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「沖、行くな」

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『月曜日代表! 喧嘩するほど仲がいい、三組中一番のトラブルメーカー、Monday Monster!』

 MCの紹介を合図に上下かみしもに分かれている雪村と志藤が歩み出す。その志藤の背中は、言葉なく太一に「行こう」と語りかけた。決して大きくないその背中だけど、どれだけ追いかけ続けた背中だろうか。いつもいつもこういう舞台の上じゃ、はるか後方から見つめ続けていた背中だ。それが手を伸ばせば届く距離にあって、肩だって並べられるようになった。改めて、これは奇跡だと、志藤の背中を見つめながら太一は心臓を高鳴らせた。

 前方からは笑顔の雪村と一ノ瀬が歩いてきていて、中央で横一列に並ぶと、沸き上がっていた歓声がより一層大きく会場に響き渡った。
 四人が一列に並んでもまだ余裕のある階段幅。高いその位置から見えるのは人でびっしりと埋め尽くされた会場の風景。メインステージからアリーナに伸びる花道は丸みを帯びたH字。より多くの客席を確保するためだろうか、そこにセンターステージはない。

 見たことないほどの観客数。聞いたこともないくらいの歓声。それは気付かなかったガラス戸にぶつかった時のような衝撃だ。

 一年前のANNADOLはANNADOLなんて名前すらなくて、ほぼ無名なアイドル集団だった。業界内では大手プロダクションから新屋分けしてもらった事務所として、そこそこ注目されてはいたが、世間にすぐ浸透することはなかった。
 ほとんど無名だった少年たち。一年も経たず、ここまでの人気と知名度を得た。

『難易度の高いダンスと圧巻のシンクロ率、力のある歌声でこの勝負に挑みます! 月曜の怪物、ここに参上です!』

 客席を煽るようなMCの紹介に吠えるような歓声が上がり、太一は思わず客席に目を凝らしてしまった。男性の声の方が大きい気がしたからだ。だがそんなこと気にもとめない雪村は歓声へ応えるように手を挙げると、ヒラヒラとそれを振って見せた。そして志藤と息を合わせたように一緒に階段を下り始めると、一段遅れで太一と一ノ瀬もその後を追った。
 ふと一ノ瀬を見ると、彼は意気揚々とした表情でまっすぐ前を見ていたが、太一の視線に気付くと可笑しそうに笑った。

「うちは、男性ファンの方が多そうだね」
「あ、やっぱり?」

 さっきの歓声が聞き間違いではなかったのだと分かると、太一もなんだか笑えてきて、二人でくすくす笑い合う。笑う太一に、雪村と志藤が振り返ると「なに笑ってんだよ」とどこか嬉しそうな笑顔を向けた。
 さっきまで俯いていた太一を見ているから、そうやって笑ってくれたことが二人には嬉しかった。

「いや、ごめん。なんでもないよ」

 ヘッドマイクは歌うときしか使用しない。手に持っているマイクを近づけない限り、声を拾われることはない。

「なんだよ、内緒かよ」

 階段を下り終わっても尚、くすくす笑う太一に雪村がペチンッと頭を叩くと、はにかむ太一と雪村に、今度は黄色い歓声が上がった。

「あ、女の子いた」

 バミられている場所まで歩く中、一ノ瀬が黄色い歓声にそんなことを呟くと、太一はまた笑いを零した。「女明らかにいるだろ!」とツッコむ雪村に更に笑いが込み上げる。
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