくなるくらいメールした。

 だけど、今日。分かってはいたけど返事はなかった。

 会場で応援してるからと送ったけど、それが既読されたかどうかも怪しいところだ。

 コンサート前の太一がどういうスケジュールで動いているのか分からない中原には、返事がもらえなかったことが、少し不安だった。忙しいだけだと言い聞かせるが、野瀬から少し聞いた太一の不安定な状況じゃ、不安にならないはずはない。

 野瀬は、太一の涙を直接拭った張本人だ。毎日のように太一と連絡を取り合っていても、中原にはそれが出来なかった。それが悔しいとか憎らしいなんてことはない。ただ、猛烈に情けなかった。

 いい息抜きになる、という太一の言葉に満足していた自分が情けなくて、なんでもっと優しくできなかったんだろうとか、なんでもっと話を聞いてやれなかったんだろうとか、なんで時間を見つけて会いに行かなかったんだろうと後悔して、情けなくて、苦しかった。
 だが、野瀬が太一の側にいてくれたのだと思うと、少しだけ安心もできた。自分じゃどこまで太一を癒せるか、とてもじゃないが自信がないから。

 野瀬を信頼している。だから、むしろこれで良かったのだろうと、中原は野瀬の横顔を見つめた。

 だがそんな野瀬は、双眼鏡を取り出してばっちり照準を階段に合わせている最中だった。この愛すべきアイドルオタクに中原はがっくり肩を落とすと、内輪を握り直して再びステージへと視線を戻した。


『それでは登場していただきましょう! デビューを賭けた少年たちの本気の戦い! エッグバトル、開幕ですっ!』


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